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一途な魔術師に幽閉される不幸体質だったサキュバスの話
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目が覚めたらそこは白い部屋だった。体を起こすと、ひどいめまいに襲われて頭を押さえる。魔力不足だろうか。顔に触れて確認すると、でこぼこにざらついた感触が指先に伝わって、血の気が引く。常に張っていたはずの幻覚魔法が切れてしまった。これはまずい。どうしてここにいるのかは知らないが、早く魔力の補給をしないと消滅してしまう。ふらつく足で日の差す窓辺に向かうが、開けようとした手が見えない壁に阻まれてぴたりと止まった。何度か叩くも、窓の手前の空間が透明な波紋を寄せるだけ。慌ててぐるりと見回すと隙間なく結界が張られている。まさか閉じ込められたのか。首を傾げ、昨日のことを思い出す。
確か、新月の夜だった。目を凝らして飛びながら獲物を探していたら、急にどうしようもなく腹が減って。ふとよぎったいい匂いを追って、近くの家で寝ていた男に夢中で飛び付くとそのまま意識が遠のいて……。そこまでは覚えている。そういえば、男がいたのはここと同じ造りの部屋だった。もしかして全て罠だったのか。諦めてベッドに戻り、倒れ込む。とうとう祓われるのか、または魔術の贄にされるのか。何にせよろくな末路は迎えられないだろう。思えば発生してからいいことなどほとんどないサキュバス生だった。
虚ろに思いを馳せていると部屋のドアが開き、柔和そうな顔の男が入ってくる。反射的に起き上がり身構えたがすぐに力が抜けた。もう逃げ出す魔力も気力もない。ベッドに座ったまま笑顔で近付く男をぼんやりと見やる。幻覚魔法に頼らなければまともに精も絞れない小物に随分と大がかりな仕掛けをしたもんだな。
男は興奮気味に何かをまくし立てているが、一向に頭に入らない。とりあえず腹が減った。顔を合わせたらわかったが、この男は魔術師か、もしくはその血筋の者だ。旨そうな魔力混じりの匂いがする。ごくりと喉が鳴る。現代に魔術師の才を持つものは珍しい。せめて最期に精を食わせてはくれないだろうか……。押し寄せる本能のまま舌なめずりをして両手のひらを後ろにずらし、体を反らせる。そのまま下半身を突き出すように、足を開く。
慌てたように近付いた男は、後孔を示すように尻尾をくねらせて微笑みかけると顔を赤くして生唾を飲んだ。そのまま鋭い切っ先で薄い下着を裂き、とろりと蜜をこぼす穴を見せつけてやる。
見てわかる程に下半身を膨らませた男はくしゃりと顔を歪めると堪えかねたように眉を寄せながらベッドに乗り上げ、俺の上に被さった。ここまでのせればこっちのものだ。最期の晩餐を存分に味わうとしよう。
新月が満月になりかけていたから、そろそろ半月か。未だに俺は生かされている。しかもこの、ツグと名乗る男にかなり手厚く世話をされている。したことといえば、食べて寝ること、あとは入浴だけ。対して汚れてない体を隅々まで洗われるのはむずかゆいが、大人しく座っておいた。いつも笑っているけれど、俺をここに閉じ込めた男だ。逆らえばどうされるかわからない。得体の知れない人間への恐怖は、まだ拭いきれてはいない。
そう、肝心の精だが。旨かった。ものすごく旨かった。魔術師の精というものは初めて食べたが、今まで食らってきた人間の精の味なんか全部吹っ飛んだ。濃度が桁違いだし、量も驚くほど多い。そんな代物を毎晩注がれて、今まで経験したことがないくらい腹が膨れ、全身に魔力が漲っている。不満があるとすれば前戯がやたらと長いところか。さっさと注いでほしいが、腰に足を絡めてねだってもすぐにはくれず、ねちっこく愛撫を続けている。こんな扱いを受けるのは初めてだから、辛くてもどかしくて仕方ない。わからくて、怖い。
