女性探偵の事件ファイル

ナマケモノ

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森の事件

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   【1】

 ある一軒の探偵事務所がある。
 女性探偵である二階堂あきえと助手の鈴木りょうの二人でやっているのだ。
 探偵事務所を立ち上げるきっかけとなったのは二階堂が推理・ミステリー小説が好きで自分もやってみたいということから始まった。


 彼女はその時大学生であり、立ち上げる資金は持っているものの共に働いてくれる人がいない。
 周りを観察して、共にやってくれる人を探す。
 一人の男性が目に止まった。
 後に助手になる鈴木了だ。 
 彼女は声をかけた。
「ねぇ、一緒に探偵事務所で働かない? 私が探偵であなたが助手」
「ちょっと待ってください。 君は探偵学校へ行ったり、何か特別な能力を持っているというのかい?」 鈴木は戸惑いのいろを浮かべた。
 



「いいえ、どちらもないわ。 世の中に小説のような事件があるならそれを解きたいだけ」
 鈴木は手を振って、そんなんじゃやらないと言って断る。
 もちろん、二階堂はそんなことを見越していた。
 一回で上手くいくと思っていない。 上手くいかないなら何回誘うだけだ。
 二階堂は何回も何回も説得した。
 ついに十回目で鈴木の心は折れて「分かった、やるよ」としぶしぶやることになった。
 二人は大学をちゃんと卒業して、探偵事務所にいる。
 

 二人は卒業してからもちゃんと探偵として事件を解決しているし、訪ねてくる依頼人の問題を解決している。
 二階堂はソファで横になり、小説を読んでいる。 
 助手は掃除や食器洗い、ファイルの整理をしていた。
 ドアの上の鈴がからんと音が鳴った。




 助手は手を止め、いらっしゃいと愛想よく招き入れた。
 入ってきた男性は歩き、依頼があるといって二人を交互に見て、助手のほうに向かって「あんたが探偵か?」とたずねた。
 鈴木は胸の前で手を左右に振り、違いますと答えた。
 二階堂は男性が入ったとき、本を閉じてまるで写真を一枚一枚取るように注意深く観察した。
「ちょっとお待ちください」 男性を椅子に座らせ待たせた。
 二階堂はソファから起き上がり、窓の側に立って覗く。
 駐車場にある警察車両のタイヤに黄色い土がついていた。
 土は男性が歩いたときに見えた靴の先のものと同じ。
 「あなたのことを大まかに話してもいいですか?」
 男性は戸惑いながらも、いいですよと言った。
「では、あなたはY森に行ってきましたね。 ZとYのふたつの森がありますが、車で奥まで行けるのはY森だけ。 Zであれば、入る前に車を置いてなかければいけません。 断定したのは黄色い土です。 証拠にあなたの靴と車が物語っている」




 だけど、黄色い土は森だけではないはずだと男性は反論した。
「それがふたつの森だけなんです。 あなたはよくこの街を見たほうがいい。 続けますね? 警察車両で来たことから警察であり、あなたは見た目にこだわる人物ではない。 まぁ、警察ですから事件を追うため気にするわけにはいかない」
 男性は手で制止し話を中断して、なぜ見た目にこだわる人物ではないと言ったのだと訊く。
「簡単です。 靴に土をつけていること、見た目にこだわるなら靴を綺麗にしているでしょう。 うーん、このことも言える。 神経質な性格ではない。 で、汗をかいていないことから急ぎの用ではない、今はですが。 以上です」 言い終えると手に持っているティーカップに入っているコーヒーを飲む。
「何者だ、あんた?」 男性は目を大きく開く。
 二階堂は無視して、助手である鈴木に話を聞くように目で促す。
彼女はまたソファに向かう。
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