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第1章
5話 初依頼
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※長さの単位でミィというのが出てきますが、1ミィ=1mとなります。
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資料室から出るとすぐにタツヤを見つけたので合流し、依頼へ向かった。
ララニアは森に囲まれている町で、ララニア草は周辺の森なら何処でも生えている。
しかし依頼されたララニア草は花を付けた状態の物で、花を付けるには日当たりや空気中の魔素量などが関係しているらしく、中々見つからないらしい。
魔素というのは簡単に言うと自然界が作り出した魔力だ。
とりあえず僕達は、魔石を取りに行った森とは真逆の南の森へ向かった。
「コレがララニア草みたいだね」
僕は目の前の草を指差す。
色は深緑色で葉っぱの外側がギザギザしていて特徴的だ。
「タンポポみたいだな」
「ん?タンポポって何?」
「俺の住んでた所にも似た草があったんだ」
「そうなんだ」
気になる所だけど突っ込んで欲しく無さそうだからやめておこう。
僕にも話したく無い事はあるし。
「でもこのララニア草には花が付いて無いからダメだね」
「そうだな」
「森以外だと日当たりが良い川辺にも生えてるらしいから川を探した方が早いかもね」
「それじゃもう少し奥に行くか」
川は森から生まれた魔素が集まる所でもあるので、花を付けるための魔素量は十分あると思う。
「川の近くは魔物が出やすいから気を付けて進もう」
基本的に魔素の多い場所に魔物は集まりやすい。
それはダンジョンでもダンジョン外でも変わらなかった。
しばらく進むと水の流れる音が聞こえて来て、幅1ミィ位の小川を見つけた。
「ここら辺にあるはずだから探そう。さっきも言ったけど水辺は魔物が集まりやすいから気を付けて」
「おう、わかった」
ここで二手に別れるのは危険なので2人で行動する。
「お、あそこに咲いてるのがそうか?」
タツヤは約4ミィ先の対岸に見える大きな岩の下を指差している。
確かにそこには大量の黄色い花が咲いていた。
「確かにそれっぽいね・・・魔力感知」
大量に咲いているという事はここを見付けられなかったか、何かしらの理由で取る事が出来なかったということ。
そしてもし後者だった場合、魔物が原因である可能性が高い。
そういう場面で魔力を節約なんてしていたら命がいくらあっても足りない。
「待ってタツヤ、あの大きな岩のところに魔物の反応がある」
近付こうとしているタツヤの腕を掴んで止める。
魔力探知を使った事で僕の魔力は残り3分の2になってしまった。
「え?魔物なんて見えないけど」
確かにあそこには大きな岩と大小様々な岩と石、そしてララニア草と思わしき植物があるだけだ。
「魔力の反応的に、あの大きな岩自体が魔物みたい」
「あの岩が!?」
「うん、まあタツヤのホーリーアローなら問題なく倒せそうだけど・・・」
「まあララニア草は無事じゃ無いよな」
そういう事だ。
あの時の様子からコントロールはできていないんだろう。
「それじゃあ僕が気付かれない様に取ってくるよ」
「お、そんなことできるのか?」
「まあ見ててよ」
コレでも勇者パーティでスカウトを担当していたからこんなの朝飯前さ。
このダンジョンを探索している感じに少し心が踊る。
「サイレント」
サイレントとは僕の周囲の音や振動、そして気配を消す魔術。
でも見た目や匂いは消えていないので、目や鼻の良い魔物には透明化も使わないと意味がないけど、岩石系の魔物は基本的に目が見えないし匂いも感じないからサイレントで十分だ。
この魔術は使用し続ければ続けるほどに魔力を消費するので、なるべく使用時間を抑えたい。
僕は支給されたララニア草の花を入れる瓶を小脇に抱えながら、小川を飛び越えて最短距離を駆ける。
踏み込み、着地、足音、風を切る音さえも聞こえず、まるで僕がこの世界から浮いた存在になったかの様な感覚を覚える。
いや、もしかしたら僕という存在は世界から見れば異質で、浮いた存在なのかもしれない。
そうして目の前の魔物に気付かれる事なくララニア草のところまでやってきた。
ナイフとかがあれば良かったけどそれを買うお金はなかったので、花をソッと摘み取る。
・・・魔物も動く様子はないな。
その状態に一安心すると素早く残りの花を瓶に入れ、蓋をするとタツヤの元へ戻った。
「すごいなエルム!何の音も聞こえなっ」
タツヤが興奮気味に話しかけてきたので急いで口を塞ぐ。
「静かに!岩石系の魔物は基本的に獲物が近くに来ない限り襲わないけど。そうじゃない個体もいるから」
タツヤが頷くのを見て手を外す。