一番落ち着かないのが素顔を晒して精を搾ることだ。どうやらこの男は、俺の素顔が好きらしい。発生したての頃に聖水をかけられて爛れたこの顔は、幻覚魔法をかけないと自分でも見れたもんじゃないのに。一度最中にかけてやったら、残念そうな顔をして首を振った。中で萎んでいくモノを感じながら、顔の削れた淫魔なんて出来損ないにも程があるだろう、見苦しくないのかと問うと、ツグは目を細めてケロイドを撫で、そこにキスを落とした。大好きな人の一部なんですから、そんなこと言わないでください。やたら悲しげに落とされた言葉に目を逸らした。淫魔に向けて好きだの何だの、戯言にも程がある。どうせ一時の道楽なのだろう。こんな言葉に惑わされる程、俺は落ちぶれていない。
満月が新月になり、また満ちた。俺の扱いは変わらないどころか食べ物は日に日に美味しくなるし、常に清潔なシーツは好みの匂いになるし、ネットというもので娯楽を見つけて暇をすることもなくなった。端的に言えばめちゃくちゃ快適だ。この生活はいつまで続くのか。こんなに楽に満たされる生活を送っていれば、その内元には戻れなくなってしまう。終わった時の絶望がより深くなってしまう。
いつ処分するのかは知らないが、せめて最後は楽に祓ってくれ。ある時膨れ上がった不安と恐怖に駆られて呟くと、食べ物を運んできたツグは驚いたように目を見開いた。お盆を置いて床に膝を着き、目線を合わせてくる。まばたきもなく見つめられ、そのまま両手を外側から握られてしまえば逃げることもできない。
「祓うなんてとんでもない。あなたが大切なこと、伝わっていませんでしたか?」
「は?」
「俺はあなたに一目惚れしたから、ここに呼んだんです。結界は解けませんが、あなたの衣食住は全て保証します。あなたはここでただ、快適に暮らしてくれればいいんです」
「お前に何の得があるんだ?」
「得もなにも、俺はあなたがここにいてくれるだけで幸せなんです。そのうち伴侶としての契約も結びましょう。もう2度と餓えさせないし、絶対に幸せにしますからね」
思わず言葉が飛ぶほどにとんでもない宣言をされた。数秒瞑目し、目を開き、変わらずいい笑顔でこちらを見上げる彼にため息を吐いてから微笑みかけた。
「本当に物好きだな、お前」
「今のは反則ですよ、ミズマさん」
急に立ち上がったツグに押し倒されて、ベッドの上で体が弾んだ。ふーふーと真っ赤な顔で息を荒らげるツグに今度は見下ろされる。情欲に塗れた目が細められ、唇が三日月に弧を描く。
「沢山、幸せになりましょうね?」
確か、新月の夜だった。目を凝らして飛びながら獲物を探していたら、急にどうしようもなく腹が減って。ふとよぎったいい匂いを追って、近くの家で寝ていた男に夢中で飛び付くとそのまま意識が遠のいて……。そこまでは覚えている。そういえば、男がいたのはここと同じ造りの部屋だった。もしかして全て罠だったのか。諦めてベッドに戻り、倒れ込む。とうとう祓われるのか、または魔術の贄にされるのか。何にせよろくな末路は迎えられないだろう。思えば発生してからいいことなどほとんどないサキュバス生だった。
虚ろに思いを馳せていると部屋のドアが開き、柔和そうな顔の男が入ってくる。反射的に起き上がり身構えたがすぐに力が抜けた。もう逃げ出す魔力も気力もない。ベッドに座ったまま笑顔で近付く男をぼんやりと見やる。幻覚魔法に頼らなければまともに精も絞れない小物に随分と大がかりな仕掛けをしたもんだな。
男は興奮気味に何かをまくし立てているが、一向に頭に入らない。とりあえず腹が減った。顔を合わせたらわかったが、この男は魔術師か、もしくはその血筋の者だ。旨そうな魔力混じりの匂いがする。ごくりと喉が鳴る。現代に魔術師の才を持つものは珍しい。せめて最期に精を食わせてはくれないだろうか……。押し寄せる本能のまま舌なめずりをして両手のひらを後ろにずらし、体を反らせる。そのまま下半身を突き出すように、足を開く。
慌てたように近付いた男は、後孔を示すように尻尾をくねらせて微笑みかけると顔を赤くして生唾を飲んだ。そのまま鋭い切っ先で薄い下着を裂き、とろりと蜜をこぼす穴を見せつけてやる。
