目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 202号室の鍵を受け取り、部屋に入る。
 しばらくはここが自分の家となりそうだ。
 ガラス窓から外を覗く。
 あたりは暗くなり、日が沈んでいる。
 人々は行き交う姿がみえた。 街頭があちこちについている。
 ロボットと人間が共存している。
 僕のみる限りではロボットに塗装がされていないのが、ロボットだと認識できるのだ。
 この時代の所有者の好みだろうか。
 それとも金がかかるからやらない、あるいは塗装ができないものがあるのではないか。
 ロボットは買われたペットのように主人にくっついていく。
 さまざまなものがみられる。
 犬や猫をひくものや荷物持ちをしていたり、運転手になっているものなどがいる。
 タクシー運転手は人間からロボットに変わった。
 他に人間は仕事を奪われたのだろう。




 僕は目覚めてから知らないことが多すぎる。
 生まれてきた赤ちゃんと変わらない。
 違うのは言葉が喋れることと体が大きくなっていることだ。
 本当に90年前の自分は何を思っていた?
 今、それだけは確実に知りたい。
 扉をノックする音が聞こえた。
 どうぞと促したら、受付をやっていたホテルマンはワゴンから良い匂いを運ぶ。
「さっきほどは失礼いたしました。 お詫びにこちらをお持ちしましたので、どうぞ」
 皿の上にある蓋を取り、ゼリー状に固められたものがひとつ。
 良い匂いの正体はこれだ。
 縦横5㎝ほどの正方形に高さ2㎝のものだ。
「これは一体、何なんです?」
「あの・・・ 冗談でおっしゃっているのですか」 困惑のいろを浮かべた。
「分からないですよ」




 僕は続ける。
「僕は数時間前に目覚めたばかりでこの時代のことを把握するのに困っているんだ。 君たちにとって普通のものが僕にとってね、奇妙に映っているんです」
「なるほど、数時間前に目覚めたばかりでしたか」と言って説明を始めた。
 数十年前に食事を一気に取ることができないかとせっかちな人のために開発された食事である。
 その食事を食品開発の会社が作りだし、出したところ好評だったのだ。
 目の前にある食事は野菜と魚、オニオンスープ、パンが凝縮されたものということだ。
「理解してもらえたでしょうか?」
「世の中は便利になったものですね。 魔法みたいだ」
「それは面白い表現です」 ホテルマンはくすっと笑う。
「時間があればいろいろと訊きたいのですが・・・」
「よろしいですよ」 あっさりと承諾した。




 ホテルマンは数分待たして、制服から私服に変わった。
 僕は待っていた間、食事を食べた。
 正直、言って口に合わない。
 口の中でたくさんの味を味わって、できるのなら別々に食べたかったのだ。
 2100年の人たちはこの食事に慣れているせいだろうか。
 僕もそのうちに味に違和感を感じなくなるとそう信じよう。
「では、訊きたいことをどうぞ」
「長谷川博士の子孫はどこに住んでいるです」
「ホテルを北に3㎞進んだ先に立派な邸宅があるのですぐに分かると思います」
「あの病院らしきのことを教えてほしい」
「あそこですね。 長谷川博士の考えを受け継いだ場所であり、ロボットが複数います。 人間は4人だけ。 医者と整備士ですね、医者は今でも腕は確かなのか不安です」
 僕がみたのはロボットだけだったのか。
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