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二章〈one's going〉~互いの決意を胸に刻んで~
一 有馬視点
『ロシアに行く?』
チョコとの通話で俺の夏休みの予定を伝えた。
チョコが治療に専念するんだ、俺も頑張らないと
「そう。毎年夏休みにはロシアに行ってパーパと会うんだよ。パーパは母国のロシアを一つの拠点として事業を興しているんだ」
『じゃあ、日本にはあんまり来ないのか?』
「そうだね。元々別の場所で起業して活躍してたんだけど、ロシアでも新しいことを始めたらしくてね。マーマも社長だから忙しいみたいで、マーマの日程に合わせて滞在は二週間くらいかな。夏休み終わるくらいには戻ってくるハズだよ」
『二週間か……せっかく行くんだし楽しんでこいよ』
「うん……この時期は過ごしやすいからリラックス出来ると思う。それでさ、パーパに会ったらアーシャとの婚約を解消してもらうように話してみる。アーシャもそれでいいって言ってくれたから」
『そうなのか。上手く話せるといいな』
「チョコも治療頑張って。無茶だけはしないようにね。辛くて泣きたくなっても、俺はすぐに駆けつけられないから……」
『誰が泣くか。寧ろお前の方がビービー泣くんじゃねぇの?』
「ははは、そうかもね」
結果がどうなるかはわからない。父親と婚約について話すのなんていつ以来だろう。もうずっと小さい頃に決まったことだ。決まった当時はアーシャのことを人として好きだから婚約者として受け入れていたし、今だってアーシャのことは好きだ。けれど恋愛対象として見てるわけじゃない。小さい頃からのなあなあとした関係は、アーシャにとっても良くない。アーシャもちゃんと好きな人と一緒になってもらいたい。俺も後ろめたさなんか無く、堂々とチョコと一緒にいたいから。
『……有馬』
「なんだい?」
『ロシア行く前に……ちょっとだけ会えないか?』
チョコからのお誘い……!
「……あ……明日にでも会う?」
『大丈夫なのか? 連チャンで』
「行く準備は前日にでもすればいいし。……俺も、二人きりで会いたいから」
アーシャとジョーと花火をしたのは楽しかった。でもチョコと二人きりで楽しみたいことだってある。
『じゃあ……明日な』
「うん、また明日」
時間と待ち合わせ場所を決めて会う約束。れっきとしたデート。これで喜ばないことなんてない。
通話が切れた後には衣装部屋に向かう。服や小物はお気に入りの選りすぐりが揃っている。
「明日はどれを着よう」
明日が楽しみで仕方ない。明日直感で選んでもいいが、デートのことを考えてゆっくり選ぶのもそれだけでワクワクする。
✿✿✿✿✿
次の日になり、準備しておいた服や小物を身に付けて髪もしっかりと整える。睡眠も十分でコンディションは完璧だ。
待ち合わせはこの前に行ったデパートの最寄り駅。待ち合わせ時間より少し早く着いたけど、チョコは既に待っていた。
「やあ、おはよう」
「ん、はよ」
「早いね。もしかして待たせてた?」
「いや、ほんの数分前に着いた」
「そっか、それなら良かった」
自分でも早く着いたと思っていたのに、チョコの方が早く着いていたなんて。よっぽど俺に会いたかったということかな?