見てわかる程に下半身を膨らませた男はくしゃりと顔を歪めると堪えかねたように眉を寄せながらベッドに乗り上げ、俺の上に被さった。ここまでのせればこっちのものだ。最期の晩餐を存分に味わうとしよう。
新月が満月になりかけていたから、そろそろ半月か。未だに俺は生かされている。しかもこの、ツグと名乗る男にかなり手厚く世話をされている。したことといえば、食べて寝ること、あとは入浴だけ。対して汚れてない体を隅々まで洗われるのはむずかゆいが、大人しく座っておいた。いつも笑っているけれど、俺をここに閉じ込めた男だ。逆らえばどうされるかわからない。得体の知れない人間への恐怖は、まだ拭いきれてはいない。
そう、肝心の精だが。旨かった。ものすごく旨かった。魔術師の精というものは初めて食べたが、今まで食らってきた人間の精の味なんか全部吹っ飛んだ。濃度が桁違いだし、量も驚くほど多い。そんな代物を毎晩注がれて、今まで経験したことがないくらい腹が膨れ、全身に魔力が漲っている。不満があるとすれば前戯がやたらと長いところか。さっさと注いでほしいが、腰に足を絡めてねだってもすぐにはくれず、ねちっこく愛撫を続けている。こんな扱いを受けるのは初めてだから、辛くてもどかしくて仕方ない。わからくて、怖い。
一番落ち着かないのが素顔を晒して精を搾ることだ。どうやらこの男は、俺の素顔が好きらしい。発生したての頃に聖水をかけられて爛れたこの顔は、幻覚魔法をかけないと自分でも見れたもんじゃないのに。一度最中にかけてやったら、残念そうな顔をして首を振った。中で萎んでいくモノを感じながら、顔の削れた淫魔なんて出来損ないにも程があるだろう、見苦しくないのかと問うと、ツグは目を細めてケロイドを撫で、そこにキスを落とした。大好きな人の一部なんですから、そんなこと言わないでください。やたら悲しげに落とされた言葉に目を逸らした。淫魔に向けて好きだの何だの、戯言にも程がある。どうせ一時の道楽なのだろう。こんな言葉に惑わされる程、俺は落ちぶれていない。
満月が新月になり、また満ちた。俺の扱いは変わらないどころか食べ物は日に日に美味しくなるし、常に清潔なシーツは好みの匂いになるし、ネットというもので娯楽を見つけて暇をすることもなくなった。端的に言えばめちゃくちゃ快適だ。この生活はいつまで続くのか。こんなに楽に満たされる生活を送っていれば、その内元には戻れなくなってしまう。終わった時の絶望がより深くなってしまう。
いつ処分するのかは知らないが、せめて最後は楽に祓ってくれ。ある時膨れ上がった不安と恐怖に駆られて呟くと、食べ物を運んできたツグは驚いたように目を見開いた。お盆を置いて床に膝を着き、目線を合わせてくる。まばたきもなく見つめられ、そのまま両手を外側から握られてしまえば逃げることもできない。
「祓うなんてとんでもない。あなたが大切なこと、伝わっていませんでしたか?」
「は?」
「俺はあなたに一目惚れしたから、ここに呼んだんです。結界は解けませんが、あなたの衣食住は全て保証します。あなたはここでただ、快適に暮らしてくれればいいんです」
「お前に何の得があるんだ?」
「得もなにも、俺はあなたがここにいてくれるだけで幸せなんです。そのうち伴侶としての契約も結びましょう。もう2度と餓えさせないし、絶対に幸せにしますからね」
思わず言葉が飛ぶほどにとんでもない宣言をされた。数秒瞑目し、目を開き、変わらずいい笑顔でこちらを見上げる彼にため息を吐いてから微笑みかけた。
「本当に物好きだな、お前」
「今のは反則ですよ、ミズマさん」
急に立ち上がったツグに押し倒されて、ベッドの上で体が弾んだ。ふーふーと真っ赤な顔で息を荒らげるツグに今度は見下ろされる。情欲に塗れた目が細められ、唇が三日月に弧を描く。
「沢山、幸せになりましょうね?」
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