僕の恋、兄の愛。4

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水曜日昼休み。

市井兄と町の美容師さん。

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「パワハラでは無いんだ、上司も関係ない。
ちょっと王子役に抜擢されてね。
見た目も王子っぽくと思って、色々調べて。
それでたどり着いたのが“宝塚の男役の髪型”だったんだけど・・・」

『王子の髪型になりたいんだ。』と伝える。

もう宝塚は諦めるから、早く王子の髪型にして欲しい。俺急いでるんだ。

・・・と目で訴えてみるが伝わらない。

「・・・ちょっと王子役にって・・・
何でそんな・・・
ああ!
そっか、薬品関係のイベントか何か?
そりゃ、そこらの俳優起用するよか、ゆーくん使った方が格好いいし、目は引く。
それに低コストだろうケド・・・。
ゆーくんの企業、イベントに俳優起用できない程資金ヤバいの?
大手なのに。」

慎吾よ、もういいんだよ、理由そこは何でも。

デートだって言うと世間話大好きな慎吾が煩いから言いたくないだけなんだ。
もういっそデートだ、って言ってしまおうか。

・・・やっぱ止めとこう。

急いでるんだし、昼休み中にラボへ帰れなくなると困る。

「いや、ウチの会社が赤字って事は・・・てか会社は関係無いんだ。
兎に角、“王子風の髪型”になりたい、頼む。」

「・・・そう?
ならいいんだけど。
サラリーマンも大変だね。
てか、ゆーくん、大学んとき学祭で王子したじゃん。
あの髪型では駄目なの?」

急いでるんだ、と伝えると、慎吾がやっと状況に追い付いてきたようだ。

俺に質問しながら手は動きだしている。

「あぁ、芸術学科の造型専攻に所属する子に髪とメイクしてもらったヤツか。
実は覚えて無い・・・そうか、アレ慎吾がしてくれたんだったな。
あの髪型、凄く好評だったんだよ。(健介に。)
俺、もういいオッサンだから、アレの大人カスタマイズでお願いできるか?」


「オッケー。」

「・・・なぁ、慎吾。
大学の学祭ん時の王子、どんなだった?
俺さぁ、時間ギリギリに舞台袖で大急ぎで着替えて、王子にされたことは覚えてんだよ。
けど自分の完成形おうじの姿は全く覚えて無いんだ。
俺、鏡見て王子じぶん確認してた?
何であんなバタバタしてたんだっけ?」

今朝方(日の出前)、ふと気になった事を聞いてみる。

学生時代の王子の格好を自分が全く覚えて無いから、早い段階で衣装や髪型を参考にするのは無理だ、と切って捨てた。

それでネットで調べた『宝塚男役の髪型案』を採用したんだが、ここまで慎吾に不評だとは思わなかった。

「あん時?鏡?見て無いんじゃないかな?
ゆーくん、出番のギリギリまで舞台に来なかったじゃん。
ソータローがゆーくんをどっかで捕獲して引き摺ってきて、僕が舞台袖で猛スピードで顔と髪作ったんだよ。
ゆーくんは舞台に走って出てったし。
覚えてない?」

「・・・ソウでした。」

学祭見に来た弟が可愛過ぎて、ずっと構ってた。

それで集合時間を忘れて、ギリまで舞台に行かなかったんでした。

すいませんでした。









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