1 / 1
神無月ハロウィン
しおりを挟む
神無月の終わり。現代では仮装を楽しむイベントと化した、外国から伝わってきた祭り「ハロウィン」日本で言うところのお盆のようなものという認識はあるものの、お盆とは全く違う賑わいを見せ、時にハメを外し過ぎる者も居る。
そんな中、俺、松戸真也が働いているバー「セブンスヘブン」もまた、ハロウィンには仮装をしてきた客にちょっとした菓子をお通しに添えて出していた。
普段なら、白くてふわふわの狐……壱が一緒に働いている事もある。が、毎年ハロウィンの日に、壱は居ない。神使の狐である彼は、神無月には出雲に行ってしまっている。立場的には行っても行かなくてもいいらしいが、普段はなかなか会えない弟や妹も集まる為、出雲に行くようだ。俺には、止めろという気も起こらない。
比較的仲の良いきょうだい達が、年に1回集まれる場所だ。楽しんできて欲しいとすら思っている。
だからと言って、壱がひと月居ない寂しさはあるけれど……それでも、俺は12ヶ月のうち、11ヶ月は壱と共に過ごせるのだ。あのふわふわの柔らかく白い毛並みの耳や尻尾も、触るとぷにぷにモチモチしている素肌も、最近懐いてきて無意識に甘えてくるぬくもりも、1年のうち11ヶ月は独占出来る。そう考えると、不思議と悪い気はしない。
ただ、ハロウィンで壱が仮装するとしたら、どんなものを選ぶのかとか、選べなさそうならどんなものを着せようかとか、そう言った楽しみが無い事は、少しだけ寂しく思う。俺にとって、壱の居ないハロウィンは、月が変わって壱が帰ってくる前日。11月1日の暁光と共に土産を引っ提げて、にこにこしながら
「ただいまなのじゃ。土産は出雲そばなのじゃ。酒も貰ったからの」
等と言ってくる。最近は、壱の居なかった期間の寂しさよりも、ハロウィンの日の仕事を終えてから、夜明けの蕎麦をいかに美味しくするか?久々に一緒に食べる食事をどんなものにしようかと、楽しみにする事が増えた。
ハロウィンの日の仕事が終わったら、壱の好きなとり天を作って、薬味を刻んで、土産の蕎麦をとびきり美味しく食べられるように準備する。
1ヶ月ぶりの、二人で食べる食事は格別だと思うんだ。俺のハロウィンの楽しみは、次の日への希望なのかも知れない。
仕事が終わり、蕎麦に乗せるものを用意しているうちに、気の抜けた声がどこからともなく聞こえてきた。
「ただいまーなのじゃ!真也と食べたくての、土産に出雲そばを買ってきたのじゃ」
ふわふわの、真っ白な尻尾を嬉しそうに振って、柔らかな笑みを浮かべて壱は目の前に立っていた。
「おかえり、壱」
壱の身体を、そっと抱きしめてキスをして。蕎麦を茹でる前に少しだけ、ロマンチックな気分に浸らせて欲しい。ひと月、触れられなかった寂しさと溜まった情欲は、これからの季節に来る壱の発情期に合わせて埋め合わせをして貰うからな?壱。
【おしまい】
そんな中、俺、松戸真也が働いているバー「セブンスヘブン」もまた、ハロウィンには仮装をしてきた客にちょっとした菓子をお通しに添えて出していた。
普段なら、白くてふわふわの狐……壱が一緒に働いている事もある。が、毎年ハロウィンの日に、壱は居ない。神使の狐である彼は、神無月には出雲に行ってしまっている。立場的には行っても行かなくてもいいらしいが、普段はなかなか会えない弟や妹も集まる為、出雲に行くようだ。俺には、止めろという気も起こらない。
比較的仲の良いきょうだい達が、年に1回集まれる場所だ。楽しんできて欲しいとすら思っている。
だからと言って、壱がひと月居ない寂しさはあるけれど……それでも、俺は12ヶ月のうち、11ヶ月は壱と共に過ごせるのだ。あのふわふわの柔らかく白い毛並みの耳や尻尾も、触るとぷにぷにモチモチしている素肌も、最近懐いてきて無意識に甘えてくるぬくもりも、1年のうち11ヶ月は独占出来る。そう考えると、不思議と悪い気はしない。
ただ、ハロウィンで壱が仮装するとしたら、どんなものを選ぶのかとか、選べなさそうならどんなものを着せようかとか、そう言った楽しみが無い事は、少しだけ寂しく思う。俺にとって、壱の居ないハロウィンは、月が変わって壱が帰ってくる前日。11月1日の暁光と共に土産を引っ提げて、にこにこしながら
「ただいまなのじゃ。土産は出雲そばなのじゃ。酒も貰ったからの」
等と言ってくる。最近は、壱の居なかった期間の寂しさよりも、ハロウィンの日の仕事を終えてから、夜明けの蕎麦をいかに美味しくするか?久々に一緒に食べる食事をどんなものにしようかと、楽しみにする事が増えた。
ハロウィンの日の仕事が終わったら、壱の好きなとり天を作って、薬味を刻んで、土産の蕎麦をとびきり美味しく食べられるように準備する。
1ヶ月ぶりの、二人で食べる食事は格別だと思うんだ。俺のハロウィンの楽しみは、次の日への希望なのかも知れない。
仕事が終わり、蕎麦に乗せるものを用意しているうちに、気の抜けた声がどこからともなく聞こえてきた。
「ただいまーなのじゃ!真也と食べたくての、土産に出雲そばを買ってきたのじゃ」
ふわふわの、真っ白な尻尾を嬉しそうに振って、柔らかな笑みを浮かべて壱は目の前に立っていた。
「おかえり、壱」
壱の身体を、そっと抱きしめてキスをして。蕎麦を茹でる前に少しだけ、ロマンチックな気分に浸らせて欲しい。ひと月、触れられなかった寂しさと溜まった情欲は、これからの季節に来る壱の発情期に合わせて埋め合わせをして貰うからな?壱。
【おしまい】
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる