僕の恋、兄の愛。4

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水曜日昼休み。

市井兄の昼休み。

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◆◆ ◆水曜日 12時頃◆ ◆◆



昼休み。

やっと唐所長に相談できる。

もうディナーまで7時間だ、急がないと。

研究室で食堂から宅配してもらった定食を、唐所長と食べながら機を伺っていると、唐所長が気付いてくれた。

「どうかしたの?
市井くん、研究で気になる事でもあった?」

「いえ、研究の方は今はまだ単純作業の段階ですので、滞りなく進んでいます。
ただ・・・」

「ただ?」

「今日の弟とのディナーデート、王子様キャラで挑むに当たり、役作りの為に、白馬を飼おうか迷っているんです。」

「・・・・・・ん?んん?」

「王子様と言えば白馬が鉄板かなと思って。」

「・・・・そうだね。」

「流石にホテルディナーに馬を連れては行けませんが、」

「・・無理だろうね。」

「白馬の存在が、俺の“王子様”の印象をより本物に近づけられるのではないか、と考えます。」

「・・・・・・。
・・・成る程。」

俺の発言を聞きつつ、徐々に深刻な表情になった唐所長が、コーヒーを一口飲んだ。

「市井くん、研究、順調で何よりだね。
けれど・・・今の君・・・、・・・。」

「何ですか?」

「そうだな、・・・以前の私、そう、それ。
ええと、君の告白プレゼン受ける少し前位の私かな。
告白に、熊を動物園から借りる正統派か、置物の熊で代役を立てる安全策か・・・。
亮太の為にどちらを準備しようか、って私が迷っていたのを覚えてるかい?」

「はい。
マジで言ってんのか、と思ってました。」

「・・・そうだね、私も今ならそう思うよ。
いくら何でも熊は危険だったよね。
そうじゃ無くて・・・。
今の君、その時の私と同じ症状になってるよ。
うん。
馬は止めておきなさい。
命には責任があるからね。」

・・・?

・・・

・・・あっ。

その通りだ、いけない、知らない内に思考が脱線してしまっている。

俺は、これからずっと王子役を続ける訳じゃない。

問題は今日、俺が王子役を演じられるかどうか、だ。

唐所長に馬の売い取り、飼育を却下されてよかった。

生き物こどうぐに手なんか出したら、明日からが大問題になる。

いくらペット可のタワーマンションでも、馬は飼わせてくれないだろう(そう言う問題ではない)。

「・・・言われてみれば。
ウッカリしていました。
白馬購入は止めます。」

「そうだね。
その方がいいよ。」

心配事が1つ減って、ホッと息を吐く。

だが予定はこれだけじゃ無い。

夜デートに向けての次の段取りは髪型だ。
行きつけの美容院に行くことにしていた。

いつもの髪型をワックスで簡単に直してディナーに行こうか、とも思ったが、気合いを入れるためにも思い切ってプロに“王子の髪型”にしてもらう事にしたのだ。

コッチは今日だけで済むからいいだろう。

唐所長も「それは良いと思うよ。」と賛成してくれた。

「じゃ、俺、美容院までラボから出ます。」

「ふふ、男前になっておいで。
午後の業務までには戻るようにね。」

「はい。」

唐所長に送り出され、気合いを入れて美容院へと向かった。










※市井兄が昼飯終わって研究室を出た後、唐父は

「この間の私は、今の市井くんみたいな状態・・・だった・・・のか・・・」

と、一人凹・・・反省しました。

コーヒーのホロ苦さが身に染みた唐父。

唐所長は、市井兄のサポートでに手は出しませんでした。

でも、告白プランで置物の熊・鶴・亀こどうぐは盛大に揃えちゃった大人、唐所長。

脱線の仕方が唐父と一緒の市井兄。

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