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公爵邸での生活が始まってから、私の毎日はまるで、真っ白なキャンバスに鮮やかな色が少しずつ描き加えられていくような、不思議な変化の連続でした。
一番驚いたのは、自分の体です。家事のしすぎでボロボロだった私の手は、毎日メイドたちが塗ってくれる不思議な薬草のクリームのおかげで、いつの間にか白くてしなやかになっていました。
「リリア様、見てください。あんなに荒れていた指先が、今はこんなに綺麗ですよ。爪の形も整えて、磨き上げましたから、まるでお人形さんの手みたいです」
鏡の中に映る自分を見ても、最初は自分のことだとは思えませんでした。以前の私は、寝不足で目の下にクマがあり、髪もパサパサで、いつも下を向いて歩いていました。でも、ゼクス様が用意してくれた美容の専門家たちの手にかかると、私の髪は絹のように滑らかになり、肌は内側から光を放つように輝き始めたのです。
ある日の午後、ゼクス様が私の部屋を訪ねてきました。
「リリア、今日は少し街へ出かけないか? 君に似合うものを、一緒に選びたいんだ」
そう言って連れて行かれたのは、この国で一番有名だという、最高級の仕立て屋でした。店に入った瞬間、色とりどりの高価な生地が目に入り、私は思わず足がすくんでしまいました。
「……ゼクス様、あの。私は、そんなに贅沢をする必要はありません。今のままでも、十分に幸せですから……。こんなに高いドレスをいただくなんて、申し訳なくて」
私が遠慮して小声で伝えると、ゼクス様は困ったように眉を下げて、私の肩を優しく抱き寄せました。
「リリア、これは贅沢なんかじゃない。私の大切な婚約者が、その美しさにふさわしい装いをするのは、当然のことなんだ。それにね、君が綺麗なドレスを着て嬉しそうに笑ってくれることが、私にとっては何よりの贈り物なんだよ。だから、私のわがままを聞いてくれないかな?」
彼は、店員さんが持ってきた淡いブルーのドレスを指差しました。それは、私の瞳の色と同じ、透き通るような美しい色でした。
「これにしよう。リリアの瞳は、世界で一番綺麗な色をしているから、絶対に似合うはずだ」
試着室でドレスに着替え、鏡の前に立った時、私は自分の姿に息を呑みました。地味な茶色の服を着て、家族の顔色を伺っていた私は、もうどこにもいません。そこには、誇り高い令嬢のような、凛とした空気をまとった一人の女性が立っていました。
「……これが、私……?」
私が信じられない思いで呟くと、ゼクス様は背後からそっと私の首筋に、何かの重みを感じるものを添えました。
「仕上げは、これだ。君のために特別に作らせた、一点もののネックレスだよ」
首元でキラキラと輝いているのは、大粒のサファイアでした。私の瞳の色と全く同じ、深く澄んだ青色です。
「リリア、君は今まで、自分の価値を低く見積もりすぎていた。でも、今の君を見てごらん。誰よりも輝いていて、気高くて、美しい。君は愛されるべき存在なんだ。この宝石も、ドレスも、君の美しさを少しだけ手伝っているにすぎないんだよ」
ゼクス様の言葉が、温かい雫のように私の心に染み込んでいきました。今までの私は、自分を「ただ働くための道具」だと思い込ませて、心を殺して生きてきました。でも、彼に真っ直ぐに見つめられ、何度も「美しい」と言われるうちに、少しずつ、自分のことを「生きていてもいいんだ」「幸せになってもいいんだ」と思えるようになってきたのです。
「……ありがとうございます、ゼクス様。こんなに大切にしてもらえて、私は本当に幸せ者です。このドレスも、ネックレスも、あなたが私のために選んでくれたものだから……一生の宝物にします。もっともっと、あなたにふさわしい女性になれるように、頑張りますね」
私が笑顔でそう言うと、ゼクス様は満足そうに目を細めて、私の額に優しく口づけを落としました。
鏡の中の私は、照れて頬を赤く染めていましたが、その瞳には、今までになかった強い光が宿っていました。私はもう、あの雨の夜に捨てられた、惨めなリリアではありません。公爵であるゼクス様に愛され、守られている、一人の女性として、新しい人生を歩み始めているのだとはっきりと実感していました。
