72 / 100
episode3 幸せになりたいなら、なりなさい
14話 ハイドランジアの魔塔
しおりを挟む
一方こちらはハイドランジア王国内の首都フリージアの中央区にドーンと存在する王城内にある魔法師団塔、通称『魔塔』である。
ここは王宮魔道士達が在中する研究棟と訓練棟が一緒になった建物で、王城における魔道具開発から魔物の研究、魔法戦の模擬訓練まで、ありとあらゆる魔法に関することが行われる場所だ。
魔力研究の失敗で爆発や感電なども稀に起こす場所でもあるため当然防御結界は張られてはいるが危険区域指定がされており、許可のない者は近付くことはできない建物なのだが、実はハイドランジア王国第二王女であるシンシアはこの塔に研究者として登録されており個人の研究室も与えられている。
例の廃棄用くず魔石の再利用で作られた染料もここで作られたものである。
本日は新たな魔石の入荷が報告されたため、シンシア王女もやってきていた。
「まあ、まるでルクス神殿にある魔石の様ですのね」
頬に手をやり、ほぅ、とため息をつきながら瞳を輝かせるシンシアの目は研究者のソレであった。
ルクス神殿の中央拝殿の聖堂に置かれている、水晶のように透明なものは最近大きなものが見つからなくなっているため貴重なのだ。あれは魔物ではなく魔族が住むような場所でしか見つからないと言われており、もう長いこと魔族がやってこなくなった北大陸では見ることはなくなった。
今回の魔石は南大陸、つまりグエンの治めるトリステス帝国からハイドランジア王国へ贈られたものである。まぁいうならばグエンとシンシアの婚約時の結納の品である。
「素晴らしい高エネルギーを帯びていますね」
シンシアに負けず劣らず瞳をキラキラとさせているのは王宮魔道士長であるテイラー・シンフォニア伯爵と、その息子であるマーロウがその横でしきりとコクコクと頷く・・・ つまりオタクが三人で寄ってたかってキャッキャウフフとしている真っ最中である。
シンシア付きの侍女は壁に擬態し、表情を無にしてそれを眺めている・・・・ 実にご苦労様である。
そこへ突然やってきたのが若手の魔導士見習い。
「失礼します、魔導士長。例の簡易スクロールの劣化版の解析が終了しました」
彼はこの魔塔に最近入ったばかりの若者で、トリステス帝国の森でシンシアにより保護された例の三人家族の一人で弟の方である。
あの時の家族は全員無事ハイドランジア国民として戸籍登録され、検査の結果闇魔法の持ち主であったことが判明し、王宮魔道士見習いとして受け入れられた。
生活全般をこの魔塔で過ごし奴隷時代に受けられなかった平民の一般教育も、親子揃ってここで受講中だ。
「あ。王女殿下! 失礼しました!」
「あら、あなたは・・・。皆さんお元気かしら?」
「はいっ皆元気に過ごしておりますっ!」
顔を赤くして慌てて臣下の礼をとる若者に、にこりと笑顔を見せる王女殿下。この親子、特に兄弟達は自分達を救ってくれた彼女を女神のように崇めているのはその態度でありありと分かる為、ほかの魔導士達から生暖かく見守られているのは余談である・・・
「シンフォニア卿? 簡易スクロールとは一体何かしら?」
「はぁ、実は・・・」
本来スクロールはハイドランジアの王宮魔道士達が作っている魔道具の一種である。
魔法をうまく使えない者のために様々な物が存在しており小さな火をおこすものや、飲み水を生み出すもの、光を灯すものなどが一般的に市中の雑貨屋等で売られている。
その中でも転移スクロールだけはルクス神殿の取り扱いとなっており、これだけは国際冒険者ギルドでしか取り扱えない規則がある。
スクロールの使用時に人間が思いもよらないところに跳ぶのを防ぐため、講習をしっかりと受けたギルドの冒険者しか買うことが出来ない決まりになっている。
所が、この見習いとなった親子の懐からその転移スクロールの劣化版のようなものが見つかったのである。
本人達は奴隷紋の影響で記憶が曖昧であり、なぜ持っていたのかも覚えていなかった為魔塔で出所と性能や実態を調べることになったのである。
××××××××××
「まあ、十中八九シャガル製だろうと思いますが、あまりにも雑な仕上がりなのですよ」
ため息をつきながら彼女をエスコートしながら廊下を歩く魔導士長が肩を竦めた。
「雑? とは?」
「跳んだ先で使用者が無事でいられると思えません。描かれている魔方陣が正確とはいい難いものばかりでして」
「それは・・・ 考えただけでも恐ろしいですわね」
「それがどういう結果を引き起こすのか考えていないとしか思えないシロモノですよ」
とんだ拾い物だったようである。
ここは王宮魔道士達が在中する研究棟と訓練棟が一緒になった建物で、王城における魔道具開発から魔物の研究、魔法戦の模擬訓練まで、ありとあらゆる魔法に関することが行われる場所だ。
魔力研究の失敗で爆発や感電なども稀に起こす場所でもあるため当然防御結界は張られてはいるが危険区域指定がされており、許可のない者は近付くことはできない建物なのだが、実はハイドランジア王国第二王女であるシンシアはこの塔に研究者として登録されており個人の研究室も与えられている。
例の廃棄用くず魔石の再利用で作られた染料もここで作られたものである。
本日は新たな魔石の入荷が報告されたため、シンシア王女もやってきていた。
「まあ、まるでルクス神殿にある魔石の様ですのね」
頬に手をやり、ほぅ、とため息をつきながら瞳を輝かせるシンシアの目は研究者のソレであった。
