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15.国王の狂気
しおりを挟む「ユアンが行方不明……だと? 嘘だ……そんなはずはない! 何かの間違いに決まってる! これは一体、どういうことだ!」
その知らせがアルブレンス王国現国王アンブロ・ガラマ・アストゥール・アルブレンへと届いたのは、件の事件から6日が経過した夜半のことである。
「俺がどんな状況下にあっても構わん。少しでも異変を感じたら直ぐにでも知らせるように……」
そう命を受けた通りに、とうに寝所へと引き下がっていた王へと火急の報せを届けたのは、王の子飼いの間者ハルゾウの配下の者である。
その知らせに目を通すなり、国王アンブロは激しく取り乱し、己が頭を掻き毟った。
「こんな紙切れでは、よく分からん! 子細を申せ!」
「申し訳ありません。実は私共にも全く状況が…… 報告にあります通りーー6日前の夜、予定通りに討伐晩餐会が開催され、頭領他1名の間者が予定通り、エルバルグ辺境伯様の支援及び監視のため、東の国の一商人として潜入致しました。途中繋ぎがございまして、当初は第一皇子と宰相子息を学園の生徒との模擬戦でーーという予定でございましたが、晩餐会開始直前になりまして、魔物の調達が出来たという報告があり、例年通り魔物討伐の模擬戦での事故という形を取ることにしたと……」
「それで?」
「それが…… 繋ぎがあったのは、その事のみでして…… 夜半近くなっても繋ぎもなく頭領も戻らぬということで、我々が確認に向かいました際には既にーー」
「屋敷ごと全てが消え去っていたーーというわけか?」
「左様でーー」
――ガシャン!
国王アンブロは近くにあったガラス製の水差しを間者へと投げつけた。
「――申し訳ございません」
患者は避けることなく、国王アンブロの八つ当たりを当然の如く身に受ける。
「誰一人か……?」
「エルバルグ辺境伯様を始め、第一皇子様、王国騎士第二団、招待客である貴族から商人、屋敷の下働きの者に至るまで全てーー」
「何人だ?」
「分かっているだけで、264名―― さらに屋敷までの道中に待機させておりました間者2名も併せて消え失せましてございます」
国王アンブロは絶望のため息を吐くと、ドカリとベッドへ腰を下ろした。そのまま頭を抱えて項垂れる。
「ユアンの裏切り……の線は、ないな……」
口に出して、改めてそれは無いと断言できた。
ふと、「直前で魔物の調達」という言葉が国王アンブロの脳裏を掠める。
「魔物…… まさかあのゴブリン……」
この計画の要――何を無くしたとしても、それだけは取り戻さなければならない。
「消えたゴブリンを見つけ出せ! どんな手を使っても構わん。反抗する奴は殺しても構わん。貴族だろうがなんだろうが躊躇するな。どんな些細なことでも見逃すな! 必ず、必ず手がかりを見つけ出せ」
そう命じると、国王アンブロは間者を再びエルバルグ領へと送り出した。
そして、ベッド脇の壁の一部、カラクリ戸の仕掛け装置を起動させると、大いなる憂いを胸に秘密の地下室への道を歩き始めた。
エルバルグ領の大都市パルバスから、首都カンザリアンまでの距離は、馬車で10日ほどと言われている。
早馬による伝令が王城へと到着したのは、件の事件から8日後の早朝だった。
国王アンブロは伝令からの報告を受け、早急に宰相及び有力貴族を王城へと召集した。
「エルバルグ辺境伯の屋敷ごと、全てが消え失せたですと⁉︎」
会議開始早々、国王から告げられたエルバルグ辺境伯邸消失事件の概要に、アルブレンス王国宰相ダルス・エム・ブランコから驚きの声が上がった。
「そこにはダルミアン第一皇子と息子のバルゴーも一緒に……」
宰相ブランコの顔から血の気が引いていく。
