学校の脇の図書館

理科準備室

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今度はぼくの番

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ぼくは廊下の一番奥の「男子便所」につくと、引き戸をがらがらと開けた。そこは暗い廊下から一転して日が差し込むまぶしい場所だった。
 「男子便所」の床が一段低いコンクリート打ちっぱなしの土間になっていて、足元には木のすのこがあった。ここでスリッパを脱いで、すのこの前に置かれた子供用と大人用の木の便所下駄に履き替えるようになっていた。でも、すのこの上にスリッパはなかったし、おしっこするところにも誰もいなかった。この「男子便所」はぼく一人だけだった。
上は真っ白い漆喰が塗られていた。右の方はその漆喰の壁に目に見える範囲全体に広がる大きなガラス窓が取り付けられていて、草むらになっている狭い空き地を隔ててすぐ近くの穴実小学校の体育館のトイレの窓が見えていた。その窓から差し込んでくる梅雨が明けたばかりの夏の強い日差しでぼくの体からまた汗が噴き出てきた。
奥は木製のドアのしゃがむ方が二つあったが、左は完全に閉まっていたけど右のほうは半分開いていた。確か雲地くんがここで「図書館うんこ」したあとに行ってものすごく臭かったのも右のほうだった。そのとき雲地君が図書館でうんこしてバカみたいに思ったけど、こんどはぼくの番だ。
小学校のような普段開いて使うときだけ内側から閉めるのと違ってデパートなんかによくある、いつもドアが閉まっていて内から鍵をかけるとノブの上の部分が「空き」から「使用中」に変わるタイプだった。
個室のドアは青いペンキが塗られていたが、職員が塗ったのか塗り方にどこかむらがあり、ところどころ剥げていた。おまけに木のドアの下の方が腐っていて、 右のドアはかどがちょっと丸くなっていた。学校のしゃがむ方みたいにドアの下に隙間がないからのぞかれる心配はなくて安心だけど、そうした古さがぼくには少し不気味だった。
右のガラス窓の下はおしっこするところだったけど、学校みたいな小便器はなくて、公衆便所によくあるような下が溝になっていてコンクリートの打ちっぱなしの壁に向かってするタイプだったが、黒い御影石の壁で三つに分かれていて、それぞれ蛇口が取り付けられていて、自分でまわして水を流す水洗式だった。あの児童公園の公衆便所のようなきついにおいはしなかった。
おしっこするところの反対の左側はコンクリートの打ちっぱなしの壁に大きな鏡と水道の蛇口と陶磁器製の洗面台が取り付けられていた。
 ぼくはすのこの上に降りてスリッパを脱ぐと、どうしようか困った。いつもだったらここでズボンとパンツを脱ぐところだった。ぼくは下の方を全部脱がないとうんこができなかった。
でも、もし学校とか家以外のトイレでうんこするとき下を全部脱ぐのは恥ずかしいから、しゃがむ方に入ってから半分下してできるようになりなさいとお母さんは普段から言っていた。雲地君もここの「男子便所」に入ってからすぐにドアの音が聞こえたから入ってから半分下してしたんだろうな。
たしかに、家でなく市立図書館で脱ぐのはすごく恥ずかしかったけど、半分下ろしてするとズボンとパンツを汚しそうで不安で仕方がなかったし、ふだんしないことをここで試みる余裕ももうなかった。それにズボンとパンツをこれ以上はいているとおなかが締め付けられていて、その中でしてしまいそうだった。ぼくのおしりはズボンとパンツから自由になりたがっていた。ぼくは思いきって下をこの場で全部脱ぐことにした。 
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