王女ではなくなりますが‥‥

ゆきちゃん

文字の大きさ
17 / 32
3 蜘蛛の糸アラクネ

17 最強騎士の弱点

しおりを挟む
 王との謁見が終わって帰る途中、公爵の一行は王都イスタンを一望できる見晴らしの良い峠で休憩をとった。

 グネビアとランスロは同じ岩の上に並んで座った。

「レディ、今日はほんとうに助けていただきました。あのような勇気を私は見たことがありません。」

「公爵様とランスロ様が、いわれのない反逆の罪を着せられるのを絶対阻止しようと必死でした。実は、どんなことを国王様や王女様に申し上げたのかほとんど覚えていません。」

「そうでしたか、理路整然と話されていたので、そのようなお気持ちだったとは全くわかりませんでした。一つお聞きしてよろしいでしょうか。レディが話された内容で、私にはとても気になったことがあります。」

「どのようなことですか。」

「『たとえ限られた時間で死がふたりを分かつとしても、愛し合うふたりが一緒にいられる時間はとても大切だ。』とおっしゃったことです。もう既に辛い経験をされたことをお話になったのですか。」

「………私の経験ではありません。ただ、そのような考えが浮かんだだけです。」

「そうですか。レディのその言葉を聞いた時、不思議なことに、私も同じ辛い経験したことがあるような気がしたのです。」

「そうですか。ランスロ様を共感させてしまったのですね。」

(私とランスロの1回目の時間と2回目の今の時間は、つながっているのかしら。でも、絶対に同じ結果にならないようにがんばらなければ。)



 グネビアは家に帰ると、母親のエリザベスに今日のことを話した。

「公爵様とランスロ様を救うため、大勢の観衆がいる中で、私一人だけ国王様に異議を申し出て前に進んだところまでは覚えているの。けれど、それから先は必死だったから、何を話したかほとんど覚えていないわ。ただ、気がつくと、国王様が優しい顔で私を見つめて話していたわ。そして、国王様は公爵様とランスロ様に謝罪して、許嫁の話はなかったことにしていただいたの。」

 母親は娘を讃えた。

「ほんとうにがんばったのね、人間として大切な真の勇気を示した娘を、私はとても誇らしく思うわ。」

「そうそう、国王様は私にお母様のことを聞いたわ。」

「何を聞かれたの。」

 グネビアには母親の顔が少し赤くなったように見えた。

「お母様の名前と、後『元気で過ごしているか。』と。」

「そう。」

 母親は満面の笑顔になり、その後、遠くを見ているような顔になった。



 魔王ゲールと参謀のラモンが魔王城の一室では話し合っていた。

 魔王ゲールが言った。

「幻惑の魔物の蝶が王女マギーをたぶらかしてやったことは、ことごとく失敗だったな。グネビアとランスロの絆は前よりも強くなったようだ。なにしろ、

ランスロが宝剣プライラスを振る時の詠唱は『グロリーブルーアイ』だったそうだ。数十万の我が軍が葬られ、この魔王城に帰還できたのはほとんどいなかったが、運良く帰還できた者から聞いた。あの王女、の瞳が美しい青い色であるのは私でも知っている。」

 魔王の参謀ラモンが進言した。

「魔王様、既にランスロは恐ろしく強い騎士になっています。たぶん、魔王様がかって、未来で戦った時より強いと思います。しかし、ランスロが強くなった理由がグネビアだとすると、逆にグネビアこそが彼の最大の弱点ではないのでしょうか。」

「グネビアが最大の弱点か。」

「グネビアのことは、常に大魔法使いクレストの残留思念が守っています。それに加えてこの頃は、かって神と織物を競って勝った、あの魔女のにおいもします。誰にも気がつかれない方法で弱点を攻めるのです。」

「誰にも気がつかれない方法があるのか。」

 参謀のラモンは魔王ゲールに耳打ちした。



 心の中には依然として、ランスロとの間の運命の糸が代償としてとられ続けている不安を感じながら、毎日グネビアはアラクネの糸を集めていた。

 目に見えて多くなるアラクネの糸を見ると、ランスロの命を救うことを実感できて幸せだった。

 今日は、遠くの平野で行われた軍事演習にランスロが参加して、公爵領に戻ってくる日だった。

「ボリュームのある食事を振る舞ってあげよう。」

 町の市場で食材を選んでいたグネビアから自然に独り言が口から出た。ランスロはもう食べ盛りの17歳になっていた。果物を売っている露店の前を通った時、グネビアは不思議な魅惑に捕らえられた。

 そこには、美味しそうなりんごが並んでいて、中でもきれいな円形をした赤く熟したリンゴがあった。



 その少し前、魔界の果樹園で、参謀のラモンが魔界の木から果実をもいで食べた。

「美味しい。この味はどんな食べ物に勝る。」

 そしてラモンは果実の中から、一匹の小さな虫を捕らえていた。肉眼でわずかに見ることができる微小な虫だった。その虫の名前は「眠り死虫」といった。ラモンは自分を納得させるかのように、話を続けた。

「この虫が入り込んだ果実は、食べたくなる誘惑に勝てなくなるほど、見栄えがとても魅力的になり、さらに味が極限まで高まる。ただし、人間であれ魔物であれ、その果実を食べると死んだと等しい永遠の眠りに落ちる。このラモンのような上級魔物は別だが。」

 それからラモンは呪文を唱え、人間界との間に黒い穴を開けた。そして、そこから手を入れると、果物を売っている露店の前だった。ラモンは手を離し、眠り死虫はとてもすばやい動きで赤いりんごに入り込んだ。



 グネビアは果物の露店で売られていた赤いりんごを見た時、どうしてもそれを食べたくなる衝動にかられた。

「おじさん。このりんごはいくらですか。」

「いいよ、おじょうさん。もう熟して今食べると美味しそうだから、きれいなおじょうさんにただであげるよ。」

 露天商がグネビアに赤いりんごを渡した。


「グネビア様、そのりんごは危ない。」

 どこからともなく、大魔法使いクレストの声がした。


 しかし、グネビアはかじってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。 愛しているのは君だけ…。 大切なのも君だけ…。 『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』 ※設定はゆるいです。 ※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

処理中です...