「今日はどうしようか」
「またあのデパートに行ってもいいか? とりあえず昼飯食おうぜ」
「わかった」
デパートの上の階はレストラン街になっていて、案内板を見て食べたい物をすり合わせながら店を選んだ。結果、パスタ屋になった。
「お待たせ致しました」
運ばれてきたのは二人分のパスタとピザ。後にドルチェもついてくる。
「いただきます」
「いただきます……」
チョコはカルボナーラ、俺は大盛りのたらこスパゲッティをチョイスした。ピザは具だくさんマルゲリータ。
「食えるのか、そんな……」
「余裕だよ」
まずはたらこスパゲッティを巻いて口に運ぶ。たらこにバター、海苔の香りが鼻腔をくすぐる。
「う~んいいね! この香りとプチプチ感!」
「お前こういう小洒落た感じの料理似合うよな」
「んう……? ……そうかな? 料理に似合う似合わないってあるかい?」
「雰囲気っつーか……やっぱハーフだからかもな。日本食食ってるよりサマになってる感じする」
「それは……、ほへへふほはひ?」
「ふはっ、何言ってるかわかんねー」
ただ一緒に食事をしてるだけなのにチョコが笑ってくれる。こうやって食卓を囲むだけで笑いが起こる。なんて幸せなことなんだろう。もっと遠い未来の話、一緒に食卓を囲んで笑って暮らせることが出来る、そんな未来を望んでいるのか、そんな夢を見ることがある。
「……チョコの料理、食べてみたいな」
「んあ? あー……エプロンもらったしな。まあいつかそういう機会があったら作ってやるよ」
「ホント!? 約束だよ!」
「あ、ああ……」
ふと溢した呟きだったけど、ちょっと引き気味に約束してくれた。俺が考えてる夢はまだ遠すぎる。もっと近く、今出来ることからやって少しずつ近づいて行かないと。俺は目的の為ならしぶとい男なんだ。
パスタ、ピザ、ドルチェとしっかり食べ終えた俺たちはデパート内をフラフラと歩いていく。沖縄物産展がやっていて中を覗いてみた。
「へえ、美味そう」
「はっ、コレは!」
ビビッときたソレはシーサーの置物で、俺はすかさず持ち上げてみる。適度な重さ、くすみ具合、そしていい表情。
「コレは買いだな!」
「俺にはその良さはわかんねぇけど……まあ、気に入ったのがあって良かったな。俺もちょっと買ってくるわ」
「わかった。俺はもう少し見たら買ってくるよ」
シーサーの色違いで迷う。それから他に焼き物があって目移りしながら数点買い物をして、思わぬところでコレクションが増えた。
チョコと合流すると物産展売り場から出ていく。歩き出すチョコについて行って、なんとなく向かってる方向は出口なような気がした。
「どこか遊びに行く?」
問いかけてみたけれど、チョコはもうどうするか決めているようだった。でもそれを言い出せないでいる、躊躇っている感じがする。そわそわとして落ち着きがない。
「チョコ?」
「…………今日、これから…………お前ん家って行けるか?」
俺は直感した。チョコのそれは何かを決意している顔だった。だから否応なしに緊張が高まる。
「あ……、うん……行ける、よ」
そう返事をして、それから俺の家へと向かった。期待を胸に秘めながら。
チョコとの通話で俺の夏休みの予定を伝えた。
チョコが治療に専念するんだ、俺も頑張らないと
「そう。毎年夏休みにはロシアに行ってパーパと会うんだよ。パーパは母国のロシアを一つの拠点として事業を興しているんだ」
『じゃあ、日本にはあんまり来ないのか?』
「そうだね。元々別の場所で起業して活躍してたんだけど、ロシアでも新しいことを始めたらしくてね。マーマも社長だから忙しいみたいで、マーマの日程に合わせて滞在は二週間くらいかな。夏休み終わるくらいには戻ってくるハズだよ」
『二週間か……せっかく行くんだし楽しんでこいよ』
「うん……この時期は過ごしやすいからリラックス出来ると思う。それでさ、パーパに会ったらアーシャとの婚約を解消してもらうように話してみる。アーシャもそれでいいって言ってくれたから」
『そうなのか。上手く話せるといいな』
「チョコも治療頑張って。無茶だけはしないようにね。辛くて泣きたくなっても、俺はすぐに駆けつけられないから……」
『誰が泣くか。寧ろお前の方がビービー泣くんじゃねぇの?』
「ははは、そうかもね」
結果がどうなるかはわからない。父親と婚約について話すのなんていつ以来だろう。もうずっと小さい頃に決まったことだ。決まった当時はアーシャのことを人として好きだから婚約者として受け入れていたし、今だってアーシャのことは好きだ。けれど恋愛対象として見てるわけじゃない。小さい頃からのなあなあとした関係は、アーシャにとっても良くない。アーシャもちゃんと好きな人と一緒になってもらいたい。俺も後ろめたさなんか無く、堂々とチョコと一緒にいたいから。
『……有馬』
「なんだい?」
『ロシア行く前に……ちょっとだけ会えないか?』
チョコからのお誘い……!
