花火大会

小説かきお

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花火大会

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「早く行こう!花火に遅れちゃうよ!」
「ま、待ってよ~」
私のそんな静止も聞かず、彼女は夜の道を走り出した
「ほらほら~早く~…へぶっ」
「もう、だから言ったのに…」
「えへへ…ごめんごめん」
下駄で走り出した彼女は案の定つまづいてしまい、まだ会場にも着いてないというのに浴衣を汚してしまった
だというのにけらけらと笑う彼女に、私は
「あぁ、やっぱり好きだなぁ…」
と思うのだった

私には長年片想いしている人がいる
その人は私の親友で、私よりずっとずっと可愛い女の子
季節は夏、私達は高校三年生
高校を卒業したら進学やら就職やらで忙しくなり、気軽に会えなくなる
だったらせめて今ある時間を有意義に使おう…ということで彼女を花火大会に誘った
万が一断られたらどうしよう…と若干不安ではあったが、彼女は快くOKをくれた
それが嬉しくて、今日は気合いを入れすぎてしまったと思わなくもないが、彼女が喜んでいるので結果オーライである

メインイベントの花火までは時間があったので、彼女と屋台を色々回った
彼女が食べた拍子についたフランクフルトのケチャップを見て笑ったり、金魚掬いで跳ねた水が彼女にかかり、それが少し扇情的でドキドキしたり…人混みで迷子にならないようにとずっと手を繋いてくれていたのも嬉しくて、私は顔が赤いのを悟られないように必死だった
そうこうしているうちに花火が打ち上がる時間になり、私と彼女は人混みをかき分けて花火の見える場所へと着いた

打ち上がる花火はどれも素晴らしく、雲一つない夜空によく映えた
その一つ一つが音と光で私を魅了し、感動さえ憶えた
ふと横を見ると、彼女もまた感動しているのか目をキラキラさせて喜んでいる
花火の光に反射したのも相まって、いつもよりとても綺麗だった
思わず見惚れてしまうそんな彼女に、花火大会ということあり枷が外れてしまい、花火の音に紛れて
「…好きだよ」
と呟いた
咄嗟にハッとして彼女の方を見ると、花火に夢中なのか顔色を一切変えることなく上を見上げている
そんな彼女に嬉しいような悲しいような、少しもやもやした気持ちで私も上を見上げた

10分くらい続いた花火も終わり周りが閑散としてきた頃、ふと横を見ると彼女の頬が赤いことに気がついた
花火の時から赤かったので特に気にしていなかったのだが、まだ頬を赤らめる彼女を訝しげに見ていると突然
「…私も」
と言った
何の前触れもなく彼女が言ったので、一瞬何のことかと思ったがすぐに気づいた
彼女はあの時の呟きが聞こえていたのだ
それに気づいた瞬間耳まで赤くなり、辺りには涼しい風が流れているというのに体が急に熱くなった
それに気づいた彼女が手を握ってきたのだが、どちらもだいぶ汗をかいている
「…帰ろっか」
「…うん」
私の提案に彼女が返事をし、二人で私の家に歩き出した
相変わらず手は繋いでおり、火照った体が冷めることはなかった
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