「葉っぱはタンポポで花の形は水仙なんだな」
スイセンという謎の単語がタツヤの口から出たけど聞かなかった事ににして、魔力感知を使い周囲に岩の魔物以外何もいない事を確認してから、この場を離れた。
帰り道は魔力を使ったせいか空腹で足取りは重かった。
花の入った瓶を受付嬢に渡すと、もう終わったのかと驚かれてしまった。
そして報酬の50ギルを受け取る。
採取依頼は労働の割には報酬が少ないかな。
そのままギルドに併設されている酒場で食事を取っても良かったけど、先に宿を取ることにした。
宿無しは嫌だからね。
でもこの判断は間違っていた。
「エルム大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
陽は沈み魔道具の街灯が光り出した頃、僕はタツヤの肩を借りてようやく歩けている状態に陥っていた。
受付嬢に聴いた宿までなら我慢できるだろうと思ったけど、まさかここまで空腹が辛いものだとは思ってもみなかった。
正直、喋るのもキツい。
「ほら、宿が見えてきたからもう少し頑張れ」
「うん」
僕達が勧められた宿は「雛鳥の巣」という名前で、アイアンランクの冒険者専用に安い値段で部屋を貸しているらしい。
僕達が宿に入ると恰幅が良く優しそうな人間の中年女性がエプロン姿で受付をしていた。
「あらあら~どうしたの?」
女性が立ち上がり心配そうに僕達へ駆け寄る。
「部屋を借りたいんだが、まずこいつに飯を食わせてやってくれないか?」
「ええ、ええ、良いわよ~。こっちに連れてきてもらえるかしら?」
女性は僕達を長テーブルと複数の椅子がある部屋へ案内すると、奥の部屋に入って行った。
タツヤに手伝ってもらい椅子に座ると、女性が皿に山盛りの丸パンと野菜が入ったスープを持ってきてくれた。
「ハイどうぞ~」
目の前に出された食事に僕は無我夢中にかぶりつく。
その光景にタツヤは驚いている様子だけど、これには僕も驚きだ。
自分でも抑えようとはしているんだけど腕が勝手に動いてしまう。
二度とこんな醜態を晒さない様に食欲管理をしっかりすると心に決めた。
「うふふ、まだまだあるからいっぱい食べてね。さあ坊やも食べて?」
「え、いや。まだお金を払っていないけど」
「食べ終わってからで良いわよ。坊やもお腹空いているでしょう?」
「そういう事なら、いただきます!」
タツヤはどこかの宗教に入信しているのか、手を合わせてから食事にかぶりついた。
そんな僕達を見ている女性の表情は心の底から喜んでいるようだった。
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資料室から出るとすぐにタツヤを見つけたので合流し、依頼へ向かった。
ララニアは森に囲まれている町で、ララニア草は周辺の森なら何処でも生えている。
しかし依頼されたララニア草は花を付けた状態の物で、花を付けるには日当たりや空気中の魔素量などが関係しているらしく、中々見つからないらしい。
魔素というのは簡単に言うと自然界が作り出した魔力だ。
とりあえず僕達は、魔石を取りに行った森とは真逆の南の森へ向かった。
「コレがララニア草みたいだね」
僕は目の前の草を指差す。
色は深緑色で葉っぱの外側がギザギザしていて特徴的だ。
「タンポポみたいだな」
「ん?タンポポって何?」
「俺の住んでた所にも似た草があったんだ」
「そうなんだ」
気になる所だけど突っ込んで欲しく無さそうだからやめておこう。
僕にも話したく無い事はあるし。
「でもこのララニア草には花が付いて無いからダメだね」
「そうだな」
「森以外だと日当たりが良い川辺にも生えてるらしいから川を探した方が早いかもね」
「それじゃもう少し奥に行くか」
川は森から生まれた魔素が集まる所でもあるので、花を付けるための魔素量は十分あると思う。
「川の近くは魔物が出やすいから気を付けて進もう」
基本的に魔素の多い場所に魔物は集まりやすい。
それはダンジョンでもダンジョン外でも変わらなかった。
しばらく進むと水の流れる音が聞こえて来て、幅1ミィ位の小川を見つけた。
「ここら辺にあるはずだから探そう。さっきも言ったけど水辺は魔物が集まりやすいから気を付けて」
「おう、わかった」
ここで二手に別れるのは危険なので2人で行動する。
「お、あそこに咲いてるのがそうか?」
タツヤは約4ミィ先の対岸に見える大きな岩の下を指差している。
確かにそこには大量の黄色い花が咲いていた。
「確かにそれっぽいね・・・魔力感知」
大量に咲いているという事はここを見付けられなかったか、何かしらの理由で取る事が出来なかったということ。
そしてもし後者だった場合、魔物が原因である可能性が高い。
そういう場面で魔力を節約なんてしていたら命がいくらあっても足りない。
「待ってタツヤ、あの大きな岩のところに魔物の反応がある」
