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水曜日昼休み。
市井兄の昼休み。
しおりを挟む◆◆ ◆水曜日 12時頃◆ ◆◆
昼休み。
やっと唐所長に相談できる。
もうディナーまで7時間だ、急がないと。
研究室で食堂から宅配してもらった定食を、唐所長と食べながら機を伺っていると、唐所長が気付いてくれた。
「どうかしたの?
市井くん、研究で気になる事でもあった?」
「いえ、研究の方は今はまだ単純作業の段階ですので、滞りなく進んでいます。
ただ・・・」
「ただ?」
「今日の弟とのディナーデート、王子様キャラで挑むに当たり、役作りの為に、白馬を飼おうか迷っているんです。」
「・・・・・・ん?んん?」
「王子様と言えば白馬が鉄板かなと思って。」
「・・・・そうだね。」
「流石にホテルディナーに馬を連れては行けませんが、」
「・・無理だろうね。」
「白馬の存在が、俺の“王子様”の印象をより本物に近づけられるのではないか、と考えます。」
「・・・・・・。
・・・成る程。」
俺の発言を聞きつつ、徐々に深刻な表情になった唐所長が、コーヒーを一口飲んだ。
「市井くん、研究、順調で何よりだね。
けれど・・・今の君・・・、・・・。」
「何ですか?」
「そうだな、・・・以前の私、そう、それ。
ええと、君の告白プレゼン受ける少し前位の私かな。
告白に、熊を動物園から借りる正統派か、置物の熊で代役を立てる安全策か・・・。
亮太の為にどちらを準備しようか、って私が迷っていたのを覚えてるかい?」
「はい。
マジで言ってんのか、と思ってました。」
「・・・そうだね、私も今ならそう思うよ。
いくら何でも熊は危険だったよね。
そうじゃ無くて・・・。
今の君、その時の私と同じ症状になってるよ。
うん。
馬は止めておきなさい。
命には責任があるからね。」
・・・?
・・・
・・・あっ。
その通りだ、いけない、知らない内に思考が脱線してしまっている。
俺は、これからずっと王子役を続ける訳じゃない。
問題は今日、俺がディナーの間王子役を演じられるかどうか、だ。
唐所長に馬の売い取り、飼育を却下されてよかった。
生き物に手なんか出したら、明日からが大問題になる。
いくらペット可のタワーマンションでも、馬は飼わせてくれないだろう(そう言う問題ではない)。
「・・・言われてみれば。
ウッカリしていました。
白馬購入は止めます。」
「そうだね。
その方がいいよ。」
心配事が1つ減って、ホッと息を吐く。
だが予定はこれだけじゃ無い。
夜デートに向けての次の段取りは髪型だ。
行きつけの美容院に行くことにしていた。
いつもの髪型をワックスで簡単に直してディナーに行こうか、とも思ったが、気合いを入れるためにも思い切ってプロに“王子の髪型”にしてもらう事にしたのだ。
コッチは今日だけで済むからいいだろう。
唐所長も「それは良いと思うよ。」と賛成してくれた。
「じゃ、俺、美容院までラボから出ます。」
「ふふ、男前になっておいで。
午後の業務までには戻るようにね。」
「はい。」
唐所長に送り出され、気合いを入れて美容院へと向かった。
※市井兄が昼飯終わって研究室を出た後、唐父は
「この間の私は、今の市井くんみたいな状態・・・だった・・・のか・・・」
と、一人凹・・・反省しました。
コーヒーのホロ苦さが身に染みた唐父。
唐所長は、市井兄のサポートで生き物に手は出しませんでした。
でも、告白プランで置物の熊・鶴・亀は盛大に揃えちゃった大人、唐所長。
脱線の仕方が唐父と一緒の市井兄。
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