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第二幕
②
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しかしロサ・エスファナは限界に来ていた。
クリスタリスの襲撃で子供が育たない。ジオス家ももれなくそのうちに入った。
騎士長であるエズは二十半ばになるが、死んでいった兄弟は多い。エズは長兄ではなく、七番目の末の子どもだった。だが結果として生き残ったために一族の家長となり、騎士長となったのだ。エズに伴侶はまだいない。結晶化で死んだ伯父の子どもはまだ乳離れがすんだところだ。エズは何よりアルタを守る騎士がいなくなることに危機感を抱いた。そこで一族を説得してヴァルルを騎士として迎え入れたというわけだ。ヴァルルは両親を失い、長い事エズの従者として生きてきたのだが、騎士にならないかと問われ迷うべくもなく頷いた。今やエズの立派な片腕となり、ロサを守っている。
「でもヴァルルはロサのためというよりエズに使えているようだわ」
アルタはそう、ヴァルルをからかう。ヴァルルは顔を赤くして、いやあ、と頭を掻いた。ヴァルルにとってエズは義兄であり、騎士長であり、ずっと尊崇してきた存在なのだ。
「エズ様はずっと僕の憧れでしたから……いえ、もちろんアルタ様が一番ですよ!」
「ふふ、無理しなくていいのよヴァルル」
「からかわないでくださいよアルタ様。僕は騎士としてアルタ様を御守りすることに誇りを持っています! ……ヴランシュ様は残念でしたが」
ヴァルルは声を落とした。ヴランシュの護衛は長い事ヴァルルがつとめていたのだ。
「……ヴァルルはよくやってくれたわ。あの子が起き上がれなくなってもずっと輿の横についていてくれたのだもの」
「ロサ・エスファナを守るのは当然です! ……僕は本当に結晶世界が憎いです。結晶化には抗えない。何か特効薬があればいいのに。昔はわざと結晶を砕いて飲んでみたりしたようですが結果は……クリスタリスも脅威ですが、人々が結晶化で次々死んでしまうのはやりきれない」
薬か。アルタは考える。この世界に薬と言えるものなどほとんどありはしない。わずかな植物や動物の胆を古い言い伝えを頼りに得て、煎ずるのみ。唯一救いともいえるのは古代における「流行り病」の類がないという事だ。風邪は見受けられるが感染力は低い。それは結晶世界の気候が影響しているのかもしれなかった。疫病には適度な湿り気が必要だと聞いた。しかし極度に乾いたこの世界にはその行き場がない。
病すら結晶化して枯れていくのかもしれなかった。
「旅をしながら、なにか見つかるといいわね……」
アルタは少し申し訳なく視線を落とした。
滋養にいい、身体によさそうなものを発見したらそれを率先して享受できるのはロサの惣領だ。
アルタが快活な身体でいられるのは他人を犠牲にしているからで……そのことにアルタは常に罪悪感があった。
しかしアルタは人々の希望だ。アルタが倒れることがあればロサ・エスファナは瓦解してしまう。ヴランシュが結晶化で倒れた時から不安な声は広がっていた。それもわかっていた。
自分は強くなければならない。人々を導く光でなくてはならない。
弟がもう助からないことはわかっていた。だからアルタは覚悟したのだ。
自分はロサ・エスファナに、人類存続にすべてを捧げると――
それが自分の運命というならば、それに応えよう。
人々の期待の分だけ用意された食料も飲み物もすべて綺麗に残らず糧とし、皆の明日のために生きようと。
華奢な少女が背負うには苛酷なまでの重責。
だがその傍らには常に寄り添ってきた騎士や従者がいた。彼らもまたロサ・エスファナの重臣として共に期待を背負っている。
アルタはその存在に救われていた。
クリスタリスの襲撃で子供が育たない。ジオス家ももれなくそのうちに入った。
騎士長であるエズは二十半ばになるが、死んでいった兄弟は多い。エズは長兄ではなく、七番目の末の子どもだった。だが結果として生き残ったために一族の家長となり、騎士長となったのだ。エズに伴侶はまだいない。結晶化で死んだ伯父の子どもはまだ乳離れがすんだところだ。エズは何よりアルタを守る騎士がいなくなることに危機感を抱いた。そこで一族を説得してヴァルルを騎士として迎え入れたというわけだ。ヴァルルは両親を失い、長い事エズの従者として生きてきたのだが、騎士にならないかと問われ迷うべくもなく頷いた。今やエズの立派な片腕となり、ロサを守っている。
「でもヴァルルはロサのためというよりエズに使えているようだわ」
アルタはそう、ヴァルルをからかう。ヴァルルは顔を赤くして、いやあ、と頭を掻いた。ヴァルルにとってエズは義兄であり、騎士長であり、ずっと尊崇してきた存在なのだ。
「エズ様はずっと僕の憧れでしたから……いえ、もちろんアルタ様が一番ですよ!」
「ふふ、無理しなくていいのよヴァルル」
「からかわないでくださいよアルタ様。僕は騎士としてアルタ様を御守りすることに誇りを持っています! ……ヴランシュ様は残念でしたが」
ヴァルルは声を落とした。ヴランシュの護衛は長い事ヴァルルがつとめていたのだ。
「……ヴァルルはよくやってくれたわ。あの子が起き上がれなくなってもずっと輿の横についていてくれたのだもの」
「ロサ・エスファナを守るのは当然です! ……僕は本当に結晶世界が憎いです。結晶化には抗えない。何か特効薬があればいいのに。昔はわざと結晶を砕いて飲んでみたりしたようですが結果は……クリスタリスも脅威ですが、人々が結晶化で次々死んでしまうのはやりきれない」
薬か。アルタは考える。この世界に薬と言えるものなどほとんどありはしない。わずかな植物や動物の胆を古い言い伝えを頼りに得て、煎ずるのみ。唯一救いともいえるのは古代における「流行り病」の類がないという事だ。風邪は見受けられるが感染力は低い。それは結晶世界の気候が影響しているのかもしれなかった。疫病には適度な湿り気が必要だと聞いた。しかし極度に乾いたこの世界にはその行き場がない。
病すら結晶化して枯れていくのかもしれなかった。
「旅をしながら、なにか見つかるといいわね……」
アルタは少し申し訳なく視線を落とした。
滋養にいい、身体によさそうなものを発見したらそれを率先して享受できるのはロサの惣領だ。
アルタが快活な身体でいられるのは他人を犠牲にしているからで……そのことにアルタは常に罪悪感があった。
しかしアルタは人々の希望だ。アルタが倒れることがあればロサ・エスファナは瓦解してしまう。ヴランシュが結晶化で倒れた時から不安な声は広がっていた。それもわかっていた。
自分は強くなければならない。人々を導く光でなくてはならない。
弟がもう助からないことはわかっていた。だからアルタは覚悟したのだ。
自分はロサ・エスファナに、人類存続にすべてを捧げると――
それが自分の運命というならば、それに応えよう。
人々の期待の分だけ用意された食料も飲み物もすべて綺麗に残らず糧とし、皆の明日のために生きようと。
華奢な少女が背負うには苛酷なまでの重責。
だがその傍らには常に寄り添ってきた騎士や従者がいた。彼らもまたロサ・エスファナの重臣として共に期待を背負っている。
アルタはその存在に救われていた。
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