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2 杖は覚醒する
7 暗黒騎士
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休憩時間に入り、ランスロは試合会場の横で公爵家が張ったテントの中で休んでいた。試合の疲れでうとうとしていると、家臣の声で目が覚めた。
「ここは、公爵家のもの以外立ち入ることはできない、すぐに立ち去れ。」
ランスロがテントの外に出ると、グネビアが家臣から強く注意されていた。ランスロが言った。
「私にとって、とても大切な方です。問題ありません。」
グネビアが言った。
「会場のそばで公爵家の紋章があるテントを見つけました。多くの護衛の方が警備されていましたが、いてもたってもいられなくなりました。国王が剣以外の武器を求められた時、私などが杖などをお渡したことをお詫びしたいと思いました。私が手を上げずもう少し待てば、もっとランスロ様が戦いやすい武器を手にされることができたのに。」
その言葉を聞くと、ランスロは真剣な顔をして首を振った。
「レディ、そのようなことは全くありません。大勢の観衆の中で勇気を出して、あなたが1人だけ手を上げていただきました。あの時あの会場で、いや全世界を捜したとしても、いただいた杖以外の物では剣に勝てなかったでしょう。」
グネビアは微笑んだ。そして言った。
「最初の試合の時には全く心配しませんでしたが、次のゴルバさんとの試合がどうなるのか、ほんとうに心配でした。親友の2人がどう戦うのかと。」
「あれ、ゴルバと私が親友であることは誰も知らないはずです。貴族の子弟は誰と親しいのか、戦略的に秘密にしておくものです。なぜ、知っていらっしゃるのでしょうか。」
「単に私の勘です。お気になさらないでください。最後にゴルバさんの剣が2つに折れたのが見えましたが、杖はどうですか。」
「見てください。このとおり、この杖はとても固い木で作られたことはわかりますが、不思議なことに傷跡一つありません。私も聞きたかったのですが、レディはなぜ会場まで持って来られたのでしょうか。」
「今日の朝、森の花々の前でランスロ様の御無事を祈っていましたら、目の前にとても背が高い、たいそう高齢の老人が立っていました。その老人が私にくださったものです。それから、御前試合の会場に持って行くようとおっしゃっていました。」
グネビアは、「あなたの愛する人を必ず救う。」と言われたことは大事な秘密として言わなかった。
ランスロが言った。
「不思議なことばかりですね。ゴルバの剣とまともにぶっかることがわかった瞬間、杖が砕けて、剣戟を直接受けてしまうかも知れないという恐れは全くありませんでした。大丈夫だ、剣戟に必ず勝てると思いました。」
その時グネビアは、かつて母親から、愛する人のため心の底から祈ることは最強の魔法だと言われたことを想い出し、祈りが杖を強くしたのかなと思った。
魔王ゲールと参謀のラモンが魔王城で、御前試合の様子を見ていた。人間に気づかれないように、会場の空中に魔眼を数個忍ばせてその視線から様子を見ていたのだった。
参謀のラモンが言った。
「王女マギーは、ランスロが優勝してしまうかもしれないことに大層お怒りだそうでです。でも、決勝の相手は私が用意しましたから、ランスロは絶対勝つことはできません。」
魔王ゲールが聞いた。
「どんな相手を用意したんだ。まだ15歳とはいえ、20歳になった時にはこの魔王ゲールを苦しめる世界最強の騎士になるランスロだぞ。」
「心底、人間を憎んでいる暗黒騎士です。ランスロの決勝の相手として勝ち上がった若者は今、幻惑魔物の蝶の羽ばたきで眠り込んでいます。魔術を使い、暗黒騎士の顔をその若者の顔に変えて戦わせようと思います。」
「暗黒騎士か。確か、宝剣プライラスを振るう20歳のランスロをかなり追い詰めたな。今戦うのは杖を振るう15歳のランスロだ。ラモンよ、もしかしたら暗黒騎士が勝てるかもしれないぞ。それから、暗黒騎士に伝えよ。我に遠慮することはない。チャンスがあったらランスロを殺してしまえ。ランスロさえいなくなれば、計画を前倒して人間界に侵攻する。」
