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Ⅰ 絶望の悲劇から
5 剣より強い杖
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次の日の朝、ランスロは父親の公爵に言った。
「御前試合に出場したいと思います。」
それを聞いて公爵はにっこりと笑ってうなづき、なにも言わなかった。父親は自分の息子のことを心から信頼していた。
御前試合の日が訪れた。宮殿の前の大きな広場に会場が設けられ、王族、貴族はもとより、平民も観覧できる席が多くつくられていた。そこにはグネビアが、母親のエリザベスとともに座っていた。
この試合の褒美の内容は、優勝者の貴族の家には半分の税金が減らされ、そのために生活が苦しい平民に重税が増やされることをみんなが知っていた。
国王は試合開始の宣言をしようとした。娘の王女からの申し出とはいえ、なんで飢饉の寸前にある国中の臣民を苦しめる増税を認めてしまったのか、心の中で大変悔いていた。
「本日の御前試合の開始を宣言する。…」
その時、勇気を秘めた凜とした声が会場に響いた。
「国王陛下、お願いがございます。」
広場にひざまずいていた若者達の中にいた、ランスロだった。
国王の隣に座っていた公爵がささやいた。
「お願いでございます。お聞き届けください。」
国王は言った。
「ランスロよ。なにかあるのか。」
「発言を認めていただきありがとうございます。私ランスロは国の軍務を司る公爵家に生まれ、幼き頃から騎士のマスターである父公爵の教えを受けて、国王及び臣民のため剣術の技を磨き励んでまいりました。」
「それはよく、知っておる。」
「他の貴族の家に比べ、私は大変恵まれた環境に育ち、不肖自分のことながら本日の試合に優勝するのは当然のことだと思います。」
「ランスロよ、我もそう思うが。試合開始前の今、大勢の観衆の前でそのことを言うのはどうか。」
「大勢の観衆がいるからこそ申し上げます。どのようなことでもかまいません。本日の試合で私にハンデをおつけください。そしてその代わり、私が優勝した場合には、私の家の税金を減らす褒美を、その他の家の税金を増やすことと合わせてお止めいただき、臣民に対する税金を増やさないことを褒美としていただきたく、切にお願い申し上げます。」
その言葉が終わると、会場から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
国王も心の中で大変喜んで、ランスロのハンデをできる限り軽くしようと考え始めた。ところが唐突に、公爵と反対側の隣の席に座っていた王女マギーが強い口調で言った。
「ランスロよ。国王様が折角お考えになった褒美を止めてほしいとは、なんて恐れ多いことを言うのか。それでは私が決めてあげる。本日の御前試合でランスロに与えるハンデは、『剣無しで戦うこと』にしましょう。」
王女の発言を聞くと、会場の割れんばかりの拍手と歓声はぴたりと消えて、誰もいないかのような沈黙に支配された。振られた剣をかわすだけでは、当然試合に勝つことはできず、甲冑を着ているとはいえ、一撃でも剣を受けた場合には大けがや命の危険もあるからだ。
国王が王女の発言をたしなめた。
「『剣無しで戦うこと』とはあまりに極端すぎるぞ、それではこうしょう。」
国王は声を大きくして続けた。
「今、この会場にいる者の中で、剣以外でなにか戦える物を持っている者は、直ぐに手を上げよ。その物をランスロに与える。『剣以外の物で戦うこと』がランスロへのハンデだ。」
会場にいた王族や貴族の中には、ポールアームや槍など剣以外の武器を持っていたものが大勢いた。しかし、立派な跡取りがいる公爵家への嫉妬と、ランスロが負ければ自分の家の若者が優勝するかもしれないという胸算用もあり、1人として手を上げようとする者はいなかった。
「だれもいないのか。」国王は怒り、王女は意地悪く微笑んだ。
その時、平民の席で1人、手を上げる者がいた。
‥‥
時間を少しさかのぼる。御前試合が開始される日の朝のことだった。
グネビアは森の中のお気に入りの場所で花々が咲いている前に座り、ランスロが困難を乗り越えることができるよう祈っていた。
「もしもし、お祈りを妨げて申し訳ありません。」
グネビアが目を開けると、目の前にとても背が高い、たいそう高齢の老人が立っていた。その老人は不思議な雰囲気を漂わせていた。
「あなた様は最強の魔法を使う、魔法使いのグネビア様ですね。召喚命令に従って参上致しました。」
「なんで私の名前を知っているのですか。それと私は魔法使いではありません。」
「この国の魔法使いであれば、毎日、ここで祈られるグネビア様のことを知らない者はおりますまい。それと、あなたは知らないうちに最強の魔法を使っているのですよ。」
「私があなたを召喚したのですか。」
「はい、そしてあなたに献上したい物があります。この杖でございます。今日、御前試合に行かれますね。この杖を会場までお持ちください。必ず、グネビア様が愛する方をお救いします。」
‥‥
平民の席で1人手を上げた者はグネビアだった。会場の多くの視線がそちらに注がれた。それを見て王は言った。
「ランスロが剣の代わりに使う物を持っているというのか。それでは、観覧席から降りてランスロに渡してくれ。」
平民が、しかも少女が、剣の代わりになるような物など持っているはずはないと会場にいたみんなが思っていた。
ランスロは言った。
「レディ、降りて来なくてもいいです。私が取りに参ります。」
ランスロは観覧席を一歩一歩上がって行った。
そして、グネビアの前でひざまづいた。
グネビアから杖が渡された。
その光景を見て、会場のあちこちでささやかれた。
(まるで、騎士様が王女様に謁見しているみたい。なんて尊い姿。)
