勇者候補No.002024の冒険記録

磁石もどき

文字の大きさ
3 / 3
第一章 勇者候補

003.契約

しおりを挟む
 手のひらの上に乗せられた救助代の請求書と、ケインさんを交互に見た。
 
 もちろん、助けられたし、なんらかの形でお礼はさせてもらいたいけれど。
 こんなに真正面に救助代を請求されるとは思わなかった。そもそも、救助代って何が含まれるんだ。
 表し難い不思議な気持ちが込み上げてくる。

 急いで中身を確認する。
 移動費、回復魔法上級の使用、パンと水代。合計、銀貨五枚だ。

 銀貨五枚⁈
 
 俺の貯金をはたいたところで間に合わない。急に頭がズキズキしてきた。

「……少し先になってもいいですか? 俺、お金もってなくて」

 彼は首を傾げ、瞬きをする。

「ずいぶんと困窮しているのですね」
「……パーティも組めてないんです。俺、10レベですし」

 俺は拳をギュッと握った。

「そういうことでしたら、私が力になりましょうか」

 今、なんて言ったんだ? 俺は顔を上げた。
 ケインさんは懐からもう一つ筒状の紙を取り出した。広げると一番上に書かれた大きめな文字が目に入る。契約書、らしい。
 膝の上にサッと置かれ、それを手に取る。

 以下の事柄について、それぞれ以下の金額を請求。
 回復魔法、防御魔法、呪い、毒、痺れなど状態異常の解除、鍵開け、衣食住の手配……。
 俺は顔を上げ、深呼吸する。一旦落ち着こう。

「私がユウさんのパーティ加入するにあたっての契約書です。熟読したのち、こちらにサインをお願いします」

 ケインさんに押し付けられそうになったペンを一旦断る。彼はペンを宙に放った。
 彼の周辺をふわふわと浮く羽ペンはまるで生き物のようだ。……じゃなくて。

「俺10レベの弱弱勇者候補ですよ?」
「何も、そこまで卑下しなくても。それにユウさんがどんなに弱かろうと問題ありません。私は優秀な冒険者僧侶なので」
「そうじゃなくて……。なんで、俺のパーティに入りたいかっていうのがわからなくて」

 
「確実に救助代を回収するためです。そのご様子だと何年かかるかわかりませんし、また倒れられて追加料金……は、ユウさんとしても本意ではないでしょう?」

 ケインさんは相変わらず綺麗な瞳をしている。
 そりゃ追加料金は嫌だけど。回収したいから加入って、そういうこともあるの、かな?
 俺の頭がまだ寝ぼけているのだろうか。軽く頬をつねる。ちょっぴり痛い。

 「救助代を支払うまでの、一時的な加入……ってことですか?」
 「いえ、継続的な加入です。私はあくまでサポーターですからね。パーティに加入した方が収入が安定します。もちろん、ユウさんの成長のお手伝いもいたしますよ」

 ケインさんはまた一つ紙を取り出した。今度はなんだろうと中を見ると、細かい文字で色々書いてある。
 サポート系の魔法一覧……かな? なんで今。流石にさらっとしか見れなかった。これ以上色々詰め込んだら頭がパンクしそうだ。

「私が習得している魔法とスキルの一覧です。おちついたらご一読いただけると幸いです」

 全部鵜呑みにするのは違うと思うけど、本当ならかなりの実力者だ。
 さらっと見ただけでも、とんでもない数だったし。

「すごい僧侶さん、なんですね?」
「はい。かつてフモト付近でも活動していましたが、今まで一度たりとも死者を出したことがありません。もちろん、今後も出す予定はございませんので、ご安心ください」

 すごい自信だな。それにフモトって、今いる大陸の一番東にある町だし。なんでそんな遠いところにいた僧侶が、ここにいるんだ?
 話せば話すほど疑問しか出てこない。彼の微笑みも、何かを隠すためのものにしか見えなくなってきた。


「救助代は払いきりますし、できれば協力もお願いしたいです……けど」

 契約書もまだ読めてないし、さっきの魔法一覧表もそうだし。
 というかパーティ加入ってそんな簡単な感じなのかな。

「お試し期間、みたいなのってダメですか? その、パーティ組むの初めてなので色々わからなくて」
「仮加入ですね? もちろん、構いませんよ」

 彼は懐からまた別の紙を取り出した。仮契約用契約書、って用意がいいな。
 あと、その懐どんな構造になってるんだろう。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

迎えに行ったら、すでに君は行方知れずになっていた

月山 歩
恋愛
孤児院で育った二人は彼が貴族の息子であることから、引き取られ離れ離れになる。好きだから、一緒に住むために準備を整え、迎えに行くと、少女はもういなくなっていた。事故に合い、行方知れずに。そして、時をかけて二人は再び巡り会う。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...