東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第四幕

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「回路技術を教えてもいいと思う」


九十九の言葉にレッセイたちが瞠目した。六十八が無表情に問う。
「何故そう思う」
「あの人たちは無力だ」
木陰に座って傷の手当てをしている四人に向かって、九十九は立ったまま話しかける。
「さっき言ったろ……鳥を使った方法を。ただの槍や剣を。そんなものしかないんだ。いずれクリスタリスに喰われちまう」
「我々の知ったことではない。掟に反する」
「掟ってなんだよ!」
九十九は師に食ってかかった。
「何のために掟はあるんだ? レッセイ・ギルドの技術、それはクリスタリスに対抗するため、生き延びるためだろ! 回路技術を伝えれば多くの人々が救われる――いいことじゃないか。レッセイはそのためにあるんじゃないのか? 俺はただの九十九番だから難しいことはわからないよ。でもロサに会った時からそうなんじゃないかってずっと考えてたんだ……生きるための方法をあの人たちは知りたがってる……それは当然のことだろ!」
「ロサ、か」
六十八はつぶやき、
「あの女にそそのかされたか」
「そんなんじゃない!!」
九十九はカッとなってこぶしを握り締めた。
「全部じゃなくてもいい。基本を教えるだけでも」
「九十九、それは無理よ」
七十七が軟膏の蓋を締めながら静かに言った。
「彼らに回路は使えないわ」
「そんなのわからないだろ! 教えてもいないのに」
「そうじゃねえ、言葉通り使えないんだ。連中はレッセイ・ギルドじゃないからな」
「……?」
六十九が珍しく真面目な顔で弟弟子を見つめる。九十九は六十九の言葉に戸惑った。
「あとは六十八に聞けよ」
そういって六十九はやおら立ち上がると目を細めて、
「来たな。昼飯のおいでだ」
遠くからラクダを連れた人々の姿が見える。ロサの人間だ。昨日よりも多くの荷をラクダに背負わせているように見えた。先頭にいるのはエズとヴァルル、他に何人か。
「納得できない」
九十九は皆を背にして憤懣やる方なしという態度でその場に座った。その様子を見ながら六十九は思う。

(やはり九十九はレッセイの鬼子だったな)
他人を他人として完全に区別するレッセイたちの中で異質だ。
(あっさり掟をやぶる発言をするとは。俺でもできまいよ)

「皆様お待たせしました」
エズがラクダを止めると近づいてきてお辞儀をする。顔を上げ、ふと動きを止めた。レッセイたちの間になにか不穏な空気が流れている。
「何か……失礼なことをしましたでしょうか」
「いや、こっちの話だ」
六十九は即座に否定し、
「で、今回は昼飯か? まとまった荷はまだ貰えねえってことかな」
「すみません。しかし今回は見て頂きたいものがあります。さ、広げろ」
エズに従ってヴァルルが敷布を広げるとその上に荷からおろした箱の中身をぶちまけた。干し肉、魚の干物、果物に獣の毛布、ガラスの杯にラクダの乳から取った乳製品……ありとあらゆる貴重な――贅沢品ともいえる品々があふれた。
「これはロサの人々がクリスタリスの脅威から救ってもらった礼として、あなた方に差し出したものです。どうかお受け取り下さい」
「……大したもんだ」
「これがロサの意思。こんなにも皆は感謝しております。どうかお考え下さるよう……」
「これと引き換えに技術を教えろというならすべて持って帰ってくれ」
六十八は静かに言った。エズは首を振って、
「いえ、これは我々の好意です。お好きなようにしてください。昼の用意は他にあります」
「それだけいただこう。我々は貴殿らの好意に応えられない」
「……ではいかようにもしてください。持って帰るのはロサの騎士として出来かねます。人々の善意を踏みにじることはできない」
「……」
エズはこうべを垂れ、

「私は本当に心から――あなた方を尊敬しております。この結晶世界において、唯一クリスタリスと同等にやり合える存在。千年もの昔滅びた文明をも超える技術を持っておられると――思っております。できることなら私もその力を得て、人々を守りたい……私はロサ・エスファナの……人類の守護者であると思ってきました。しかし守護者というにはあまりにも無力。この壊れた世界を私は憎んでいます。何が、誰が世界をこんな風に変えてしまったのか……いや、そんなことはもうどうでもいい事。なぜならあなた方、レッセイ・ギルドという救世主を見出したからです。結晶世界の王はクリスタリスではなく、あなた方であるべきだ。そして――できるものならその一員に、いや末端に我らロサを置いていただきたい……我々もクリスタリスに対抗したい。私は真の守護者になりたいのです」

「我々は救世主などでは、ない」
「ですがロサの者たちはそう思っています。そして私も……。失礼、長い独り言でした」
お忘れください、そう言うとエズは会釈をして、
「ではこちらが昼飯です。――あ、こちらは私の弟子のヴァルルと申します。まだ騎士見習いですが、よくできた人格者です」
「そっそんな、あ、あの、ヴァルル=ジオスです。エズ様のジオス家の養子として、騎士見習いをしております! クリスタリスを倒したその腕、見事でした! 僕も、本当に尊敬しております! なんでもお言いつけ下さい!」
レッセイを前にしてヴァルルは硬直する。昨日とは打って変わった態度にエズは苦笑した。あんな戦いぶりを見せつけられたのだから当然といえば当然かもしれないが。
「まあ飯は遠慮なくもらうぜ」
そう言って六十九が荷を受け取る。
「あ、それともう一つ、こちらは包帯と塗り薬の入った箱です。アルタ様がレッセイ殿たちが怪我をしているから持っていくようにと……」
「へえ、そりゃ有難いね。七十七、受け取ってくれ」
「怪我は大丈夫なのですか?」
「これか?」
六十九はパッと軟膏の塗られた手のひらを見せた。幾筋もの切り傷が痛々しい。
「いつものことだ。気にすんなよヴァル……さん?」
「ヴァ、ヴァルルでございます」
「へえ。「ヴァルル」か、「水」だな」
「え?」
「じゃあな」
六十九は荷物を受け取りさっさと木陰に戻った。九十九はその様子をむっつりと見ていたが、
(アルタがいない)
いつも常にロサの指揮をとっているのに。立ち上がると九十九はエズに走り寄った。
「アルタは? いないみたいだけど」
「アルタ様は今少しお疲れになっておりまして、横になっております」
「平気なの?」
「大丈夫ですよ」
ヴァルルが口をはさんだ。
「僕が見ていますから……何か言付けでもしましょうか?」
「あ……いや、元気でって、————」
「承知しました」
ヴァルルは笑顔で頷いた。
「それでは。いくぞヴァルル」
「はっ」
エズ達はラクダに空の荷を載せるとロサへと戻っていく。エズはチラリと後ろを振り向き、

「あのレッセイ・ギルド、ツクモとか言ったな。アルタ様と親しい……昔、アルタ様と出会ったことがあるそうだ。アルタ様が言っていたろう、神様に出会ったことがあると」
「ああ、それがあの……僕より少し年若いくらいですね」
「アルタ様と親しいのは好都合だ。彼が何か突破口になるかもしれん」
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