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第1編 王女編
3 優季の嘘
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「ハッ、ヤッ、ハッ、……」
優季(ゆうき)は、暗がりの中、鍛練場で木刀を振っていた。
今日、優季は、冬花(とうか)が寒村を離れてから初めて彼女の姿を見た。
冬花は、薄く化粧をしており、髪も伸びていたが、あの日の面影を残している。
冬花を見た時、優季は冬花を抱きしめたい思いでいっぱいになった。
冬花が何か言いかけたことも、優季は気がついていた。
でも、優季は心を閉ざして、冬花を拒絶するように努めたのだ。
優季は、自分が冬花のことを覚えていることを周りに知られると、もう2度と冬花に逢えなくなると分かっていた。
実際、冬花の母親が、優季のことを探るような視線で見ていた。
あの時、少しでも優季が冬花に反応していたならば、おそらく優季は政望(せいぼう)の護衛から外され、王城から遠く離れた任地へと配置換えになっていただろう。
冬花の母親は、娘の王城での暮らしを壊しかねない優季の存在を、きっと許さないであろう。
政望が、冬花たちに優季が記憶を失くしていると話したことは、優季にとってはありがたいことであった。
政望と年の近い優季は、政望の話し相手となることが多かった。
政望は、好きな女性がいるらしく、1度だけ、優季に恋の相談をしてきたことがあった。
その時に、優季は、政望から好きな人がいるのかと聞かれ、半分本当で、半分嘘の話をした。
「昔、私にも大切な人がいたらしいのですが、私が16歳の時、その人は遠いところへ行ったらしいのです。詳しくはわかりませんが、父母の話では、その日以来、私は、その人と彼女の家族のことを完全に忘れてしまったそうです。父母たちも、私を気づかい、その人たちのことについては、何も話しませんでした。その人が、私の好きな人に間違いはないと思うのですが、私は、その人の顔も、声も、ぬくもりも、全てを覚えていないのです」
優季の話を聞いた政望は、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
それ以来、政望は優季に恋の話をしてこない。
冬花の母親は、優季に冬花に近づかないように釘をさしてきたが、冬花は優季の嘘を信じている様子であった。
優季は、自分が冬花を気づかない振りをすることで、冬花を傷つけることは避けたいと思っていたのだ。
記憶を失った優季が冬花を気がつかなくても、冬花も諦めがつくだろうと優季は考えていた。
本当は、優季が冬花のことを忘れたことは、1日たりとも無かった。
優季は、大きく息をして、木刀を地面に置くと、懐から薄汚れた手拭いを取り出した。
その手拭いは、昔、冬花が優季にくれたものであった。
手拭いを見つめながら、思わず優季は呟いた。
「冬花……」
辺りは完全に真っ暗になっており、優季が鍛練場に灯した松明だけが周囲を照らしている。
辺りには、誰もいない。
優季は、冬花と過ごした日々を思い、まぶたをとじた。
初めて告白をした日、結婚を申し込んだ日、冬花を初めて抱きしめた日、寒村での幸せだった日々を優季は思い出していた。
優季の思い出の中では、優季の側には、いつも冬花が笑っていた。
優季は、手拭いを大事に懐にしまうと、再び木刀を手に取り、一心不乱に振り始めた。
「ハッ、ヤッ、ハッ……」
静かな夜に、優季のかけ声と、木刀が空を斬る音だけが響いていた。
優季は、その後、しばらく鍛練場で木刀を振り続けていた。
まるで、冬花への想いを振り払おうとしているかのように、優季は木刀を振り続けていたのである。
優季(ゆうき)は、暗がりの中、鍛練場で木刀を振っていた。
今日、優季は、冬花(とうか)が寒村を離れてから初めて彼女の姿を見た。
冬花は、薄く化粧をしており、髪も伸びていたが、あの日の面影を残している。
冬花を見た時、優季は冬花を抱きしめたい思いでいっぱいになった。
冬花が何か言いかけたことも、優季は気がついていた。
でも、優季は心を閉ざして、冬花を拒絶するように努めたのだ。
優季は、自分が冬花のことを覚えていることを周りに知られると、もう2度と冬花に逢えなくなると分かっていた。
実際、冬花の母親が、優季のことを探るような視線で見ていた。
あの時、少しでも優季が冬花に反応していたならば、おそらく優季は政望(せいぼう)の護衛から外され、王城から遠く離れた任地へと配置換えになっていただろう。
冬花の母親は、娘の王城での暮らしを壊しかねない優季の存在を、きっと許さないであろう。
政望が、冬花たちに優季が記憶を失くしていると話したことは、優季にとってはありがたいことであった。
政望と年の近い優季は、政望の話し相手となることが多かった。
政望は、好きな女性がいるらしく、1度だけ、優季に恋の相談をしてきたことがあった。
その時に、優季は、政望から好きな人がいるのかと聞かれ、半分本当で、半分嘘の話をした。
「昔、私にも大切な人がいたらしいのですが、私が16歳の時、その人は遠いところへ行ったらしいのです。詳しくはわかりませんが、父母の話では、その日以来、私は、その人と彼女の家族のことを完全に忘れてしまったそうです。父母たちも、私を気づかい、その人たちのことについては、何も話しませんでした。その人が、私の好きな人に間違いはないと思うのですが、私は、その人の顔も、声も、ぬくもりも、全てを覚えていないのです」
優季の話を聞いた政望は、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
それ以来、政望は優季に恋の話をしてこない。
冬花の母親は、優季に冬花に近づかないように釘をさしてきたが、冬花は優季の嘘を信じている様子であった。
優季は、自分が冬花を気づかない振りをすることで、冬花を傷つけることは避けたいと思っていたのだ。
記憶を失った優季が冬花を気がつかなくても、冬花も諦めがつくだろうと優季は考えていた。
本当は、優季が冬花のことを忘れたことは、1日たりとも無かった。
優季は、大きく息をして、木刀を地面に置くと、懐から薄汚れた手拭いを取り出した。
その手拭いは、昔、冬花が優季にくれたものであった。
手拭いを見つめながら、思わず優季は呟いた。
「冬花……」
辺りは完全に真っ暗になっており、優季が鍛練場に灯した松明だけが周囲を照らしている。
辺りには、誰もいない。
優季は、冬花と過ごした日々を思い、まぶたをとじた。
初めて告白をした日、結婚を申し込んだ日、冬花を初めて抱きしめた日、寒村での幸せだった日々を優季は思い出していた。
優季の思い出の中では、優季の側には、いつも冬花が笑っていた。
優季は、手拭いを大事に懐にしまうと、再び木刀を手に取り、一心不乱に振り始めた。
「ハッ、ヤッ、ハッ……」
静かな夜に、優季のかけ声と、木刀が空を斬る音だけが響いていた。
優季は、その後、しばらく鍛練場で木刀を振り続けていた。
まるで、冬花への想いを振り払おうとしているかのように、優季は木刀を振り続けていたのである。
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