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Ifの短編
ラーの誕生日2022年SS
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五月十九日はラーの誕生日であり、その日は国を挙げての祭りとなる。国中の人々が一斉に王の健康や国の繁栄の祈りを捧げ、宮殿でも巷でもどこの家庭でもどんちゃん騒ぎすることが恒例である。
――王族皇族の祝賀行事ってのは大半の一般庶民にとっちゃあんまり関係ねえように思えたが、この国じゃ大々的に祝うんだな。まるでクリスマスみてえだ
「アレッシュさん、はい、今日はたんまりお料理作ったわよ」
「おおー、これは凄いご馳走ですね」
アレッシュが泊まっている下宿屋も例に洩れず、女将が腕をふるい食卓には祝い事に出される数々の伝統料理が並んでいる。
――忙しくてさすがに今日の主役に呼ばれることは無えよな。間接的ではあるが、酒でも呑んで気持ちくれえは祝ってやるか
ぼんやりとラーのことを考えながら女将と酒を酌み交わし昼間を過ごしていたのだが予想は外れる。持たされた携帯機器に一通のメールが届いており、開けばいつものように簡潔な文章が表示される。
『二三時三十分 宮殿へ来い』
「まーた随分と……要件打てって言ってんのに。つか今日時間空くのか?」
いつものことだがラーは多忙であり、そして今日は尚のこと忙しいに違いない。普通ならアレッシュと会う時間など取れるわけもない筈なのだが。
「まあ来いって言うんだから行ってやるか」
――二三時ニ十分。
宮殿に予定より早めに到着し、応接間へ通され待つ。ラーがやって来たのは五十分頃だった。ラーにしては約束時間から二十分遅れなど早い方である。
ラーが応接間に入ってくるとアレッシュは前に立ち軽く礼の構えを取った。下僕たちの気配は感じられず人払いをしていることは確かだが念には念を入れる。それにどんなに親しかろうがいきなり王の前で礼を欠くことは紳士の恥というものだ。
今日のラーは制服ではなく、伝統服なのか私服なのかわからないがとにかく華美で派手な格好をしている。その装いがどうにも式典や儀式のようで否が応でも気を引き締めさせる。
「私に言うことがあるだろう」
「言うこと? はて……なんでしょうか」
「しらばくれるな。祝辞を述べてみよ」
「それ、自ら乞います?」
「あと数分しかないからな」
「いやそういうことではなくて、祝いの言葉というのは祝う気持ちがあってこそのものだと」
「祝う気持ちが無いと言うのか」
「そうではないんですが、そう急かさずとも。それに今日は散々他の方々に言われてきたでしょうし」
「ああ。しかしお前からは聞いていない。さあ言え」
「……」
ラーがじとっと睨みつけるように見てくる。その視線の居心地悪さにアレッシュはさっと目を逸らした。
ラーはお構いなしに見続け口を開く。
「意見と同様、同じ言葉でも人によって意味や価値が変わる。私はお前の言葉が聞きたい」
「やたら今日は素直じゃないですか」
「そう言うお前はやたらいじらしいな」
「バカにしてます?」
「焦らすお前が悪い」
時計の針を見やり短く溜息を吐いた後、アレッシュは観念したようにラーへ視線を合わせ表情を引き締めた。しかし気持ちは緩めるようにして。
「……誕生日おめでとう、マニス。祝福するぜ」
「ふむ」
「っ!?」
アレッシュは息を呑みその場で固まる。何故ならラーが抱きついてきたからだ。
「どうした、おかしな顔をして」
「アンタがどうしてか抱きついてくるから驚いてんだよ」
「ハグする理由などあいさつか嬉しい時にするものだろう。何を驚くことがある」
「アンタがっ……ああ……いや、なんでもねえ」
「ふっ。お前が狼狽えるのは見物だな」
「やっぱバカにしてんだろ」
「ときにアル、今日は疲れた。私はこれから風呂に入り身体を労う必要がある。お前に同伴を許してやるが……どうする?」
わざと間を空けて問いかけ、含みのある笑みを浮かべるラー。
そしてアレッシュも似たような笑いを向けた。
ラーが命令をしたわけでもなければ頼んでいるわけでもない。この後どうするかはアレッシュ自身の判断に委ねられているが、それはいつものこと。誕生日など関係なく、そもそも誕生日はもう過ぎている。なんら特別なことは無い。
「Shall we dance until morning tonight?」(今夜は朝まで踊るか?)
