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異世界3.
52. 悩む侯爵様
「と、言うわけで御座いまして、フォルテリア侯爵家からは苦情の手紙を何度もエルドモス公爵家に送っていますが反省の色も御座いませんの」
服のデザインを手掛けるデザイナーが離宮にやってきて、助手達が涼子と望のサイズの確認をしている時にローザ夫人が仔細を説明して大きな溜息を吐き出した。
因みに涼子はローザ夫人に根負けしてサイズを計るだけならと了承した。
「申し訳御座いません我が家の事情に御二方を巻き込むような事になるなどと思いもよりませんでしたわ・・・」
ルーカスに良く似た美貌――但し金髪碧眼――のローザ夫人が額の表面をピクピクさせながら、何かを我慢しているらしい。
余程バーナード子息の行動が目に余るのだろう。
「大丈夫ですよ。
埴輪ちゃん達が撤去作業をしてくれますから」
だってどう見ても撤去作業だった・・・
「爵位として考えた時はあちらが上ですので一応は強く出てはおりませんが、これ以上の迷惑行為を犯した場合は陛下に直訴しますからご安心下さい。
それにこの離宮は現在私共が滞在して御世話をさせていただいているだけで、邸の主人は聖女様と魔女さまです。
御二方の立場はバーナード様より遥か彼方の上空ですから、少々のお仕置きや荒っぽい撤去作業でも陛下は塵クズ並みにも気にも留めません」
フンスと鼻息を荒げるローザ夫人。
やっぱり誰にとっても撤去作業だった・・・
「でも、何をしに来てたんでしょう?」
「さぁ」
今度来た時は用事くらいは聞いてみるかな~ と思った望だった。
×××
「ルーカス、魔女殿に婚姻を申し込んだと聞いたが?」
一方こちら王城の中の軍務塔にある騎士団長の執務室だ。
「はい」
迷いなく返事をする彼に困惑しながら、問いかけるのはこの国の騎士団長であり父でもあるフォルテリア侯爵である。
「そんなに気に入ったのか?」
「はい」
「異世界の元住民だぞ」
「はい」
「こちらの常識は通じんぞ?」
「はい」
「・・・はぁ」
「それを言うなら、私自身10年前にこの国の常識も無かったので同じでしょう」
「う・・・ まぁ確かに。
そう言われればそうだが」
「だが、なんでしょうか」
「侯爵家の女主人に相応しいかどうかはまた別だ」
「そうかもしれませんが、私自身が当主に向いていませんので、以前からお願いしているようにマーシャルに家督を継がせて下さい」
「ううむ・・・」
全て無表情で返してくるルーカスに侯爵は罪悪感を持っている。
ノワールに頼んだ呪術のせいだ。
以前から侯爵家を継ぐ気は無い、弟のマーシャルに家督を継がせて欲しいと彼に進言されていたのにはっきりと答えを出せなかったのもそのせいだ。
繰り上がりとはいえ現在長男の立場になったルーカスに爵位を継がせ、弟はフォルテリア家が保持している伯爵位辺りを継がせるか、同系の寄子貴族の婿にするかと考えてもみるが1度死んで他人の魂が入って生き返ったルーカスに侯爵家を任せるのはどうなのだろうと又悩む。
また、ルーカスの弟のマーシャルは兄に比べて騎士としては才能が低く母親のローザに似て魔法の才能に長けていて、武門の家系であるフォルテリアを任すには今イチ不安なのではないかと侯爵家当主として引っかかる。
・・・堂々巡りである。
――これだから脳筋は・・・
ローザ夫人の声が聞こえてきそうだ。
実は感情が欠落し、表情筋が死滅たんじゃないかと噂されるルーカスが、異世界の乙女召喚でやってきた魔女に惚れてベッタリだと妻からは報告が来るし、国王からも同じ事を言われてしまい更にどうしたら一番いいのか分からなくなった騎士団長。
今まで召喚された魔女も聖女も殆どが最初に会った王子達に惹かれ、自然と王族との婚姻に多数が流れたと言う記述が残っている。
稀に国外や貴族家に嫁いだ者もいるらしいが、数は少ないのだ。
ところが今代の魔女も聖女も見目麗しい王子達はそっちのけで、神官や騎士――己の息子――をパートナーとして選んだという。
まあ、どっちも王子達と張り合う位には顔が良かったから単に本人達の好みの問題なのだろうが。
しかし、歴代の乙女達に比べて決断が早すぎるのが侯爵は気になるのだ。
そもそも『災厄』から国を守り、平和になってから王子達と結ばれるというのが今までのセオリーだ・・・
ぶっちゃけ一時の気の迷いで俺の息子を選んでんじゃねーよな? 飽きたとか言うなよ?!
と疑いたくもなる・・・ 多分まぁ親心。
「お前の気持ちは分かった」
「はい」
「1度魔女殿に会う機会を作ってくれ。
話はそれからだ」
「わかりました」
最後まで無表情のルーカスが去って行くのを見て溜息をつく侯爵。
「惚れてるんならちったぁ表情に出せよ・・・」
ボソリとそう呟いたが、誰にも聞かれることはなかった・・・
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