ヒーローズマキナ

鷹ピー

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第1章

32話 バルベル攻防戦2日目 南門前

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オーガ。
ゴブリンの上位種で背丈はオークよりも低いが、オークの体が脂肪の塊に対してオーガの体は筋肉の塊だ。

その体から繰り出される攻撃はオークよりも危険な為、オークよりも危険度は高く設定されている。



そんなオーガを前に地面に倒れている黒髪の彼女がリカコと言うらしい。そのリカコが危ない状況だと判断した僕はすぐに行動を起こす。


彼女の前にいるオーガに向かってタツヤを投げた。


「オーガの皮は硬いからホーリーアローを撃つなら貫通力をあげてね」

「マジかよぉぉぉぉ!!」
流石に空中を走れないからこれが一番速いんだよね。

でも後でタツヤに謝ろう。


僕が地面に向かって落ちている間、周りの状況を確認する。

眼下の地面には大量の魔物の死骸が広がっている。そして町の中に入っている魔物はオーガが4体だけだ。

その内の1体は今タツヤが向かっていて、そこから少し離れた所で1体のオーガを複数人の冒険者が取り囲んでいる。そして驚いた事に残りの2体を4人で抑えていた。


あれがゴールドランクの「ブルーバード」か。

遠目から見た限りだと、魔術師、弓兵、剣士、重戦士からなるパーティーの様だ。


それよりも奥、南門にほど近い場所ではバルベルを守る騎士と思われる人達が、これ以上魔物が入らない様に抑えている。



そして僕の足が地面に着く。

僕はタツヤを投げた場所へ走った。



「タツヤごめん。あそこで投げないと間に合わないと思ったから」
タツヤと目が合うとすぐに謝る。

僕に投げられたタツヤはホーリーアローを使ったのか、オーガの右肩に穴が空いておりそこから血が流れ出していた。

そのオーガは、リカコと呼ばれた少女からタツヤの方に意識を向けている様子だ。


「それは後だ。それよりもあの武器をどうにかしてくれ!あれで魔術が弾かれちまう」
タツヤは怒り交じりの声で僕にそう言って来た。

弾かれると言うとオリハルコンの性質かな。

オーガの左手には刃の潰れた大剣が握られているからあれの事だろう。歯が潰れている所為か棍棒に見えて来た。

それにしても前世と比べると魔物の装備が充実し過ぎている気がする。今はこれが普通なのだろうか。


「分かった。僕が前に出て囮になるから隙を見て頭に攻撃して」

「おう。気を付けろよ!」
僕はオークの前に飛び出し、メイスを構える。

まさかオーガの目の前に立つ日が来るとはね。

前世の記憶のどこを探しても、オーガの様な上位種の前に立つ様な記憶は存在していない。

オーガだって、前世では遠目から眺める事しか出来なかった。



「本当、今世は楽しいよ。・・・強化」
オーガは動きそうに無いのでこちらから仕掛ける。

僕はオーガに近付き、何の捻りもない正面からの打撃を繰り出す。

当然の様にオーガの持つ大剣で防がれた。

その衝撃で大剣が折れる事を期待したけど、大剣にその様子は見られない。やはり予想通りオリハルコン製の大剣の様だ。


そのまま何回か攻撃してみたけど右手を負傷しているにも関わらず、僕の攻撃を躱したり防御したりして尚且つ反撃までされたので、僕はオーガの周りを移動しながら隙を作る事に全力を注ぐ事にした。

しかし流石はオーガ。僕の意図を察してかタツヤに背中を向けないように立ち回っている。

「さてどうしたものかね」
前世の記憶を参考にしようにも、ある魔術師は魔術を操り四方八方から攻撃して魔物を空洞だらけにしたり、ある剣士は魔術と剣技を組み合わせて戦ったり、勇者に至っては武器ごと魔物を切り裂いたりもしていた。

自分が前衛になって改めて前世のパーティーメンバーが化け物達だったと感じる。


そんな事を考えているとオーガが攻撃を仕掛けて来たので、それを横にジャンプして避ける。

これじゃあ埒があかないか。



「タツヤ。合図したら攻撃して」

「了解」
位置的に僕の真後ろにいるタツヤへそう伝えると、僕はまたオーガに連続で攻撃を仕掛けた。

今回はさっきより攻撃速度を上げたので、オーガは避けられずに大剣で防御している。



「タツヤ今!」
僕はタツヤに合図を送るとしゃがみ、オーガの股の間を通り背後を取る。

オーガがタツヤのホーリーアローに意識を向けている短い間に、ララニアで買ったナイフを抜いてオーガの首に突き刺した。


オーガは叫び声をあげながら背後にいる僕に向かって大剣を振るうけど、僕はそれをメイスで受け止める。


「タツヤ!」

「ホーリーアローッ!」

その瞬間、オーガの頭に光の剣が突き刺さり、オーガは倒れた。




「リカコ!」
タツヤが倒れた少女に駆け寄って彼女の体を起こして声を掛ける。

しかし彼女が起きる様子はない。


「リカコッ!リカコォォォ!」

「タツヤ落ち着いて、まだ息があるから気を失っているだけだよ」

「ほ、本当か!?」

「うん。とりあえず彼女をハーマンさんの所に連れて行くよ」

「おう、頼んだ」


僕はリカコと呼ばれた少女を背負うとタツヤを置いてハーマンさんの所まで戻った。
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