残念なゴブリンは今日も世界に死に戻る

長谷川くおん

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6.反省だけならサルでもできる

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 焼き立てフカフカのパンは、控えめに言っても「最高!」だった。
 あまりの美味しさに、私は涙が止まらなかったし、ミギエさんもゆっくりと味わって食べていた。手のひらについた口が、パンをひたすら咀嚼する絵面えづらは恐怖でしかなかったけどもーー

「美味しかったね。食べられるって、幸せな事だったんだね」

 改めて食の大切さに気づかされ、そんな言葉が自然とこぼれた。
 2人の空腹を満たせるほどの量ではなかったが、それでも幸せなひと時だった。

「さて……と、そろそろ行きますか!と言いたいとこだけども。実は出発前に、1つやっておかなければならないことあります!」

 私は、食事を終えて親指と小指を器用に使いその口元を賢者のローブの端で拭っているミギエさんに声をかけた。

「さっきからずっと『銀の匙』を使うたびに、何かと怪我してるじゃない? アレをどうにかしないと、気軽にスキル使えないし、下手したらいつかどこかで自爆なんてことになりそうで怖いのよ」

 ミギエさんは、訝しげに私の話を聞いている。

「それで思い出したんだけど、確か『富江』の派生スキルに色々な耐性とか状態異常無効のチート級スキルあったなって。アレ見て内心、めちゃくちゃいいスキル! ーーって思ったんだけど、なんか他に突っ込みどころあり過ぎて、結局OFF設定のままスルーしちゃってたんだよね」

 心なしか、ミギエさんの視線が痛い。目はないはずなのに……
 私、何か変なこと言ってる?

「だからアレをON設定すれば、これから先、多少危険な目にあっても、基本ステータス低くても、死なずに脱出できるんじゃないかと思うの。いやもちろん、死んでも『富江』スキルで復活できるのはわかってるんだけど、そもそも復活にどのくらいの時間が必要なのかもわからないし、復活前に氷漬けにされたり、細胞まで焼き尽くされたりしたら、万事休すなわけだしーー」

 何故か、ミギエさんのジト目がひどくなってるように感じる。

「まぁ、本当は単純に、これ以上痛い思いも死ぬ思いも二度としたくない! ってのが本音なんだけどさ。意識覚醒した状態で前みたいな死に方するなんて、発狂もんだもん」

 そう、もう二度とーー 絶対に死にたく無い! 死ねない理由が私にはある! 痛いのは死んでも嫌なのだ!
 私は何故か不穏な空気を醸し出すミギエさんから、視線を外すようにして、スキルステータス画面を表示した。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 『富江』

 何度死亡しても蘇る(但し、要細胞片)
 分身体の作成(本体との意思疎通可能)

 -習得済み派生スキル一覧-
 状態異常無効(OFF)
 打撃耐性(OFF)
 斬撃耐性(OFF)
 痛覚軽減(OFF)
 死亡経験値獲得(ON)
 意識覚醒・知能活性(ON)
 富江の欠片

 派生スキル解放条件:100万回死亡(達成済)
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 やはり習得済みの派生スキルは、なかなかの粒揃い。
 これさえON設定にしておけば、多少の痛みは我慢することになるとしても、そうそう死ぬ目に合うことはなさそうだ。
 初めて見た時は、『富江』インパクトのあまり感動できなかったけど、今なら言える!
 ありがとう、『富江』様!
 ありがとう、伊藤潤二先生!

 私はとりあえず、1番大事な『痛覚軽減』のオンオフ設定をタップした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 『痛覚軽減』(OFF)
 ON設定切替条件:経験値5,000
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 は?
 は?
 は!?

「はぁぁぁぁあ!!!?」

 その鬼畜な条件設定に、軽い目眩を覚え思わず天を仰いだ。
 ジーザス……
 そして右耳に、「やっぱり……」と言いたげな呆れまじりの軽いため息が吹きかかる。
 私は目を閉じたまま、震える声で言葉を紡いだ。

「もしかして……知ってた?」
「あー…… あっ」

「まぁ、薄々気付いてた」との回答に、「なんで、そんなに賢いの? 明らかに逆だろ!」と思わずにはいられない。この知能指数の差! 

『痛覚軽減』5,000
『打撃耐性』10,000
『斬撃耐性』10,000
『状態異常無効』100,000

 それぞれのON設定切替に必要な経験値は想像以上のものだった。
 私、これ何回死んだらいいわけ?
 そもそも100万回死んだ事で、習得済みなスキルなわけでしょ? 勝手にOFF設定になってたくせに、何故にこんなにも経験値を消費しなければならないのか!
 いじめか? か弱いゴブリンに対する新手のいじめか?
 全然、転生特典感がない。残念が過ぎるよ、今世の私!

