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3 蜘蛛の糸アラクネ
17 最強騎士の弱点
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王との謁見が終わって帰る途中、公爵の一行は王都イスタンを一望できる見晴らしの良い峠で休憩をとった。
グネビアとランスロは同じ岩の上に並んで座った。
「レディ、今日はほんとうに助けていただきました。あのような勇気を私は見たことがありません。」
「公爵様とランスロ様が、いわれのない反逆の罪を着せられるのを絶対阻止しようと必死でした。実は、どんなことを国王様や王女様に申し上げたのかほとんど覚えていません。」
「そうでしたか、理路整然と話されていたので、そのようなお気持ちだったとは全くわかりませんでした。一つお聞きしてよろしいでしょうか。レディが話された内容で、私にはとても気になったことがあります。」
「どのようなことですか。」
「『たとえ限られた時間で死がふたりを分かつとしても、愛し合うふたりが一緒にいられる時間はとても大切だ。』とおっしゃったことです。もう既に辛い経験をされたことをお話になったのですか。」
「………私の経験ではありません。ただ、そのような考えが浮かんだだけです。」
「そうですか。レディのその言葉を聞いた時、不思議なことに、私も同じ辛い経験したことがあるような気がしたのです。」
「そうですか。ランスロ様を共感させてしまったのですね。」
(私とランスロの1回目の時間と2回目の今の時間は、つながっているのかしら。でも、絶対に同じ結果にならないようにがんばらなければ。)
グネビアは家に帰ると、母親のエリザベスに今日のことを話した。
「公爵様とランスロ様を救うため、大勢の観衆がいる中で、私一人だけ国王様に異議を申し出て前に進んだところまでは覚えているの。けれど、それから先は必死だったから、何を話したかほとんど覚えていないわ。ただ、気がつくと、国王様が優しい顔で私を見つめて話していたわ。そして、国王様は公爵様とランスロ様に謝罪して、許嫁の話はなかったことにしていただいたの。」
母親は娘を讃えた。
「ほんとうにがんばったのね、人間として大切な真の勇気を示した娘を、私はとても誇らしく思うわ。」
「そうそう、国王様は私にお母様のことを聞いたわ。」
「何を聞かれたの。」
グネビアには母親の顔が少し赤くなったように見えた。
「お母様の名前と、後『元気で過ごしているか。』と。」
「そう。」
母親は満面の笑顔になり、その後、遠くを見ているような顔になった。
魔王ゲールと参謀のラモンが魔王城の一室では話し合っていた。
魔王ゲールが言った。
「幻惑の魔物の蝶が王女マギーをたぶらかしてやったことは、ことごとく失敗だったな。グネビアとランスロの絆は前よりも強くなったようだ。なにしろ、
ランスロが宝剣プライラスを振る時の詠唱は『グロリーブルーアイ』だったそうだ。数十万の我が軍が葬られ、この魔王城に帰還できたのはほとんどいなかったが、運良く帰還できた者から聞いた。あの王女、の瞳が美しい青い色であるのは私でも知っている。」
魔王の参謀ラモンが進言した。
「魔王様、既にランスロは恐ろしく強い騎士になっています。たぶん、魔王様がかって、未来で戦った時より強いと思います。しかし、ランスロが強くなった理由がグネビアだとすると、逆にグネビアこそが彼の最大の弱点ではないのでしょうか。」
「グネビアが最大の弱点か。」
「グネビアのことは、常に大魔法使いクレストの残留思念が守っています。それに加えてこの頃は、かって神と織物を競って勝った、あの魔女のにおいもします。誰にも気がつかれない方法で弱点を攻めるのです。」
「誰にも気がつかれない方法があるのか。」
参謀のラモンは魔王ゲールに耳打ちした。