一番驚いたのは、自分の体です。家事のしすぎでボロボロだった私の手は、毎日メイドたちが塗ってくれる不思議な薬草のクリームのおかげで、いつの間にか白くてしなやかになっていました。
「リリア様、見てください。あんなに荒れていた指先が、今はこんなに綺麗ですよ。爪の形も整えて、磨き上げましたから、まるでお人形さんの手みたいです」
鏡の中に映る自分を見ても、最初は自分のことだとは思えませんでした。以前の私は、寝不足で目の下にクマがあり、髪もパサパサで、いつも下を向いて歩いていました。でも、ゼクス様が用意してくれた美容の専門家たちの手にかかると、私の髪は絹のように滑らかになり、肌は内側から光を放つように輝き始めたのです。
ある日の午後、ゼクス様が私の部屋を訪ねてきました。
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そう言って連れて行かれたのは、この国で一番有名だという、最高級の仕立て屋でした。店に入った瞬間、色とりどりの高価な生地が目に入り、私は思わず足がすくんでしまいました。
「……ゼクス様、あの。私は、そんなに贅沢をする必要はありません。今のままでも、十分に幸せですから……。こんなに高いドレスをいただくなんて、申し訳なくて」
私が遠慮して小声で伝えると、ゼクス様は困ったように眉を下げて、私の肩を優しく抱き寄せました。
「リリア、これは贅沢なんかじゃない。私の大切な婚約者が、その美しさにふさわしい装いをするのは、当然のことなんだ。それにね、君が綺麗なドレスを着て嬉しそうに笑ってくれることが、私にとっては何よりの贈り物なんだよ。だから、私のわがままを聞いてくれないかな?」
彼は、店員さんが持ってきた淡いブルーのドレスを指差しました。それは、私の瞳の色と同じ、透き通るような美しい色でした。
「これにしよう。リリアの瞳は、世界で一番綺麗な色をしているから、絶対に似合うはずだ」
試着室でドレスに着替え、鏡の前に立った時、私は自分の姿に息を呑みました。地味な茶色の服を着て、家族の顔色を伺っていた私は、もうどこにもいません。そこには、誇り高い令嬢のような、凛とした空気をまとった一人の女性が立っていました。
「……これが、私……?」
私が信じられない思いで呟くと、ゼクス様は背後からそっと私の首筋に、何かの重みを感じるものを添えました。
「仕上げは、これだ。君のために特別に作らせた、一点もののネックレスだよ」
首元でキラキラと輝いているのは、大粒のサファイアでした。私の瞳の色と全く同じ、深く澄んだ青色です。
「リリア、君は今まで、自分の価値を低く見積もりすぎていた。でも、今の君を見てごらん。誰よりも輝いていて、気高くて、美しい。君は愛されるべき存在なんだ。この宝石も、ドレスも、君の美しさを少しだけ手伝っているにすぎないんだよ」
ゼクス様の言葉が、温かい雫のように私の心に染み込んでいきました。今までの私は、自分を「ただ働くための道具」だと思い込ませて、心を殺して生きてきました。でも、彼に真っ直ぐに見つめられ、何度も「美しい」と言われるうちに、少しずつ、自分のことを「生きていてもいいんだ」「幸せになってもいいんだ」と思えるようになってきたのです。
「……ありがとうございます、ゼクス様。こんなに大切にしてもらえて、私は本当に幸せ者です。このドレスも、ネックレスも、あなたが私のために選んでくれたものだから……一生の宝物にします。もっともっと、あなたにふさわしい女性になれるように、頑張りますね」
私が笑顔でそう言うと、ゼクス様は満足そうに目を細めて、私の額に優しく口づけを落としました。
鏡の中の私は、照れて頬を赤く染めていましたが、その瞳には、今までになかった強い光が宿っていました。私はもう、あの雨の夜に捨てられた、惨めなリリアではありません。公爵であるゼクス様に愛され、守られている、一人の女性として、新しい人生を歩み始めているのだとはっきりと実感していました。
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