助けたいだけなのに、なんでみんなぼくを離してくれないの?~魔力を狙われてるはずが全員に執着されてます~ 【第3巻】

帰り花

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第四部 崩壊と救済

新たな旅立ち

 遺跡の重い扉を押すと、外の空気が入ってきた。

 ぼくは、立ち止まった。

 空が——青かった。

 正しい青だった。

 緑色が消えていた。

 雲が、白かった。

 光が、差し込んでいた。

「……きれいだ」

 ぼくは、呟いた。

「……ああ」

 カイが、隣に立った。

 同じ空を見た。

「……青い空、久しぶりに見た気がする」

「……ああ」

「……よかった」

「……ああ」

 カイは、それしか言わなかった。

 でも——その声が、いつもより、やわらかかった気がした。

 

 全員が、外に出た。

 カイが、いた。

 レオンハルトが、いた。

 ゼインが、いた。

 セフィが、いた。

 エルシオンが、いた。

 六人で、空を見た。

「……世界の魔力循環は、完全に戻っている」

 セフィが言った。

「……各地の異変も、収まっていくはずだ」

「……そっか」

「……再生律の力が、世界中に届いた。しばらくは、安定するだろう」

「……うん」

 ぼくは、手のひらを見た。

 再生律の光が、穏やかに宿っていた。

「……よかった」

「……ああ」

「……本当に、よかった」

 ぼくは、また空を見た。

 青い空を。

 前の世の「リオン」が救った空と、同じ空を。

 今のぼくが救った空を。

 

「……エルシオンさん」

 ぼくは、エルシオンを見た。

 エルシオンが、ぼくを見た。

「……はい」

「お父さんたちの魂を探す手がかりがあると、言っていましたよね」

「……はい」

「その手がかりについて、教えてくれませんか」

 エルシオンは、少し間を置いた。

「……魂は、その人の強い思いが残っている物に宿っている可能性が高いです」

「……強い思いが残っている物」

「……ええ。その人が大切にしていたもの。その人の記憶が染み込んでいるもの。そういうものに——魂が引き寄せられます」

「……」

 頭の中に浮かんだのは、お父さんの椅子だった。

 村が燃えたとき——あの椅子だけが、残っていた。

 いつもそこに座って、魔力のことを話してくれた、あの椅子が。

 家が燃えて、全部なくなったのに——あの椅子だけが、燃えずに残っていた。

 なぜ残ったのか、あのときはわからなかった。

 でも——今なら、わかる気がした。

 お父さんの強い思いが、あの椅子に宿っていたから。

「……お父さんの、椅子」

 ぼくは、呟いた。

「……燃えなかった椅子が、村に残ってる。あの椅子に——お父さんの魂が宿っているかもしれない」

 カイが、ぼくを見た。

「……行こう。村に」

「……ああ」

「……絶対に、見つける」

 カイは、少し間を置いた。

「……わかった。行くぞ」

 

「……リオンさん」

 エルシオンが、ぼくに近づいた。

「はい」

「……私も、一緒に行っていいですか」

「もちろんです」

「魂を見つける方法については、私が知っていることを全部、お伝えします」

「ありがとうございます」

「……それくらいしか、今の私にできることはないから」

 エルシオンの目が、青い空を見た。

「……リオンさん」

「……はい」

「……『リオン』への気持ちは、変わりません」

「……うん」

「……でも——今のあなたのことも、大切に思っています」

 ぼくは、エルシオンを見た。

「……わかってます」

「……ありがとうございます」

「……ぼくも、エルシオンさんのことが大切です」

 エルシオンの目が、少し揺れた。

「……ずるい」

 また、その言葉が出た。

 でも——今度は、少し笑っていた。

 ぼくも、笑った。

 

「……ゼイン」

 ぼくは、ゼインを見た。

 ゼインが、ぼくを見た。

「……一緒に来てくれる?」

「……」

 ゼインは、しばらく黙っていた。

「……お前が、来いと言うなら」

「……来てほしい」

「……わかった」

 それだけだった。

 でも——ゼインの目は、最初に会ったときとは全然違った。

「……ゼイン」

「……何だ」

「……助けてくれて、ありがとう」

「……」

 ゼインは答えなかった。

 でも——その目が、一瞬だけ、何かを映した気がした。

 

「……レオン」

 レオンハルトが、ぼくを見た。

「……乳母さんも、探しましょう」

「……リオン」

「……手がかりになりそうなものが、レオンの手元にあったりしますか」

 レオンハルトは、少し間を置いた。

「……手元にはないが、王城にはある」

「……何ですか」

「……乳母からもらった、小さな布の人形だ。ずっと、私の部屋に置いてある」

「……それに、乳母さんの魂が宿っているかもしれない」

「……そうか」

 レオンハルトの目が、少し揺れた。

「……王都にも、行こう」

 ぼくは言った。

「……ああ」

「……絶対に、見つけよう」

「……ああ」

 レオンハルトの声が、やわらかかった。

 

「セフィ」

「……何だ」

「一緒に来てくれる?」

「私がお前から離れることはない」

「うん」

 ぼくは、セフィを見た。

「……セフィ」

「……何だ」

「……前の世の『リオン』のこと、忘れないでね」

 セフィは、少し間を置いた。

「……永遠に、忘れない」

「……うん」

「……でも——今のお前も、私が守る」

「……うん」

 セフィの紫の瞳が、ぼくを見ていた。

 冷たくて、静かで——でも、確かだった。

 

「カイ」

「何だ」

「ありがとう。ずっと、そばにいてくれて」

「……当然だ」

「また、一緒に行こう」

「言われなくても行く」

「うん」

「……リオン」

「何?」

 カイが、ぼくの頭を引き寄せた。

 額に、口づけた。

 短く、静かに。

「……絶対に、守る」

「……うん」

「……どこへ行っても」

「……うん」

「……お前が何を選んでも」

「……うん」

 カイは、それだけ言った。

 それで、十分だった。

 

 ぼくは、全員を見た。

 カイが、いた。

 レオンハルトが、いた。

 ゼインが、いた。

 セフィが、いた。

 エルシオンが、いた。

 全員が、ここにいた。

 全員が、一緒に行く。

「……行こう」

 ぼくは言った。

「……お父さんたちを、助けに」

 青い空の下を、歩き始めた。

 世界は、正しい色に戻っていた。

 でも——旅は、まだ続いていた。

 いや——新しい旅が、始まっていた。

 ぼくは、前を向いた。

 手のひらに、光があった。

 温かい光が。

 再生律の力が。

――助けたい。

 ぼくは、思った。

 それだけは、変わらなかった。




 青い空が、広がっていた。
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