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第2話の2
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「おそらく、混乱されていることと推察します。あなたの頭の中に、記憶にない知識が存在しているはずです。失礼かとは思いましたが、あなたの脳内にごく基礎的な単語辞書のインストールをさせていただきました。あなたをここに迎え入れるにあたって、より大きな混乱を防ぐための処置ですので、どうかご了承ください。もちろん、ご希望でしたらいつでも完全にインストール前の状態に戻すことができます」
メイド姿の女の顔からは表情を読み取ることはできない。
どれほど訓練されたメイドだとしても、人間であれば友好、慈愛、あるいは警戒や不安などの僅かな感情が見て取れるものだ。
しかしこのメイドにはその欠片すらない。
「また、同じくここにあなたを迎え入れるにあたって、一時的にあなたを敵性でないビジターとして設定いたしました。これは私の権限によるもので、あなたがビジターに設定された時点からこの拠点はあなたを歓迎することになります。この歓迎には身体的精神的な不調のケアを含みます」
どう考えてもこのメイドは人間ではなかろう。
人間に似せた人工精霊か、よくできたゴーレムか、いずれにせよ人の姿をしているだけで、人間ではない。
つまり人間と同じ意味での男も女もない。
目の前のメイドが人間の女ではないと解ると、自分の心の奥で警戒心が解けていくのがわかった。
まったく、本当に自分が嫌になる。
そうして、ようやく僕は言うべきことを言うことができた。
「ありがとう。正直まだ混乱していて、君の言うことの半分も理解できていないが、危ない所を助けられたことはわかる。最大限の感謝を捧げさせてもらいたい」
「どういたしまして。私は自分の役割を実行したまでです」
「ところで、そのう、君はいったい?メイドの姿をしているが、君の上司のような方がいらっしゃるのだろうか?」
「まず最初の質問にお答えします。私はミナトガワ・ミホ様によって作られた汎用メイド型アンドロイドM2fyです。ニックネームはテラです。私のことはテラとお呼びください。次に、2つ目の質問にお答えします。私の御主人様は製作者であるミナトガワ・ミホ様ですが、ミホ様は現時点より32年56日前に眠りにつかれ、現在も目覚めておられません。よって、私の上司がいるのかという質問に関しましては、イエスでもありノーでもあります」
なるほど。
やはりのこメイドは人間ではなく、そのミナトガワ・ミホという人物に作り出されたアンドロイドであるらしい。
アンドロイドという単語もまた、初めて聞くものだったが、不思議と理解することができた。
そしてこのメイドの言を聞くに、主人であるミナトガワ・ミホは30年以上前に亡くなったのだろう。
そして機械であるメイドだけが残され、亡くなった主人の命令に従い続けて今でもこの場所を守っている、というところか。
「そうか。辛いことを訊ねてしまったようだ」
「いいえ、お気になさらず」
メイド型アンドロイド……テラは、無表情のまま首を振った。
「さて、助けていただいて恐縮なのだが、残念ながら私はお礼にできるようなものを何も持ち合わせていない。さらに申し訳ないことに、できるだけ早くここを去らねばならないと思う。迷惑がかかってしまうので」
「治療と歓迎は、敵性でないビジターに対する標準的な対応です。あなたが申し訳なく感じることはありませんし、私に迷惑がかかることもありません」
「いや、それもそうなんだが、それだけじゃないんだ。私は追われている。私を殺そうと追いかけてくる連中がいるんだ。しかもそいつらは王国の命令を受けて……はは、つまり僕は、お尋ね者ってわけだ」
僕は自分で言ったセリフにショックを受け、自嘲気味に笑った。
つい数日前まで王国貴族だった自分が、今ではお尋ね者か。もう笑うしかない。
「だから、あまり長くここに居ると、追手がここにまで来るかもしれないし、そうなれば君にもあらぬ疑いがかけられかねない。まさか、君までお尋ね者になるわけにはいかないだろう」
僕の言葉に、テラはよどみなく答えた。
「心配は無用です。私は王国の民ではありませんので、王国の法に従う理由がありません。また、あなたのいう追手という人々がこの場所に害をなすことは限りなく不可能に近いと認識しています。よって、あなたが王国に追われる身であったとしても、私があなたを敵性でないビジターとして扱い、歓迎し、その必要があれば治療し、また保護することになんの変更もありません」
「しかし……」
僕が反論しようとした時、テラの様子が変わった。