「あっ、あっ」
「痛っ!」

 長々と放心状態の私に、ミギエさんからの軽い檄が飛ぶ。
 それだけで、私の少な過ぎるHPは2も削られてしまうというのに。やめて、身内に殺される。

「あっ、あっ!」
「いいからスキル表示画面を見ろって? 何回見ても、高いものは高いし、買えないものは買えないんだよ」

 半ば自暴自棄ヤケクソで頭を下げて視線を移す。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 『トランクルーム』レベル1
   ーー大型スーツケースサイズーー
 素材のみを収納、管理することができる

 レベル2解放条件:経験値200
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 これは確かミギエさんが勝手に解放した『銀の匙』の派生スキル。便利だけど、解放条件高すぎだよって突っ込んだ代物。
 レベル1で大型スーツケースサイズって……全然トランクルームじゃ無いじゃん! 景品表示法違反だよ!

「あっ、あ、あぁー」
「え? 上げるならコレを上げろって? えー、でも今そんなに持ち物あるわけじゃ無いし、別に急いで上げる必要ないんじゃ無い? とりあえず大型スーツケースサイズがあれば足りるでしょ?」

 痛覚軽減獲得のために、コレから経験値を貯めなければならないというのに、何を言っているんだ? この人はーー

「あっ、あっ」
「200くらいケチるなって言ったって、今残り経験値1500くらいだし、この部屋から出たら一体何があるかわかんないわけだし、節約は大事なんだよ? ダメダメ! ぜーったいダメ! それにどうせ上げたところで、ほんのちょっと大きくなる程度だって!」

 私は話は終わったとばかりに、スキルステータス画面を閉じた。
 こういうことは最初が肝心。躾は厳しくしておかないと!

「あっ! あっ! あっ!」
「痛い痛い痛い! もう、そうやってすぐ暴力に訴えるのやめて!」

 すぐに仕返しやりかえされる。
 なんなんだ、この暴力右手は! 親の顔が見てみたい!

「もー、わかったよー。1回だけだよ?」

 私はジンジンと痛む首筋をさすりながら、改めて『トランクルーム』のステータス画面を開いた。

 ーーと、その刹那ーー

「あっあ、あ~~」

 ミギエさんが、今まで発したことのない雄叫びを上げながら機敏にジャンプし宙を舞い、『トランクルーム』のレベル解放ボタンを3回タップした。

「えええええええ!!!」

 《『トランクルーム』レベル4解放要請を確認、承認しました。充当経験値を消費します》

「あああぁぁぁぁ!!」

 その日、私はなけなしの経験値1500と、本体としての威厳を完全に失ったーー


 閑話休題。
 うちの右手は、傍若無人である。血も涙も本体もない、ドS暴君である。コレと決めたら、最後までやり通す。非常に男前だが、私にとっては目の上のタンコブ並みに、残念な子である。

「ひどい……ひどいよ、ミギエさぁぁん……」
「あっ?」
「そりゃ、ミギエさんのせぃ……いや、お陰で『トランクルーム』が東京ドーム3個分っていうわけわかんないデカさにはなったけどさぁぁぁぁ」
「あっ?」
「そんなにデカくても、入れるものがなければ意味ないじゃない。とりあえずスーツケースで十分だったのにさぁ」

 いじけてそう悪態を吐きながら、脂ギッシュメタボの装備品や壁際のテーブル等をトランクルームへと収納していく。

『トランクルーム』空間収納スキル。
 スキルの使い方は簡単だった。発動したまま、対象物に触れるだけでいい。それだけで瞬時に収納され、対象物は何処いずこかへ消え去るのだ。

「コレも、持っていくか」

 左手に持った松明を残して、壁に残る全てを片付けていく。
 流石にコレは無理だろうと試しに挑戦してみた松明の火も、無事消す必要なくそのまま収納可能だった。なかなか優秀なスキルである。さすが高いだけはある。
 7本目を無事に仕舞終えると、一気に部屋が暗闇のそれへと変化した。

「じゃあ、行こっか? ここから先は何があるか分からないから、油断しないようにしないとね」

 ゴクリと喉を鳴らし、出口の扉に手をかけた私をーー

「あっ! あっ!」

 ミギエさんが、「忘れ物だよ!」と呼び止めた。

「え?」

 真顔のミギエさんが指差す先、そこにあるのはもちろん忘れたわけでないアイツ。脂ギッシュメタボの死体。

「いやいやいやいや、あれは置いて行こうよ。むしろ、何故持って行こうと思った? そもそもアレ『トランクルーム』には入らないから。あのスキルは、素材しか収納出来ないんだから」
「…………」
「そんな目で見ても、素材しか…… ーーえ? アレって、素材じゃ……ないよね?」

 私はツカツカとそれに近づくと、無詠唱で『素材鑑定』を発動した。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 人間種の死骸
 個体名:ハロルド・レードル・バレストン
 職業:普通の魔術師
 レベル:42
 死因:雷魔法を使った際に起こした心臓発作

 レベル40以上の死骸のため特別素材適応可能
 ーー変化の実(人也ひとなり)ーー作成材料
 ーー強欲の装備シリーズーー作成材料
 他、一般人間種死骸としても流用可能
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私はミギエさんを両の手のひらに乗せて、深く頭を下げ、そして再び右肩に戻すと、無言のまま脂ギッシュメタボの死骸を『トランクルーム』へと収納した。
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