悪役令嬢は追放エンドを所望する~嫌がらせのつもりが国を救ってしまいました~

万里戸千波

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5.断罪の時

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​ そして運命の夜。
 王立学園の卒業パーティー会場は、華やかなドレスと宝石の輝きに満ちていた。

 エリザベータはとっておきの悪女メイクで挑んでいた。濃いアイシャドウ、真紅のルージュ。誰がどう見ても悪役だ。

​(今までの失敗は忘れよう。この場で、王太子レオン殿下に婚約破棄を突きつけられれば、私の勝ちなんだから!)

​ 会場の扉が開き、王太子レオンが入場してくる。その隣には、本来ならヒロインのアリーシャがいるはずだが……なぜかアリーシャは、エリザベータの後ろに「お姉さま、ドレス素敵です!」とうちわを持って控えていた。

 完全に信者化している。

​(計画が狂ってるけど、レオン殿下は私の悪事を知っているはず!)

​ 壇上に上がったレオンが、静かに会場を見渡した。そして、低い声で告げる。

​「エリザベータ・ローゼンバーグ。前へ」

​ 来た。ついにこの時が来た。
 エリザベータは優雅に、しかし傲慢に笑うと歩み出た。

​「はい、殿下。何か御用でしょうか」

(さあ、言って! 『お前のような性悪女とは結婚できない』と!)

​ レオンは青い瞳でエリザベータを射抜くように見つめ、一枚の書類を取り出した。

​「エリザベータ。君のこれまでの学園での振る舞いについて、多くの報告が上がっている」
​「……ふふ、そうですか。耳の痛い話ばかりでしょう?」

 エリザベータは挑発的に笑った。

​「ああ、その通りだ。食堂での衛生管理の徹底による食中毒の未然防止。図書館における下級生への学習指導による学力底上げ。さらには、中庭の花壇の土壌改良まで指示したそうだな?」
​「え?」
​「君が指摘した土壌改良のおかげで、絶滅危惧種だった薬草が復活したと園芸部が泣いて感謝していたぞ」

 ​エリザベータの顔が引きつる。

「い、いえ、あれは単に泥が跳ねてドレスが汚れるのが嫌で、土を入れ替えろと怒鳴り散らしただけで……」
​「君は常にそうだ。厳しい言葉の裏に、深い愛情と国益への配慮を隠している」

​ レオンは壇上から降り、エリザベータの手を取った。

​「君ほど王妃にふさわしい女性はいない……いや、正直に言おう。君がいなくなったら、この国の事務処理と危機管理能力は半減する」

​ 会場が割れんばかりの拍手に包まれた。

「エリザベータ様万歳!」
「最高の王太子妃だ!」
「ツンデレ聖女様!」

​ エリザベータは呆然と立ちつくした。
 追放は? スローライフは? 畑は?
 穏やかな日々は?縁側の猫は?

​「エリザベータ、愛している。これからも、その厳しくも的確な手腕で、私を支えてくれ」

 レオンが極上の笑顔を向ける……ただし目の奥は笑っておらず、逃がさないという執着が強く滲んでいた。

 ​エリザベータは悟った。
 前世で優秀な社畜だった彼女は、異世界でも結局、有能すぎて仕事が回ってくるという運命からは逃れられないのだと。

​「……謹んで、お受けいたします」

 心で血の涙を流しながら、エリザベータは王太子の前で膝を折った。

 その後、王妃となったエリザベータは“悪役令嬢流・国家改革”を断行。

「こんな非効率な予算配分があるか! 切り捨てろ!」
「隣国との条約? 甘いわ、もっとふんだくってきなさい!」

 
 と悪態をつきながら国を富ませ、歴史上稀に見る名君として語り継がれることになるのだが、それはまた別の話。

​ 彼女が畑を耕せる日は、当分来そうにない。

​(了)
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