心の中には依然として、ランスロとの間の運命の糸が代償としてとられ続けている不安を感じながら、毎日グネビアはアラクネの糸を集めていた。
目に見えて多くなるアラクネの糸を見ると、ランスロの命を救うことを実感できて幸せだった。
今日は、遠くの平野で行われた軍事演習にランスロが参加して、公爵領に戻ってくる日だった。
「ボリュームのある食事を振る舞ってあげよう。」
町の市場で食材を選んでいたグネビアから自然に独り言が口から出た。ランスロはもう食べ盛りの17歳になっていた。果物を売っている露店の前を通った時、グネビアは不思議な魅惑に捕らえられた。
そこには、美味しそうなりんごが並んでいて、中でもきれいな円形をした赤く熟したリンゴがあった。
その少し前、魔界の果樹園で、参謀のラモンが魔界の木から果実をもいで食べた。
「美味しい。この味はどんな食べ物に勝る。」
そしてラモンは果実の中から、一匹の小さな虫を捕らえていた。肉眼でわずかに見ることができる微小な虫だった。その虫の名前は「眠り死虫」といった。ラモンは自分を納得させるかのように、話を続けた。
「この虫が入り込んだ果実は、食べたくなる誘惑に勝てなくなるほど、見栄えがとても魅力的になり、さらに味が極限まで高まる。ただし、人間であれ魔物であれ、その果実を食べると死んだと等しい永遠の眠りに落ちる。このラモンのような上級魔物は別だが。」
それからラモンは呪文を唱え、人間界との間に黒い穴を開けた。そして、そこから手を入れると、果物を売っている露店の前だった。ラモンは手を離し、眠り死虫はとてもすばやい動きで赤いりんごに入り込んだ。
グネビアは果物の露店で売られていた赤いりんごを見た時、どうしてもそれを食べたくなる衝動にかられた。
「おじさん。このりんごはいくらですか。」
「いいよ、おじょうさん。もう熟して今食べると美味しそうだから、きれいなおじょうさんにただであげるよ。」
露天商がグネビアに赤いりんごを渡した。
「グネビア様、そのりんごは危ない。」
どこからともなく、大魔法使いクレストの声がした。
しかし、グネビアはかじってしまった。
グネビアとランスロは同じ岩の上に並んで座った。
「レディ、今日はほんとうに助けていただきました。あのような勇気を私は見たことがありません。」
「公爵様とランスロ様が、いわれのない反逆の罪を着せられるのを絶対阻止しようと必死でした。実は、どんなことを国王様や王女様に申し上げたのかほとんど覚えていません。」
「そうでしたか、理路整然と話されていたので、そのようなお気持ちだったとは全くわかりませんでした。一つお聞きしてよろしいでしょうか。レディが話された内容で、私にはとても気になったことがあります。」
「どのようなことですか。」
「『たとえ限られた時間で死がふたりを分かつとしても、愛し合うふたりが一緒にいられる時間はとても大切だ。』とおっしゃったことです。もう既に辛い経験をされたことをお話になったのですか。」
「………私の経験ではありません。ただ、そのような考えが浮かんだだけです。」
「そうですか。レディのその言葉を聞いた時、不思議なことに、私も同じ辛い経験したことがあるような気がしたのです。」
「そうですか。ランスロ様を共感させてしまったのですね。」
(私とランスロの1回目の時間と2回目の今の時間は、つながっているのかしら。でも、絶対に同じ結果にならないようにがんばらなければ。)
グネビアは家に帰ると、母親のエリザベスに今日のことを話した。
「公爵様とランスロ様を救うため、大勢の観衆がいる中で、私一人だけ国王様に異議を申し出て前に進んだところまでは覚えているの。けれど、それから先は必死だったから、何を話したかほとんど覚えていないわ。ただ、気がつくと、国王様が優しい顔で私を見つめて話していたわ。そして、国王様は公爵様とランスロ様に謝罪して、許嫁の話はなかったことにしていただいたの。」
母親は娘を讃えた。