その動きが一瞬止まり、何か、僕には聞こえない声に耳を澄ませているかのように沈黙した。
そしてその一瞬ののち、テラは少し首を傾け、考え込むような仕草をした。
「どうしたんだい?」
「探知システムにヒトの反応があります。場所は地上部周辺。なぜこの場所がわかったのかは不明ですが、おそらくあなたのいう追手だと思われます」
メイド姿の女の顔からは表情を読み取ることはできない。
どれほど訓練されたメイドだとしても、人間であれば友好、慈愛、あるいは警戒や不安などの僅かな感情が見て取れるものだ。
しかしこのメイドにはその欠片すらない。
「また、同じくここにあなたを迎え入れるにあたって、一時的にあなたを敵性でないビジターとして設定いたしました。これは私の権限によるもので、あなたがビジターに設定された時点からこの拠点はあなたを歓迎することになります。この歓迎には身体的精神的な不調のケアを含みます」
どう考えてもこのメイドは人間ではなかろう。
人間に似せた人工精霊か、よくできたゴーレムか、いずれにせよ人の姿をしているだけで、人間ではない。
つまり人間と同じ意味での男も女もない。
目の前のメイドが人間の女ではないと解ると、自分の心の奥で警戒心が解けていくのがわかった。
まったく、本当に自分が嫌になる。
そうして、ようやく僕は言うべきことを言うことができた。
「ありがとう。正直まだ混乱していて、君の言うことの半分も理解できていないが、危ない所を助けられたことはわかる。最大限の感謝を捧げさせてもらいたい」
「どういたしまして。私は自分の役割を実行したまでです」
「ところで、そのう、君はいったい?メイドの姿をしているが、君の上司のような方がいらっしゃるのだろうか?」
「まず最初の質問にお答えします。私はミナトガワ・ミホ様によって作られた汎用メイド型アンドロイドM2fyです。ニックネームはテラです。私のことはテラとお呼びください。次に、2つ目の質問にお答えします。私の御主人様は製作者であるミナトガワ・ミホ様ですが、ミホ様は現時点より32年56日前に眠りにつかれ、現在も目覚めておられません。よって、私の上司がいるのかという質問に関しましては、イエスでもありノーでもあります」
なるほど。
やはりのこメイドは人間ではなく、そのミナトガワ・ミホという人物に作り出されたアンドロイドであるらしい。
アンドロイドという単語もまた、初めて聞くものだったが、不思議と理解することができた。
そしてこのメイドの言を聞くに、主人であるミナトガワ・ミホは30年以上前に亡くなったのだろう。
そして機械であるメイドだけが残され、亡くなった主人の命令に従い続けて今でもこの場所を守っている、というところか。
「そうか。辛いことを訊ねてしまったようだ」
「いいえ、お気になさらず」
メイド型アンドロイド……テラは、無表情のまま首を振った。
「さて、助けていただいて恐縮なのだが、残念ながら私はお礼にできるようなものを何も持ち合わせていない。さらに申し訳ないことに、できるだけ早くここを去らねばならないと思う。迷惑がかかってしまうので」
「治療と歓迎は、敵性でないビジターに対する標準的な対応です。あなたが申し訳なく感じることはありませんし、私に迷惑がかかることもありません」
「いや、それもそうなんだが、それだけじゃないんだ。私は追われている。私を殺そうと追いかけてくる連中がいるんだ。しかもそいつらは王国の命令を受けて……はは、つまり僕は、お尋ね者ってわけだ」
僕は自分で言ったセリフにショックを受け、自嘲気味に笑った。
つい数日前まで王国貴族だった自分が、今ではお尋ね者か。もう笑うしかない。
「だから、あまり長くここに居ると、追手がここにまで来るかもしれないし、そうなれば君にもあらぬ疑いがかけられかねない。まさか、君までお尋ね者になるわけにはいかないだろう」
僕の言葉に、テラはよどみなく答えた。
「心配は無用です。私は王国の民ではありませんので、王国の法に従う理由がありません。また、あなたのいう追手という人々がこの場所に害をなすことは限りなく不可能に近いと認識しています。よって、あなたが王国に追われる身であったとしても、私があなたを敵性でないビジターとして扱い、歓迎し、その必要があれば治療し、また保護することになんの変更もありません」
「しかし……」
僕が反論しようとした時、テラの様子が変わった。
その動きが一瞬止まり、何か、僕には聞こえない声に耳を澄ませているかのように沈黙した。
そしてその一瞬ののち、テラは少し首を傾け、考え込むような仕草をした。
「どうしたんだい?」
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