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28 魔族と人間でも分かり合える
しおりを挟む暗黒騎士ゾルゲは、顔を覆っていた甲冑をはずした。
すると、人間と言ってもよい端正な顔立ちの青年が表われた。
神宮悟が言った。
「はじめて、お顔を拝見しました。あくまで見かけは私と同じ年齢のようですが」
「種族の違いかな。我はもう1000歳以上だが、卿はまだ20歳を超えたくらいだろう。だから、我の方がずっと年長だ」
「ゾルゲ様。お願い事があります。私カタリナは、失ったものを取り戻すため、故郷のロメル帝国に戻りたいのです」
「聖女よ。復讐するのか。その対象はたくさんいるな。まず、おろかなマクミラン皇帝、そして実質的にあなたの両親を殺害した黒魔女ローザ‥‥ 」
そう言った後、暗黒騎士ゾルゲはしばらく考えて続けた。
「最終的には、あなたの悲劇の原因を作った魔王リューベ様も対象か―― 」
「以前はそのように考えていました。しかし、今は違います。復讐からは何も生まれません。復讐の代わりに、私も含め皆さんの素敵な未来を守りたいのです」
「う――ん すばらしいお考えだな。確かに、魔王リューベ様は魔族が人間を奴隷のように支配し、遊んで暮らせる世界を造り上げようとされている‥‥
‥‥それを防がなければな。私も、このゲルト王国で多くの人間とふれあい、魔族と人間が手を取り合い素晴らしい世界を築くことができると確信してきたがな」
「それでは、私達2人がこのロメル帝国を通過することをお許しいただけるのですね!! 」
「‥‥ いや、無条件というわけにはいかない。神宮悟殿、これは剣士としてやむを得ない気持ちだ。我と1回戦っていただきたい」
「戦いですか? 試合ということで、生死までに至らないでという条件で」
「いや。場合によっては、生死まで決めてしまうくらいの真剣な試合をしたいのだ」
暗黒騎士ゾルゲは超真剣な視線で神宮悟を見つめた。
瞬間、悟は全てを理解した。
暗黒騎士ゾルゲは、もう条件変更を受け入れることは絶対に無いと思った。
この時から、数日前の深夜のことだった。
ゲルト王国の王都、暗黒騎士のテント群のほぼ真ん中に、ゾルゲは座っていた。
彼は星空を眺めることが大好きだった。
気持ちを落ち着けていた。
すると――
彼が見ていた星空の一画に、何かのエネルギーが集中した。
(誰か来るのか。このオーラは)
やがて、1人の老人がその一画に具現化して、暗黒騎士ゾルゲの前に飛び出した。
「おじいさま!! 」
それは、和の国の国王、剣聖と言われたゾルゲの曾祖父シャーだった。
「おじいさま。何か? 」
「ゾルゲよ。お前が心を休めている時に、急に姿を現わして申し訳ないな」
「いえいえ。何も問題ございません。私はおじいさまと会話できるだけで心の底から光栄でございます」
「お願い事があるのだ。もう、しばらくすると、このゲルト王国に聖女カタリナと守護騎士神宮悟が訪れるだろう」
「はい、予期してございます。私は彼らの気持ちをよく理解しておりますから、黙ってこの国を通してあげようと思っております」
「そこじゃ。通してあげてもよいが、条件をつけてほしい」
「条件ですか? 」
「聖女の守護騎士がお前と生死にまで至るかもしれない試合をすることじゃ」
「生死に至るかもしれない試合!! どうして、そこまで!! 」
「ゾルゲよ。結論から言うと、私の尻ぬぐいじゃ」
「おじいさまが、どのような間違いをおこされたのでしょうか」
「我は老いたるものの義務として、後世に正しい剣術を伝えることを心がけてきた」
「はい。私も大切な剣の奥義を伝授していただきました」
「そうだ。だからお前は今、この世界で2番目に強い剣士じゃ」
「はははは 律儀なおじいさまは正確におっしゃるのですね。私も理解しております。今、この世界で最強の剣士は聖女カタリナの守護騎士神宮悟ですね」
「そうだ。ここで重要なことじゃが、今この世界で3番目に強い剣士は―― 」
「魔王リューベ様ですね」
「そこじゃ。最大の魔力を秘めた者に剣を教えてしまった!! これから聖女の守護騎士は、魔王と戦わなければならないじゃろう」
「守護騎士は最強ですからか勝てるはずですが」
「剣だけの戦いならな。しかし魔王は自分の剣に最大級の魔術を合体させている」
「それは?? 」
「見えない剣。もう少し正確に言うと、途中まで消滅し、相手を切断する瞬間だけ具現化される剣じゃ」
「そのような剣を魔王リューベ様は使うことができるのですか!! そんな剣、全く防ぐことができないじゃないですか!! 」
「たぶん、最強の剣士である神宮悟ならば、具現化される瞬間に感じることができる。だから防ぐことも可能じゃ。しかし100%ではない」
「100%ではないのですか?? 」
「そうじゃ。我が心眼で2人の戦いを心の中でシュミレートしてみた。1億回くらいかな。そうしたら、受け損なってしまう結果が出てしまった回があった」
「どれくらいでしょうか?? 」
「1回じゃ」
「1億分の1。聖女の守護騎士が敗北して命を落す確率は極めて低いのですね」
「だがな。我はその確率でも不安なんじゃ。是非是非0%にしてあげたい」どうしてもじゃ」
「そこまでお気を使うとは!!!! 」
「やがて、お前も聖女と守護騎士が並んだ姿で対面することじゃろう。その時、分るはずじゃ。我は聖女カタリナの未来の幸せを完全に守りたい」
「わかりました。おじいさまの御依頼ならば完璧に遂行致しましょう。それでは、どのように戦えばよいでしょうか」
それを聞いたシャーは腰に差していた剣を鞘ごと抜き、ゾルゲに渡した。
「この剣を使って戦いをしてくれ。我と極めて似た性格のお前には耐え難いことかもしれないが、卑怯な方法じゃ。この剣には最大限の魔力が込められている」
「卑怯な戦いは望みませんが、おじいさまの御意思には従います」
「この剣をお前が振った瞬間、この剣は消滅する瞬間具現化して、相手を切断しようとする瞬間だけ具現化される。魔王と戦う時初見ではなく、守護騎士は経験できる」
「御意」
「お前は私の誇ることができる立派な曾孫だ。理解してくれるのだな」
約1000年前のことだった。既にシャーは、魔族の間で伝説の剣聖となっていた。
しかしシャーは、その時の聖女(魔族と戦う者)と禁断の恋に落ちていた。
美しい聖女はシャーに懇願して、ある剣を彼に渡した。
夜の深い闇のように美しい黒髪に、月のように輝く灰色の瞳。
「シャー様。これから、私の数代後の子孫の娘が絶望的な悲劇に見舞われます。ですが、彼女は彼女の守護騎士のおかげで心を立ち直らせることができます」
「それで、この剣は???? 」
「その守護騎士の命を完全に守るため、しかるべき時、しかるべき者にお渡しください」
(カタリナよ。今、約束を果たしたぞ‥‥‥‥ )
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