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第一章 勇者候補
001.お使いクエストクリア
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勇者候補を名乗ってから、はや数ヶ月。
俺は、金欠と空腹に悩まされていた。
……まぁ、勇気を出せない俺が悪いんだけど。
見上げるほどに高い棚が一つあり、ぎっしりと本が詰まっている。俺は達成感と、少しの悔しさに息を吐いた。床に積み上げられたままの本が、視界に入る。
もう少し時間があれば、片付けられたかも。でも、時間は時間だ。俺は本棚だらけの部屋を後にした。
依頼主のお婆さんは大きな杖を椅子に立てかけ、棚の中を漁っていた。
窓の外からは夕陽が差し込んでいて、部屋を柔らかく照らしている。
お婆さんは俺に気がつくと、ニッと笑った。
「あっという間だねぇ」
「すみません、全部は片付けられなかったです」
「いいんだよ。あの子たちは元気が良すぎるから」
俺は首を傾げる。元気が良すぎる本って、どういうことだろう。
ぐぅぅぅ───
腹の虫は空気を読むなんてことは知らない。しかも、すごく大きな音だ。
俺は固まった。いや、もしかしたら聞こえていなかったかも。
お婆さんは穏やかに微笑んでいる。
「おや、お腹が空いているのかい?」
聞こえ、ちゃったのか……。
「えっと、夢中になって、食べるの……忘れちゃって」
頭をわしゃわしゃとかいた。
実は、何日もまともな食事を取れてないんだけど。とか、流石に言えない。
彼女から、クエストの報酬を受け取ると、手の中で硬貨が音を立てた。
手の中を覗き込むと、そこには三枚の小銅貨が身を寄せ合っている。
「でも助かっちゃった、ありがとうね」
「いえ、これも。勇者候補の務めなので!」
感謝の言葉って本当に嬉しい。にっと笑うとまた、短くお腹がなる。引っ込めればならないかな。
報酬を布袋にしまい、顔を上げた。出口どっちだったっけ。この家、少し難しいんだよな。
「勇者様、ちょっとだけ待ってちょうだい」
彼女はそういうと、部屋の奥へと消えていった。
まだなんか、あったけ。クエストの手続きとかは、冒険者ギルドのはずだし。
一人になった部屋には、おばあさんの大きな杖が立てかけられていた。
彼女の足音が部屋の奥から聞こえてきた。その手にはカゴの中に入ったパンがあった。
おいし……いやいや。俺はぎゅっと拳を握る。お婆さんは、そのパンを差し出した。
「どうぞ」
「いえ、いただくわけには」
「これはね私が作ったパンでね。お爺さんも大好きな味だったんだ。とってもおいしいから、勇者様にも食べてもらいたいんだよ」
俺の手の平にパンが乗せられた。
おいしそうな香りが鼻をくすぐり、腹の音がまたなった。
「ありがとうございます! 後でじっくりいただきます」
決めた。またお婆さんがクエストを発行したら、絶対に受けようと。
お婆さんの家を後にし、自分のお財布の中身を覗き、ため息が出た。
所持金、銀貨数枚と、小銅貨が少しだけ。
お使い系クエストだけじゃ、金欠は解消されない。
貯金もあるにはあるけど、それは最終手段だ。
魔物討伐系のクエストに挑めば、もう少し生活が楽にはなる。でも……
怖いんだ。
俺はまだ弱すぎる。冒険者レベルはまだまだだし、仲間を集いたくても守り切れる自信がない。だから、もう少し鍛錬を積んで、強くなって……魔物討伐は、そのあとだ。まずはできることからやるんだ。
いただいたパンを小さくちぎり、口の中に運んだ。
ゆっくりと噛み締めれば、バターの香りがほんのりとした。
少し甘くて、美味しくて。視界が少し滲んだ。
俺は、金欠と空腹に悩まされていた。
……まぁ、勇気を出せない俺が悪いんだけど。
見上げるほどに高い棚が一つあり、ぎっしりと本が詰まっている。俺は達成感と、少しの悔しさに息を吐いた。床に積み上げられたままの本が、視界に入る。
もう少し時間があれば、片付けられたかも。でも、時間は時間だ。俺は本棚だらけの部屋を後にした。
依頼主のお婆さんは大きな杖を椅子に立てかけ、棚の中を漁っていた。
窓の外からは夕陽が差し込んでいて、部屋を柔らかく照らしている。
お婆さんは俺に気がつくと、ニッと笑った。
「あっという間だねぇ」
「すみません、全部は片付けられなかったです」
「いいんだよ。あの子たちは元気が良すぎるから」
俺は首を傾げる。元気が良すぎる本って、どういうことだろう。
ぐぅぅぅ───
腹の虫は空気を読むなんてことは知らない。しかも、すごく大きな音だ。
俺は固まった。いや、もしかしたら聞こえていなかったかも。
お婆さんは穏やかに微笑んでいる。
「おや、お腹が空いているのかい?」
聞こえ、ちゃったのか……。
「えっと、夢中になって、食べるの……忘れちゃって」
頭をわしゃわしゃとかいた。
実は、何日もまともな食事を取れてないんだけど。とか、流石に言えない。
彼女から、クエストの報酬を受け取ると、手の中で硬貨が音を立てた。
手の中を覗き込むと、そこには三枚の小銅貨が身を寄せ合っている。
「でも助かっちゃった、ありがとうね」
「いえ、これも。勇者候補の務めなので!」
感謝の言葉って本当に嬉しい。にっと笑うとまた、短くお腹がなる。引っ込めればならないかな。
報酬を布袋にしまい、顔を上げた。出口どっちだったっけ。この家、少し難しいんだよな。
「勇者様、ちょっとだけ待ってちょうだい」
彼女はそういうと、部屋の奥へと消えていった。
まだなんか、あったけ。クエストの手続きとかは、冒険者ギルドのはずだし。
一人になった部屋には、おばあさんの大きな杖が立てかけられていた。
彼女の足音が部屋の奥から聞こえてきた。その手にはカゴの中に入ったパンがあった。
おいし……いやいや。俺はぎゅっと拳を握る。お婆さんは、そのパンを差し出した。
「どうぞ」
「いえ、いただくわけには」
「これはね私が作ったパンでね。お爺さんも大好きな味だったんだ。とってもおいしいから、勇者様にも食べてもらいたいんだよ」
俺の手の平にパンが乗せられた。
おいしそうな香りが鼻をくすぐり、腹の音がまたなった。
「ありがとうございます! 後でじっくりいただきます」
決めた。またお婆さんがクエストを発行したら、絶対に受けようと。
お婆さんの家を後にし、自分のお財布の中身を覗き、ため息が出た。
所持金、銀貨数枚と、小銅貨が少しだけ。
お使い系クエストだけじゃ、金欠は解消されない。
貯金もあるにはあるけど、それは最終手段だ。
魔物討伐系のクエストに挑めば、もう少し生活が楽にはなる。でも……
怖いんだ。
俺はまだ弱すぎる。冒険者レベルはまだまだだし、仲間を集いたくても守り切れる自信がない。だから、もう少し鍛錬を積んで、強くなって……魔物討伐は、そのあとだ。まずはできることからやるんだ。
いただいたパンを小さくちぎり、口の中に運んだ。
ゆっくりと噛み締めれば、バターの香りがほんのりとした。
少し甘くて、美味しくて。視界が少し滲んだ。
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