「御意にございます。」
決勝戦が開始されようとしていた。グネビアは母親のエリザベスとともに、はらはらしながら観覧席で試合が開始されるのを見守っていた。
大歓声の中、試合会場にランスロとその相手が入場してきた。試合開始前には西洋兜の面を開き、確かに本人であることを確認し挨拶をするのが習わしだが、相手はなかなか面を開こうとしなかった。
審判が注意した。
「君、面を開いて挨拶して。」
「人間はきらいだ。」
「何を言っているんだ。習わしに従わなければ不戦敗とするぞ。」
それを聞いて、相手は面を開いた。顔は確かに勝ち上がってきた貴族の若者のものだった。
「挨拶しないが、まあいい。それでは試合を始めなさい。」
その時、相手がランスロに言った。
「おまえが未来に人間の希望となるのだな。今日、私がおまえを消して人間の希望を打ち砕こう。」
それを聞いてランスロは驚いたが、もう試合が始まっているので集中して、あまり考えないようにした。
相手はゴルバと同じくらい鋭い剣戟を何回も放った。ただ、ゴルバと違うのは、剣を振る軌道が必ずしもランスロに当てることを目指したものではないことだった。ランスロには強い違和感があったが、数十回の剣戟の後、やっとその答えがわかった。
体さばきで動くことができなくなった。実際にその場に閉じ込められていた。ランスロは思った。
(空間を切断しているんだ。私の体に合わせて空間が切断されているから、動くことができない。杖を振るって剣戟をそらすこともできない。)
相手が言った。
「人間の騎士だった私は、主人の貴族から身に覚えの無い罪を着せられ、騎士の地位を剥奪され、生まれ育った地から遠くに流罪となり、妻や子が生きているかどうかもわからない。だから、暗黒騎士となり魔王軍に入ったのだ。魔の力で空間を切ることもできるようになった。」
ランスロがその場から動かないのを見て、会場中がざわついていた。
グネビアには、ランスロが黒い色に包まれているのが見えた。
彼女は必至に祈った。
「ランスロが危ないわ。杖よもう一度ランスロを助けて。」
相手は剣を真っ正面から打ち込んだ。ランスロは杖を動かすこともできないので、防ぐことのできない暗黒騎士の剣の軌道が彼の心臓を切り裂こうとしていた。
「ここは、公爵家のもの以外立ち入ることはできない、すぐに立ち去れ。」
ランスロがテントの外に出ると、グネビアが家臣から強く注意されていた。ランスロが言った。
「私にとって、とても大切な方です。問題ありません。」
グネビアが言った。
「会場のそばで公爵家の紋章があるテントを見つけました。多くの護衛の方が警備されていましたが、いてもたってもいられなくなりました。国王が剣以外の武器を求められた時、私などが杖などをお渡したことをお詫びしたいと思いました。私が手を上げずもう少し待てば、もっとランスロ様が戦いやすい武器を手にされることができたのに。」
その言葉を聞くと、ランスロは真剣な顔をして首を振った。
「レディ、そのようなことは全くありません。大勢の観衆の中で勇気を出して、あなたが1人だけ手を上げていただきました。あの時あの会場で、いや全世界を捜したとしても、いただいた杖以外の物では剣に勝てなかったでしょう。」
グネビアは微笑んだ。そして言った。
「最初の試合の時には全く心配しませんでしたが、次のゴルバさんとの試合がどうなるのか、ほんとうに心配でした。親友の2人がどう戦うのかと。」
「あれ、ゴルバと私が親友であることは誰も知らないはずです。貴族の子弟は誰と親しいのか、戦略的に秘密にしておくものです。なぜ、知っていらっしゃるのでしょうか。」
「単に私の勘です。お気になさらないでください。最後にゴルバさんの剣が2つに折れたのが見えましたが、杖はどうですか。」
「見てください。このとおり、この杖はとても固い木で作られたことはわかりますが、不思議なことに傷跡一つありません。私も聞きたかったのですが、レディはなぜ会場まで持って来られたのでしょうか。」
