99%興味【打ち切り】

朝陽ヨル(月嶺)

文字の大きさ
61 / 73
二章〈fireworks〉〜儚いひと夏の花〜

 アナスタシアの仕事の都合で平日は難しく、花火は日曜日にすることに決まった。それまでは夏休みの宿題をしたり、夏休みの特番を観たり、読書をして過ごしていた。目的の花火を買うのも忘れていない。
 そして日曜日の夜。薄っすらと暗くなった時間に家の前で待っていると見るからに高級そうな車が停まった。運転席からわざわざ運転手が出てきて後部座席の扉を開けてくれる。

「どうぞ」
「あ……どうも」
「やっほー」
「おう」

 後部座席には意気揚々としている有馬が乗っていた。開襟したポロシャツ姿はチャラく見える。
 有馬が隣にずれて、空いた席に座りシートベルトを装着する。
 運転手も運転席に戻りエンジンをかけた。
 父親……ではないよな、明らかに日本人だし

「本日はよろしくお願い致します。ドライバーの佐久間と申します」
「あ、ああっ、明路拓っていいますっ。運転よろしくお願いします!」
「はい、承りました」

 車は静かに発進する。車体が大きいからなのか安定感もバッチリだ。

「俺は親しみを込めてジョーって呼んでるんだ。藍庭家の専属ドライバーなんだよ」
「へ、へえ……専属なんているのか。スゲーな……」
「あの……実はさ、いつも学校帰りはジョーに迎えに来てもらってるんだ」
「え、いつも電車で帰ってるだろ。違ったのか?」
「ごめん、電車はフェイクなんだ。予めジョーにいつ頃終わるか連絡しといて、いつもの分かれ道で別れてから、駅前で迎えの車に乗って帰ってるんだよ」
「そうなのか。それって学校の日は毎日ってことか?」
「うん、そうだね」
「それって面倒くさくねぇか? どうせ迎えに来るなら校門前とか、もっと近くに来てもらえばいいだろ」
「それだと目立っちゃうからね」

 そう言って苦笑する有馬。目立つのが好きなクセに気にすることなのだろうか。

「金持ちだって知られたくないし、この年で迎えに来てもらってるなんて恥ずかしいからさ」

 金持ちだと知られたくない。特定の相手しか家に呼ばないと言っていたのはこういう理由もあるんだろう。

「金持ちって分かったからってなんかあるわけでもねぇと思うけど。それに金持ちのお坊ちゃんって、こういう車で送迎されてるイメージがないこともないし、別に恥ずかしいことってわけじゃないんじゃねぇの」
「俺の考え過ぎなのかな……」

 あんなに機嫌が良さそうだったのに今は沈んでいる。ころころと表情が変わる。気持ちの変化が激しくて、実は繊細なのかもしれないと最近になって思う。

「俺としてはさ、ちょっとの距離だけど、あの分かれ道までチョコと一緒に帰れるのが嬉しいんだ。だから迎えのシステムはこのままでいいと思ってるんだよ。校門まで来てもらったらチョコと一緒に帰れないだろ?」
「んあ、ああ……そう、だな」

 有馬もあの数分の帰りを嬉しいと思ってる。それを聞いたら嬉しくなって反応が遅れた。それと同時に、この会話を佐久間さんも聞いてるのだと思うと複雑な気分にもなる。
 敷地に入り家の前で停車する。降りると車は車庫へ向かっていった。
 何度見てもこの庭も建物も全てが上等で驚嘆してしまう。

「さっ、行こっか」
「なあ」
「ん?」

 入って行こうとする有馬を引き止めて、聞こうか聞くまいか思案していたことを聞くことにする。後悔してからでは遅い。有馬の耳にそっと近づいてひそひそと囁く。

「佐久間さんとか家政婦さんとか、俺たちが付き合ってること知ってるのか?」
「知らないと思うよ。そもそも俺がバイってことも知らないから」
「じゃあどうしてアナスタシアには付き合ってるって言ったんだ? 俺がアナスタシアを恋人と勘違いしたからハッキリさせる為か……?」
「勘違いは想定外だったけど、初めから恋人だって紹介するつもりだったよ」
「なんで? 普通に友達だって言っても良かっただろ」
「それは……」

 ガチャン

「おや、有馬坊ちゃんじゃないか」

 目鼻立ちがくっきりとしたエキゾチックな顔立ちの日焼けした女性が家から出てきた。

「友だち連れて晩餐会するのかい?」
「いいえ、これから花火するんですよ。ヴァレンも一緒にどうですか?」
「お誘いは嬉しいけど、これから夕飯作らないとだからねぇ。旦那とチビたちが待ってるからさ」
「ああそっか……気をつけて帰ってくださいね」
「はいよ。ありがとう。お友達も、花火楽しみな」
「あ、はい」

 気さくに話しかけてくれたその女性は、ウェーブのかかった長い黒髪を靡かせながらその場を去っていく。

「今の人はここの庭師なんだよ」
「庭師って……庭作る……? えっ、このやたら広い庭作ったのか!?」
「あはははっ。作った時は勿論一人じゃないよ。今は定期的に手入れをしてくれてるんだ。季節の変わり目なんかは他の庭師も来て一斉に伐採したりもしてるよ」
「へえ。つーか女の庭師っているんだな。男ばっかなイメージあるけど」
「実際男ばっかりみたいだよ。体力がいるし、成り上がるのに苦労したって。親方に認めてもらえないと木一本すら任せてもらえないらしいから」
「そういう職人の世界って厳しそうだよな……」
「そうだね。それだけ夢に向かってひたむきに努力出来るっていうのは素晴らしいと思うよ」
「夢、なぁ……」
「行こう。アーシャが待ってるよ」
「お、おお」

 結局、どうしてアナスタシアにだけ恋人として紹介したのかという謎は聞けずじまいだ。
 家に入ったらまた家政婦たちに迎えられるのかと緊張していたがそんなことはなかった。玄関には誰もいない。

「あれ……今日はあの家政婦さんたちいないのか」
「家政婦さんたちは夕方までだからこの時間にはいないよ」

 そう言われると、今日はもう他に会うとしたらアナスタシアか他の家族くらいだろうと安心し、ほっと胸を撫で下ろした。初対面の人や慣れない人と会うのは根気が必要だ。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話