目覚めた男

ナマケモノ

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目覚めた男

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 僕は日を過ぎていくのを待つしかない。
 いつ戻るなんかなんて分からないのに日々を過ごすのか。
 なんという残酷な報告だ。
 今まで戻るんじゃないかと希望をいだいていたが、方法はないようだ。
「教えてくれてありがとう」と僕はボソッと言った。
「いいえ・・・」 彼女は言ったことを後悔しているようだった。
 もうどうでもいい。
 なげやりの気持ちになっている。
 気を紛らわすため会話をする。
「それで・・・ 未来はどうだい?」
「私は正直いって、やって良かったと思います。 この時代は私を受け入れてくれます」
「どういうこと」 疑問をぶつけた。
「瞳が赤いことはみて分かりますよね。 カプセルに入った理由のひとつとして、このこともひとつです。 両親は外国人ではないですし、祖父母ともそうではありません」




 僕は黙って聞いていた。
 話をふったからにはマナーとして失礼だと思い、憂鬱ゆううつの気持ちを押し殺していた。
 彼女の瞳が赤い理由として、アルビノである。
 日本人として珍しい瞳の色であるため、周りからは気味悪がられて友達ができなかったという。
 そんな周りの目にたえられない日々を送っていた。
 友達としての関係ができたとしても、瞳のせいで友達は離れていたそうだ。
 たえられない毎日を送りながらも、両親に心配をかけたくない一心で気丈にふるまっていた。
 あるときのことだ。
 テレビをつけてみるとニュースでカプセルの中で、治療を行われるのをみたという。
 興味をもち、詳しく調べてみれば未来で目覚める可能性を秘めていることを知った。
 今の状況は悪い。




 未来なら周りの目は変わるのではないか、そんな想いを胸にしながらカプセルに入ったらしい。
「なるほど、理解できたよ。 良かったじゃないか」
「ええ、良かったです。 私は長谷川博士とあなたに感謝しているんですよ。 ふたりが私の人生を変えました」
「大げさじゃないかな。 僕は治療のために入っただけだと思うよ」
「いいえ、そんなことはありません。 記憶がないことに悩んでいると思いますが、気にしなくていいと思います。 あなたはまだ死んでいないんですから」 ニッコリと笑う。
 生きているか ── 何か暗い気持ちを変える言葉だった。
「どうやら僕は過去に縛られていたみたいだ。 この時代のことを聞かしてくれ」
 僕は決断したことがある。
 もう過去のことにこだわることをやめる。
 記憶がなくても生きていけるのだ。
 過去に自分が何をしていたなんか過ぎたことだ。
 この時代を楽しもう。
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