「今日の朝、森の花々の前でランスロ様の御無事を祈っていましたら、目の前にとても背が高い、たいそう高齢の老人が立っていました。その老人が私にくださったものです。それから、御前試合の会場に持って行くようとおっしゃっていました。」
グネビアは、「あなたの愛する人を必ず救う。」と言われたことは大事な秘密として言わなかった。
ランスロが言った。
「不思議なことばかりですね。ゴルバの剣とまともにぶっかることがわかった瞬間、杖が砕けて、剣戟を直接受けてしまうかも知れないという恐れは全くありませんでした。大丈夫だ、剣戟に必ず勝てると思いました。」
その時グネビアは、かつて母親から、愛する人のため心の底から祈ることは最強の魔法だと言われたことを想い出し、祈りが杖を強くしたのかなと思った。
魔王ゲールと参謀のラモンが魔王城で、御前試合の様子を見ていた。人間に気づかれないように、会場の空中に魔眼を数個忍ばせてその視線から様子を見ていたのだった。
参謀のラモンが言った。
「王女マギーは、ランスロが優勝してしまうかもしれないことに大層お怒りだそうでです。でも、決勝の相手は私が用意しましたから、ランスロは絶対勝つことはできません。」
魔王ゲールが聞いた。
「どんな相手を用意したんだ。まだ15歳とはいえ、20歳になった時にはこの魔王ゲールを苦しめる世界最強の騎士になるランスロだぞ。」
「心底、人間を憎んでいる暗黒騎士です。ランスロの決勝の相手として勝ち上がった若者は今、幻惑魔物の蝶の羽ばたきで眠り込んでいます。魔術を使い、暗黒騎士の顔をその若者の顔に変えて戦わせようと思います。」
「暗黒騎士か。確か、宝剣プライラスを振るう20歳のランスロをかなり追い詰めたな。今戦うのは杖を振るう15歳のランスロだ。ラモンよ、もしかしたら暗黒騎士が勝てるかもしれないぞ。それから、暗黒騎士に伝えよ。我に遠慮することはない。チャンスがあったらランスロを殺してしまえ。ランスロさえいなくなれば、計画を前倒して人間界に侵攻する。」
「御意にございます。」
決勝戦が開始されようとしていた。グネビアは母親のエリザベスとともに、はらはらしながら観覧席で試合が開始されるのを見守っていた。
大歓声の中、試合会場にランスロとその相手が入場してきた。試合開始前には西洋兜の面を開き、確かに本人であることを確認し挨拶をするのが習わしだが、相手はなかなか面を開こうとしなかった。
審判が注意した。
「君、面を開いて挨拶して。」
「人間はきらいだ。」
「何を言っているんだ。習わしに従わなければ不戦敗とするぞ。」
それを聞いて、相手は面を開いた。顔は確かに勝ち上がってきた貴族の若者のものだった。
「挨拶しないが、まあいい。それでは試合を始めなさい。」
その時、相手がランスロに言った。
「おまえが未来に人間の希望となるのだな。今日、私がおまえを消して人間の希望を打ち砕こう。」
それを聞いてランスロは驚いたが、もう試合が始まっているので集中して、あまり考えないようにした。
相手はゴルバと同じくらい鋭い剣戟を何回も放った。ただ、ゴルバと違うのは、剣を振る軌道が必ずしもランスロに当てることを目指したものではないことだった。ランスロには強い違和感があったが、数十回の剣戟の後、やっとその答えがわかった。
体さばきで動くことができなくなった。実際にその場に閉じ込められていた。ランスロは思った。
(空間を切断しているんだ。私の体に合わせて空間が切断されているから、動くことができない。杖を振るって剣戟をそらすこともできない。)
相手が言った。
「人間の騎士だった私は、主人の貴族から身に覚えの無い罪を着せられ、騎士の地位を剥奪され、生まれ育った地から遠くに流罪となり、妻や子が生きているかどうかもわからない。だから、暗黒騎士となり魔王軍に入ったのだ。魔の力で空間を切ることもできるようになった。」
ランスロがその場から動かないのを見て、会場中がざわついていた。
グネビアには、ランスロが黒い色に包まれているのが見えた。
彼女は必至に祈った。
「ランスロが危ないわ。杖よもう一度ランスロを助けて。」
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