裸のプリンスⅡ【R18】

坂本 光陽

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最もセクシーな仕事⑥

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 クラブの名前は、『ナイトジャック』という。もちろん、ココナさんの命名だ。「あなたの夜を支配」ではなく、「夜の男」という意味である。

 事務所は東京メトロ千代田線・根津駅近くのマンションの一室。上野は台東区で、根津は隣の文京区になるが、どちらも区境に位置しており隣接しているので、歩いて行ける距離だ。事実、ココナさんは徒歩で、自宅マンションと事務所マンションを往復している。

 僕の住んでいる湯島からも、歩いて行ける距離だ。僕は今年初めに『キャッスル』を辞め、六本木のマンションから、千代田線・湯島駅近くのマンションに移ってきた。

 以前住んでいた足立区と同じように、住み心地のよい下町だ。物価は心なし高目である気がするけど、新宿や六本木ほどではない。時間の流れ方だって、ゆったりしている。もっとも、僕は最低限の生活用品と寝場所さえあれば、どこでも暮らしていけるのだが。

 週末の夜だけど、道路は意外とすいていた。外堀通りから左折して本郷通りに入る。東京大学の前を過ぎて右折すると、言問こととい通りだ。ココナさんと落ち合う喫茶店は、言問通りから一本入った裏路地にある。

 根津駅近くの交差点でタクシーを降り、夜風に吹かれながら歩き出す。深夜なので、人影は見当たらない。
「CLOSE」の札が下がったドアを押し開いて店内に入る。ココナさんはテーブル席で、ノートパソコンを叩いていた。

「おまたせしました」
「うん、お疲れ。少し待っててね。お腹がすいているなら、マスターに何か作らせるわよ」

 カウンターの中で、ロイド眼鏡をかけた痩身のマスターが笑顔を浮かべている。

「シュウくん、サンドイッチとナポリタンぐらいだけど、どっちがいい?」
「いつもすいません。じゃあ、サンドイッチを」

 僕はジャケットを脱いで、ココナさんの向かいに腰を下ろす。作業が落ち着くまで、マスターに作ってもらったサンドイッチと熱いコーヒーをゆっくり味わう。

 今年初めの慌しさが嘘のように、今は落ち着いた日常を送っている。『キャッスル』の頃より自分の意志を反映させて、スケジュールを組んでいるせいだ。お客さんのニーズに合わせすぎると、どうしても身体を酷使してしまう。

 女性の風俗嬢が一日6人から8人のお相手をつとめることができるのは、女性が基本的に受け身であるから。男性が一日にこなせる回数は、体力的精神的におのずと制限されてくる。

 僕の場合、誠意をもって対応できるのは、一日3人が限界だ。アルバイト感覚、期間限定でこなすのならともかく、長く続けるのなら、計画性をもって働くことが必要である。

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