近付こうとしているタツヤの腕を掴んで止める。
魔力探知を使った事で僕の魔力は残り3分の2になってしまった。
「え?魔物なんて見えないけど」
確かにあそこには大きな岩と大小様々な岩と石、そしてララニア草と思わしき植物があるだけだ。
「魔力の反応的に、あの大きな岩自体が魔物みたい」
「あの岩が!?」
「うん、まあタツヤのホーリーアローなら問題なく倒せそうだけど・・・」
「まあララニア草は無事じゃ無いよな」
そういう事だ。
あの時の様子からコントロールはできていないんだろう。
「それじゃあ僕が気付かれない様に取ってくるよ」
「お、そんなことできるのか?」
「まあ見ててよ」
コレでも勇者パーティでスカウトを担当していたからこんなの朝飯前さ。
このダンジョンを探索している感じに少し心が踊る。
「サイレント」
サイレントとは僕の周囲の音や振動、そして気配を消す魔術。
でも見た目や匂いは消えていないので、目や鼻の良い魔物には透明化も使わないと意味がないけど、岩石系の魔物は基本的に目が見えないし匂いも感じないからサイレントで十分だ。
この魔術は使用し続ければ続けるほどに魔力を消費するので、なるべく使用時間を抑えたい。
僕は支給されたララニア草の花を入れる瓶を小脇に抱えながら、小川を飛び越えて最短距離を駆ける。
踏み込み、着地、足音、風を切る音さえも聞こえず、まるで僕がこの世界から浮いた存在になったかの様な感覚を覚える。
いや、もしかしたら僕という存在は世界から見れば異質で、浮いた存在なのかもしれない。
そうして目の前の魔物に気付かれる事なくララニア草のところまでやってきた。
ナイフとかがあれば良かったけどそれを買うお金はなかったので、花をソッと摘み取る。
・・・魔物も動く様子はないな。
その状態に一安心すると素早く残りの花を瓶に入れ、蓋をするとタツヤの元へ戻った。
「すごいなエルム!何の音も聞こえなっ」
タツヤが興奮気味に話しかけてきたので急いで口を塞ぐ。
「静かに!岩石系の魔物は基本的に獲物が近くに来ない限り襲わないけど。そうじゃない個体もいるから」
タツヤが頷くのを見て手を外す。
「葉っぱはタンポポで花の形は水仙なんだな」
スイセンという謎の単語がタツヤの口から出たけど聞かなかった事ににして、魔力感知を使い周囲に岩の魔物以外何もいない事を確認してから、この場を離れた。
帰り道は魔力を使ったせいか空腹で足取りは重かった。
花の入った瓶を受付嬢に渡すと、もう終わったのかと驚かれてしまった。
そして報酬の50ギルを受け取る。
採取依頼は労働の割には報酬が少ないかな。
そのままギルドに併設されている酒場で食事を取っても良かったけど、先に宿を取ることにした。
宿無しは嫌だからね。
でもこの判断は間違っていた。
「エルム大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
陽は沈み魔道具の街灯が光り出した頃、僕はタツヤの肩を借りてようやく歩けている状態に陥っていた。
受付嬢に聴いた宿までなら我慢できるだろうと思ったけど、まさかここまで空腹が辛いものだとは思ってもみなかった。
正直、喋るのもキツい。
「ほら、宿が見えてきたからもう少し頑張れ」
「うん」
僕達が勧められた宿は「雛鳥の巣」という名前で、アイアンランクの冒険者専用に安い値段で部屋を貸しているらしい。
僕達が宿に入ると恰幅が良く優しそうな人間の中年女性がエプロン姿で受付をしていた。
「あらあら~どうしたの?」
女性が立ち上がり心配そうに僕達へ駆け寄る。
「部屋を借りたいんだが、まずこいつに飯を食わせてやってくれないか?」
「ええ、ええ、良いわよ~。こっちに連れてきてもらえるかしら?」
女性は僕達を長テーブルと複数の椅子がある部屋へ案内すると、奥の部屋に入って行った。
タツヤに手伝ってもらい椅子に座ると、女性が皿に山盛りの丸パンと野菜が入ったスープを持ってきてくれた。
「ハイどうぞ~」
目の前に出された食事に僕は無我夢中にかぶりつく。
その光景にタツヤは驚いている様子だけど、これには僕も驚きだ。
自分でも抑えようとはしているんだけど腕が勝手に動いてしまう。
二度とこんな醜態を晒さない様に食欲管理をしっかりすると心に決めた。
「うふふ、まだまだあるからいっぱい食べてね。さあ坊やも食べて?」
「え、いや。まだお金を払っていないけど」
「食べ終わってからで良いわよ。坊やもお腹空いているでしょう?」
「そういう事なら、いただきます!」
タツヤはどこかの宗教に入信しているのか、手を合わせてから食事にかぶりついた。
そんな僕達を見ている女性の表情は心の底から喜んでいるようだった。
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