「……あ……明日にでも会う?」
『大丈夫なのか? 連チャンで』
「行く準備は前日にでもすればいいし。……俺も、二人きりで会いたいから」
アーシャとジョーと花火をしたのは楽しかった。でもチョコと二人きりで楽しみたいことだってある。
『じゃあ……明日な』
「うん、また明日」
時間と待ち合わせ場所を決めて会う約束。れっきとしたデート。これで喜ばないことなんてない。
通話が切れた後には衣装部屋に向かう。服や小物はお気に入りの選りすぐりが揃っている。
「明日はどれを着よう」
明日が楽しみで仕方ない。明日直感で選んでもいいが、デートのことを考えてゆっくり選ぶのもそれだけでワクワクする。
✿✿✿✿✿
次の日になり、準備しておいた服や小物を身に付けて髪もしっかりと整える。睡眠も十分でコンディションは完璧だ。
待ち合わせはこの前に行ったデパートの最寄り駅。待ち合わせ時間より少し早く着いたけど、チョコは既に待っていた。
「やあ、おはよう」
「ん、はよ」
「早いね。もしかして待たせてた?」
「いや、ほんの数分前に着いた」
「そっか、それなら良かった」
自分でも早く着いたと思っていたのに、チョコの方が早く着いていたなんて。よっぽど俺に会いたかったということかな?
「今日はどうしようか」
「またあのデパートに行ってもいいか? とりあえず昼飯食おうぜ」
「わかった」
デパートの上の階はレストラン街になっていて、案内板を見て食べたい物をすり合わせながら店を選んだ。結果、パスタ屋になった。
「お待たせ致しました」
運ばれてきたのは二人分のパスタとピザ。後にドルチェもついてくる。
「いただきます」
「いただきます……」
チョコはカルボナーラ、俺は大盛りのたらこスパゲッティをチョイスした。ピザは具だくさんマルゲリータ。
「食えるのか、そんな……」
「余裕だよ」
まずはたらこスパゲッティを巻いて口に運ぶ。たらこにバター、海苔の香りが鼻腔をくすぐる。
「う~んいいね! この香りとプチプチ感!」
「お前こういう小洒落た感じの料理似合うよな」
「んう……? ……そうかな? 料理に似合う似合わないってあるかい?」
「雰囲気っつーか……やっぱハーフだからかもな。日本食食ってるよりサマになってる感じする」
「それは……、ほへへふほはひ?」
「ふはっ、何言ってるかわかんねー」
ただ一緒に食事をしてるだけなのにチョコが笑ってくれる。こうやって食卓を囲むだけで笑いが起こる。なんて幸せなことなんだろう。もっと遠い未来の話、一緒に食卓を囲んで笑って暮らせることが出来る、そんな未来を望んでいるのか、そんな夢を見ることがある。
「……チョコの料理、食べてみたいな」
「んあ? あー……エプロンもらったしな。まあいつかそういう機会があったら作ってやるよ」
「ホント!? 約束だよ!」
「あ、ああ……」
ふと溢した呟きだったけど、ちょっと引き気味に約束してくれた。俺が考えてる夢はまだ遠すぎる。もっと近く、今出来ることからやって少しずつ近づいて行かないと。俺は目的の為ならしぶとい男なんだ。
パスタ、ピザ、ドルチェとしっかり食べ終えた俺たちはデパート内をフラフラと歩いていく。沖縄物産展がやっていて中を覗いてみた。
「へえ、美味そう」
「はっ、コレは!」
ビビッときたソレはシーサーの置物で、俺はすかさず持ち上げてみる。適度な重さ、くすみ具合、そしていい表情。
「コレは買いだな!」
「俺にはその良さはわかんねぇけど……まあ、気に入ったのがあって良かったな。俺もちょっと買ってくるわ」
「わかった。俺はもう少し見たら買ってくるよ」
シーサーの色違いで迷う。それから他に焼き物があって目移りしながら数点買い物をして、思わぬところでコレクションが増えた。
チョコと合流すると物産展売り場から出ていく。歩き出すチョコについて行って、なんとなく向かってる方向は出口なような気がした。
「どこか遊びに行く?」
問いかけてみたけれど、チョコはもうどうするか決めているようだった。でもそれを言い出せないでいる、躊躇っている感じがする。そわそわとして落ち着きがない。
「チョコ?」
「…………今日、これから…………お前ん家って行けるか?」
俺は直感した。チョコのそれは何かを決意している顔だった。だから否応なしに緊張が高まる。
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