女性探偵の事件ファイル

ナマケモノ

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ライバル探偵の死

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「奥さん、行くとしましょう」
 妻は二階堂に言われて、戸惑いながらも小さくうなずいてついていく。
 ふたりと谷川光は車に乗る。
 鈴木は車のエンジンをかける。
「鈴木君、服屋に行く前に寄りたいところにあるので、よってもらえる」
 谷川光は口をはさむことなく、沈黙していた。
 鈴木は探偵の指示どおりに運転していく。
 やがて、ある建物に着く。
 五階建てのの灰色一色のマンションだ。
 二階には谷岡刑事がぼんやりとふたりを眺めていた。
 谷岡刑事は降りてきて、近寄る。
「前回の借りがあるからやるんだからな。 普通はやらねぇぜ」
「分かっています。 谷川孝を捕まえる前に時間をください」
「とっと行くんだ。 あまり待ってないぜ」
 谷川光は口をひらく。

 


「二階堂さん、どういうことです? 服を買うんじゃなかったんですか」
「あなたは気づいていたんじゃないですか? 夫が犯罪を犯したことを・・・」
「何を言っているんです? 夫は平凡でどこにでもいる人間です」
「ここに来て、かばうのですね。 もういいんですよ。 あなたは私たちに解決してほしかったはず。 なら、わざわざ頼むことをしません」
 鈴木は頭が混乱した。
 夫が犯罪を犯したことを妻は知っている。
 知っているなら、妻は警察に行けばよいのではないか。
 わざわざ探偵に頼むことをしなくてもいいはずだ。
「二階堂さん、夫はどうなるのですか?」
「罪を犯しましたから刑務所に行くことは免れません」
 谷川光は頭をかかえる。
「夫は刑務所にいくのですね・・・・・・ 二階堂さんの言うとおりで気づいていました」




 谷川光は見た光景を話した。


 夫は愛犬のペロがいなくなったと言い出して、捜すように妻に頼んだのだ。
 妻は懸命に捜したものの見つからなかった。
 ある話を思い出す。
 近所の人が探偵に探してもらっていて、何回か頼んで全て解決してもらっていること。
 谷川光の頭にはその探偵に依頼しようと決めたのだ。
 夫にそのことを喋ったら、承諾した。
 男性探偵である篠原孝に依頼をした。
 篠原は首を縦にふり、一週間後に来たのだ。
 男性探偵はペロを無事に届け、夫に話があると言いふたりになる。
 谷川光は何を話しているか気にせず、ペロとたわむれていた。
 夫は普段は温厚ではあるが、怒号をとばす声が聞こえてくる。




 この時の谷川光はビクッとして、夫の顔をあわせることはできなかった。
 篠原孝は平気な顔をして、夫と出てくる。
 谷川光は目を疑う。
 さっき怒号が聞こえたはずだ。
 なのに何もなかったように男性探偵は平静としており、谷川由伸は頬が紅潮している。
 篠原孝は頭を下げ、出ていく。
 妻にはこれが最後になるとは思わなかった。
「前に話したとおりに篠原孝の事務所に訪れたのです。 その後に続きがあります。 二回訪れたとき、家に帰り本棚の下に血が二滴ほど落ちていました。手でさわり、臭いを嗅ぎましたね。 これは初めて知ったのですが、本棚の裏に篠原孝の死体があったのです。私はあまりの恐ろしさに夫にもし訊いたらどうなるのだろう。 それだけで複雑な気持ちでした 」
 谷川光は水を要求する。
 鈴木は水を手渡すと、妻は一気に飲みほす。
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