「I said that I was tired. It is in ...... moderation」(私は疲れたと言ったはずだが。……ほどほどに)
END
――王族皇族の祝賀行事ってのは大半の一般庶民にとっちゃあんまり関係ねえように思えたが、この国じゃ大々的に祝うんだな。まるでクリスマスみてえだ
「アレッシュさん、はい、今日はたんまりお料理作ったわよ」
「おおー、これは凄いご馳走ですね」
アレッシュが泊まっている下宿屋も例に洩れず、女将が腕をふるい食卓には祝い事に出される数々の伝統料理が並んでいる。
――忙しくてさすがに今日の主役に呼ばれることは無えよな。間接的ではあるが、酒でも呑んで気持ちくれえは祝ってやるか
ぼんやりとラーのことを考えながら女将と酒を酌み交わし昼間を過ごしていたのだが予想は外れる。持たされた携帯機器に一通のメールが届いており、開けばいつものように簡潔な文章が表示される。
『二三時三十分 宮殿へ来い』
「まーた随分と……要件打てって言ってんのに。つか今日時間空くのか?」
いつものことだがラーは多忙であり、そして今日は尚のこと忙しいに違いない。普通ならアレッシュと会う時間など取れるわけもない筈なのだが。
「まあ来いって言うんだから行ってやるか」
――二三時ニ十分。
宮殿に予定より早めに到着し、応接間へ通され待つ。ラーがやって来たのは五十分頃だった。ラーにしては約束時間から二十分遅れなど早い方である。
ラーが応接間に入ってくるとアレッシュは前に立ち軽く礼の構えを取った。下僕たちの気配は感じられず人払いをしていることは確かだが念には念を入れる。それにどんなに親しかろうがいきなり王の前で礼を欠くことは紳士の恥というものだ。
今日のラーは制服ではなく、伝統服なのか私服なのかわからないがとにかく華美で派手な格好をしている。その装いがどうにも式典や儀式のようで否が応でも気を引き締めさせる。
「私に言うことがあるだろう」
「言うこと? はて……なんでしょうか」
「しらばくれるな。祝辞を述べてみよ」
「それ、自ら乞います?」
「あと数分しかないからな」
「いやそういうことではなくて、祝いの言葉というのは祝う気持ちがあってこそのものだと」
「祝う気持ちが無いと言うのか」
「そうではないんですが、そう急かさずとも。それに今日は散々他の方々に言われてきたでしょうし」
「ああ。しかしお前からは聞いていない。さあ言え」
「……」
ラーがじとっと睨みつけるように見てくる。その視線の居心地悪さにアレッシュはさっと目を逸らした。
ラーはお構いなしに見続け口を開く。
「意見と同様、同じ言葉でも人によって意味や価値が変わる。私はお前の言葉が聞きたい」
「やたら今日は素直じゃないですか」
「そう言うお前はやたらいじらしいな」
「バカにしてます?」
「焦らすお前が悪い」
時計の針を見やり短く溜息を吐いた後、アレッシュは観念したようにラーへ視線を合わせ表情を引き締めた。しかし気持ちは緩めるようにして。
「……誕生日おめでとう、マニス。祝福するぜ」
「ふむ」
「っ!?」
アレッシュは息を呑みその場で固まる。何故ならラーが抱きついてきたからだ。
「どうした、おかしな顔をして」
「アンタがどうしてか抱きついてくるから驚いてんだよ」
「ハグする理由などあいさつか嬉しい時にするものだろう。何を驚くことがある」
「アンタがっ……ああ……いや、なんでもねえ」
「ふっ。お前が狼狽えるのは見物だな」
「やっぱバカにしてんだろ」
「ときにアル、今日は疲れた。私はこれから風呂に入り身体を労う必要がある。お前に同伴を許してやるが……どうする?」
わざと間を空けて問いかけ、含みのある笑みを浮かべるラー。
そしてアレッシュも似たような笑いを向けた。
ラーが命令をしたわけでもなければ頼んでいるわけでもない。この後どうするかはアレッシュ自身の判断に委ねられているが、それはいつものこと。誕生日など関係なく、そもそも誕生日はもう過ぎている。なんら特別なことは無い。
「Shall we dance until morning tonight?」(今夜は朝まで踊るか?)
「I said that I was tired. It is in ...... moderation」(私は疲れたと言ったはずだが。……ほどほどに)
END
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