それは他の貴族達も同じだった。中には妻子を晩餐会へ戸送り出していた貴族もいるらしく、皆一様に取り乱している。
事に、宰相ブランコのそれは群を抜いていた。
「王! 今すぐ討伐軍を組織して、挙兵致しましょう! 第一皇子の安否が不明など、国の一大事! 一刻の猶予もなりませぬ」
ただ、屋敷と人が消えた。
それしか情報のない第一報に対し、いくら前代未聞の事態とはいえ、ブランコの提案は些か浅慮という他ない。
側から見れば、それは愛する子息の安否を心配するがあまりにとった言動と言える。
しかし、国王アンブロは全く別の感想を抱いていた。
(やはり、相手はお前か……)
国王アンブロには側室がいない。
故に、子は王妃クレアンス・ナターシャ・リロードの産んだダルミアン・タナル・ルイス・アルブレン第一皇子のみである。
しかし、ダルミアン第一皇子は国王アンブロの子ではなかった。国王アンブロは、王妃クレアンスと一度も寝屋を共にした事が無いのである。
では、ダルミアンは一体誰の子なのか……? 候補は3人ほどいたが、決め手には欠けていた。
ーーが、その答えが今、はっきりと分かった。
「挙兵はせぬ。子細が分からぬうちはな」
国王アンブロの最もな言い分に、なおもブランコは食らいつく。
「しかし、ダルミアン様はこの国唯一の皇子……皇太子であらせられます!」
「だから、なんだ?」
「え……」
「だからーー子細もわからぬうちに? 何と銘打つつもりか知らんが、軍を率いてエルバルグ領へ侵攻せよと申すか?」
国王アンブロの正論に、ようやくブランコの顔色が青から真っ赤に、そして正気へと戻る。
ブランコの気の取り乱し方もさる事ながら、国王のその冷静さも異様であった。まるで第一皇子の安否など歯牙にもかけないといった風である。
あまりにも両極な反応の両者に、誰もが難しい顔で口を噤む。
事実、国王アンブロは、今回の特殊討伐にてダルミアン第一皇子を亡き者にせんと画策していた。
先日、長年探し求めていた国王アンブロの愛した唯一の女性がようやく見つかったのだ。彼女は密かに国王アンブロの子を産み育てていた。――となれば、もうニセモノは必要ない。
エルバルグ辺境伯の協力の下、間者ハルゾウと緻密に練り上げられたその計画に、抜かりはないはずであった。
――しかし……
「今回の事態、まさか魔族の仕業という可能性はありますまいな?」
重い雰囲気を打ち破るかのように、キレ者と名高いカンブリア公爵が口を開いた。
「魔族! 確かにそう考えれば、この面妖な事件にも説明がつく!」
「しかし、魔族との間には先の大戦の折、不戦協定が結ばれているはず……」
「先の大戦からもう百余年。協定を破る輩が出て来てもおかしくないであろう」
「そういえば、十数年前に魔王が復活したとの報告もありましたな。あの時は特に何も動きがなかったから静観したが、もしや今になって……」
皆が皆、疑心暗鬼の名の下に、ああでもないこうでもないと憶測を繰り返す。
「まずは正確な情報を手に入れる事が第一だ。消えた人間の数、そしてその価値、さらにアレだけの規模の屋敷が一夜でーーともなれば、いかに箝口令を敷こうとも、人の口に戸は立てられまい。皆は領内に要らぬ混乱が広がらぬよう、己が領地内に規制をーー これよりエルバルグ領からの通行には規制をかける。領民、冒険者はもとより、商人、貴族に至るまで、その荷物まで全て調べ上げる。討伐隊に参加しなかった第二騎士団の面々、及び第三騎士団を派遣して調査に当たらせる。新しい情報が入り次第、また直ぐに集まってもらう事になる故、皆王都から出ぬように。よいな?」
それから一月もしないうちに、この前代未聞の大量消失事件の噂は、王国内に瞬く間に駆け巡った。
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