「ほんとうにがんばったのね、人間として大切な真の勇気を示した娘を、私はとても誇らしく思うわ。」
「そうそう、国王様は私にお母様のことを聞いたわ。」
「何を聞かれたの。」
グネビアには母親の顔が少し赤くなったように見えた。
「お母様の名前と、後『元気で過ごしているか。』と。」
「そう。」
母親は満面の笑顔になり、その後、遠くを見ているような顔になった。
魔王ゲールと参謀のラモンが魔王城の一室では話し合っていた。
魔王ゲールが言った。
「幻惑の魔物の蝶が王女マギーをたぶらかしてやったことは、ことごとく失敗だったな。グネビアとランスロの絆は前よりも強くなったようだ。なにしろ、
ランスロが宝剣プライラスを振る時の詠唱は『グロリーブルーアイ』だったそうだ。数十万の我が軍が葬られ、この魔王城に帰還できたのはほとんどいなかったが、運良く帰還できた者から聞いた。あの王女、の瞳が美しい青い色であるのは私でも知っている。」
魔王の参謀ラモンが進言した。
「魔王様、既にランスロは恐ろしく強い騎士になっています。たぶん、魔王様がかって、未来で戦った時より強いと思います。しかし、ランスロが強くなった理由がグネビアだとすると、逆にグネビアこそが彼の最大の弱点ではないのでしょうか。」
「グネビアが最大の弱点か。」
「グネビアのことは、常に大魔法使いクレストの残留思念が守っています。それに加えてこの頃は、かって神と織物を競って勝った、あの魔女のにおいもします。誰にも気がつかれない方法で弱点を攻めるのです。」
「誰にも気がつかれない方法があるのか。」
参謀のラモンは魔王ゲールに耳打ちした。
心の中には依然として、ランスロとの間の運命の糸が代償としてとられ続けている不安を感じながら、毎日グネビアはアラクネの糸を集めていた。
目に見えて多くなるアラクネの糸を見ると、ランスロの命を救うことを実感できて幸せだった。
今日は、遠くの平野で行われた軍事演習にランスロが参加して、公爵領に戻ってくる日だった。
「ボリュームのある食事を振る舞ってあげよう。」
町の市場で食材を選んでいたグネビアから自然に独り言が口から出た。ランスロはもう食べ盛りの17歳になっていた。果物を売っている露店の前を通った時、グネビアは不思議な魅惑に捕らえられた。
そこには、美味しそうなりんごが並んでいて、中でもきれいな円形をした赤く熟したリンゴがあった。
その少し前、魔界の果樹園で、参謀のラモンが魔界の木から果実をもいで食べた。
「美味しい。この味はどんな食べ物に勝る。」
そしてラモンは果実の中から、一匹の小さな虫を捕らえていた。肉眼でわずかに見ることができる微小な虫だった。その虫の名前は「眠り死虫」といった。ラモンは自分を納得させるかのように、話を続けた。
「この虫が入り込んだ果実は、食べたくなる誘惑に勝てなくなるほど、見栄えがとても魅力的になり、さらに味が極限まで高まる。ただし、人間であれ魔物であれ、その果実を食べると死んだと等しい永遠の眠りに落ちる。このラモンのような上級魔物は別だが。」
それからラモンは呪文を唱え、人間界との間に黒い穴を開けた。そして、そこから手を入れると、果物を売っている露店の前だった。ラモンは手を離し、眠り死虫はとてもすばやい動きで赤いりんごに入り込んだ。
グネビアは果物の露店で売られていた赤いりんごを見た時、どうしてもそれを食べたくなる衝動にかられた。
「おじさん。このりんごはいくらですか。」
「いいよ、おじょうさん。もう熟して今食べると美味しそうだから、きれいなおじょうさんにただであげるよ。」
露天商がグネビアに赤いりんごを渡した。
「グネビア様、そのりんごは危ない。」
どこからともなく、大魔法使いクレストの声がした。
しかし、グネビアはかじってしまった。
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