杖を受け取ったランスロは言った。
「この杖で必ず戦い抜き、優勝し、この国の臣民を守ることをお誓します。」
「御前試合に出場したいと思います。」
それを聞いて公爵はにっこりと笑ってうなづき、なにも言わなかった。父親は自分の息子のことを心から信頼していた。
御前試合の日が訪れた。宮殿の前の大きな広場に会場が設けられ、王族、貴族はもとより、平民も観覧できる席が多くつくられていた。そこにはグネビアが、母親のエリザベスとともに座っていた。
この試合の褒美の内容は、優勝者の貴族の家には半分の税金が減らされ、そのために生活が苦しい平民に重税が増やされることをみんなが知っていた。
国王は試合開始の宣言をしようとした。娘の王女からの申し出とはいえ、なんで飢饉の寸前にある国中の臣民を苦しめる増税を認めてしまったのか、心の中で大変悔いていた。
「本日の御前試合の開始を宣言する。…」
その時、勇気を秘めた凜とした声が会場に響いた。
「国王陛下、お願いがございます。」
広場にひざまずいていた若者達の中にいた、ランスロだった。
国王の隣に座っていた公爵がささやいた。
「お願いでございます。お聞き届けください。」
国王は言った。
「ランスロよ。なにかあるのか。」
「発言を認めていただきありがとうございます。私ランスロは国の軍務を司る公爵家に生まれ、幼き頃から騎士のマスターである父公爵の教えを受けて、国王及び臣民のため剣術の技を磨き励んでまいりました。」
「それはよく、知っておる。」
「他の貴族の家に比べ、私は大変恵まれた環境に育ち、不肖自分のことながら本日の試合に優勝するのは当然のことだと思います。」
「ランスロよ、我もそう思うが。試合開始前の今、大勢の観衆の前でそのことを言うのはどうか。」
「大勢の観衆がいるからこそ申し上げます。どのようなことでもかまいません。本日の試合で私にハンデをおつけください。そしてその代わり、私が優勝した場合には、私の家の税金を減らす褒美を、その他の家の税金を増やすことと合わせてお止めいただき、臣民に対する税金を増やさないことを褒美としていただきたく、切にお願い申し上げます。」
その言葉が終わると、会場から割れんばかりの拍手と歓声が起こった。
国王も心の中で大変喜んで、ランスロのハンデをできる限り軽くしようと考え始めた。ところが唐突に、公爵と反対側の隣の席に座っていた王女マギーが強い口調で言った。
「ランスロよ。国王様が折角お考えになった褒美を止めてほしいとは、なんて恐れ多いことを言うのか。それでは私が決めてあげる。本日の御前試合でランスロに与えるハンデは、『剣無しで戦うこと』にしましょう。」
王女の発言を聞くと、会場の割れんばかりの拍手と歓声はぴたりと消えて、誰もいないかのような沈黙に支配された。振られた剣をかわすだけでは、当然試合に勝つことはできず、甲冑を着ているとはいえ、一撃でも剣を受けた場合には大けがや命の危険もあるからだ。
国王が王女の発言をたしなめた。
「『剣無しで戦うこと』とはあまりに極端すぎるぞ、それではこうしょう。」
国王は声を大きくして続けた。
「今、この会場にいる者の中で、剣以外でなにか戦える物を持っている者は、直ぐに手を上げよ。その物をランスロに与える。『剣以外の物で戦うこと』がランスロへのハンデだ。」
会場にいた王族や貴族の中には、ポールアームや槍など剣以外の武器を持っていたものが大勢いた。しかし、立派な跡取りがいる公爵家への嫉妬と、ランスロが負ければ自分の家の若者が優勝するかもしれないという胸算用もあり、1人として手を上げようとする者はいなかった。
「だれもいないのか。」国王は怒り、王女は意地悪く微笑んだ。
その時、平民の席で1人、手を上げる者がいた。
‥‥
時間を少しさかのぼる。御前試合が開始される日の朝のことだった。
グネビアは森の中のお気に入りの場所で花々が咲いている前に座り、ランスロが困難を乗り越えることができるよう祈っていた。
「もしもし、お祈りを妨げて申し訳ありません。」
グネビアが目を開けると、目の前にとても背が高い、たいそう高齢の老人が立っていた。その老人は不思議な雰囲気を漂わせていた。
「あなた様は最強の魔法を使う、魔法使いのグネビア様ですね。召喚命令に従って参上致しました。」
「なんで私の名前を知っているのですか。それと私は魔法使いではありません。」
「この国の魔法使いであれば、毎日、ここで祈られるグネビア様のことを知らない者はおりますまい。それと、あなたは知らないうちに最強の魔法を使っているのですよ。」
「私があなたを召喚したのですか。」
「はい、そしてあなたに献上したい物があります。この杖でございます。今日、御前試合に行かれますね。この杖を会場までお持ちください。必ず、グネビア様が愛する方をお救いします。」
‥‥
平民の席で1人手を上げた者はグネビアだった。会場の多くの視線がそちらに注がれた。それを見て王は言った。
「ランスロが剣の代わりに使う物を持っているというのか。それでは、観覧席から降りてランスロに渡してくれ。」
平民が、しかも少女が、剣の代わりになるような物など持っているはずはないと会場にいたみんなが思っていた。
ランスロは言った。
「レディ、降りて来なくてもいいです。私が取りに参ります。」
ランスロは観覧席を一歩一歩上がって行った。
そして、グネビアの前でひざまづいた。
グネビアから杖が渡された。
その光景を見て、会場のあちこちでささやかれた。
(まるで、騎士様が王女様に謁見しているみたい。なんて尊い姿。)
杖を受け取ったランスロは言った。
「この杖で必ず戦い抜き、優勝し、この国の臣民を守ることをお誓します。」
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