ルクス神殿の中央拝殿の聖堂に置かれている、水晶のように透明なものは最近大きなものが見つからなくなっているため貴重なのだ。あれは魔物ではなく魔族が住むような場所でしか見つからないと言われており、もう長いこと魔族がやってこなくなった北大陸では見ることはなくなった。
今回の魔石は南大陸、つまりグエンの治めるトリステス帝国からハイドランジア王国へ贈られたものである。まぁいうならばグエンとシンシアの婚約時の結納の品である。
「素晴らしい高エネルギーを帯びていますね」
シンシアに負けず劣らず瞳をキラキラとさせているのは王宮魔道士長であるテイラー・シンフォニア伯爵と、その息子であるマーロウがその横でしきりとコクコクと頷く・・・ つまりオタクが三人で寄ってたかってキャッキャウフフとしている真っ最中である。
シンシア付きの侍女は壁に擬態し、表情を無にしてそれを眺めている・・・・ 実にご苦労様である。
そこへ突然やってきたのが若手の魔導士見習い。
「失礼します、魔導士長。例の簡易スクロールの劣化版の解析が終了しました」
彼はこの魔塔に最近入ったばかりの若者で、トリステス帝国の森でシンシアにより保護された例の三人家族の一人で弟の方である。
あの時の家族は全員無事ハイドランジア国民として戸籍登録され、検査の結果闇魔法の持ち主であったことが判明し、王宮魔道士見習いとして受け入れられた。
生活全般をこの魔塔で過ごし奴隷時代に受けられなかった平民の一般教育も、親子揃ってここで受講中だ。
「あ。王女殿下! 失礼しました!」
「あら、あなたは・・・。皆さんお元気かしら?」
「はいっ皆元気に過ごしておりますっ!」
顔を赤くして慌てて臣下の礼をとる若者に、にこりと笑顔を見せる王女殿下。この親子、特に兄弟達は自分達を救ってくれた彼女を女神のように崇めているのはその態度でありありと分かる為、ほかの魔導士達から生暖かく見守られているのは余談である・・・
「シンフォニア卿? 簡易スクロールとは一体何かしら?」
「はぁ、実は・・・」
本来スクロールはハイドランジアの王宮魔道士達が作っている魔道具の一種である。
魔法をうまく使えない者のために様々な物が存在しており小さな火をおこすものや、飲み水を生み出すもの、光を灯すものなどが一般的に市中の雑貨屋等で売られている。
その中でも転移スクロールだけはルクス神殿の取り扱いとなっており、これだけは国際冒険者ギルドでしか取り扱えない規則がある。
スクロールの使用時に人間が思いもよらないところに跳ぶのを防ぐため、講習をしっかりと受けたギルドの冒険者しか買うことが出来ない決まりになっている。
所が、この見習いとなった親子の懐からその転移スクロールの劣化版のようなものが見つかったのである。
本人達は奴隷紋の影響で記憶が曖昧であり、なぜ持っていたのかも覚えていなかった為魔塔で出所と性能や実態を調べることになったのである。
××××××××××
「まあ、十中八九シャガル製だろうと思いますが、あまりにも雑な仕上がりなのですよ」
ため息をつきながら彼女をエスコートしながら廊下を歩く魔導士長が肩を竦めた。
「雑? とは?」
「跳んだ先で使用者が無事でいられると思えません。描かれている魔方陣が正確とはいい難いものばかりでして」
「それは・・・ 考えただけでも恐ろしいですわね」
「それがどういう結果を引き起こすのか考えていないとしか思えないシロモノですよ」
とんだ拾い物だったようである。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
一体何のことですか?【意外なオチシリーズ第1弾】
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【あの……身に覚えが無いのですけど】
私は由緒正しい伯爵家の娘で、学園内ではクールビューティーと呼ばれている。基本的に群れるのは嫌いで、1人の時間をこよなく愛している。ある日、私は見慣れない女子生徒に「彼に手を出さないで!」と言いがかりをつけられる。その話、全く身に覚えが無いのですけど……?
*短編です。あっさり終わります
*他サイトでも投稿中
忖度令嬢、忖度やめて最強になる
ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。
5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。
週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。
そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り――
忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。
そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。
中世風異世界でのお話です。
2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。
最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ
福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。
……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな!
※小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる