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濡れるレッスン⑤
しおりを挟むさりげなく笑顔で言ったけど、彼女は絶句していた。後で、ザクロが痙攣を起こす可能性があったな、と思い至ったけれど、幸い、そんなトラブルには見舞われなかった。
「シュウくん、ごめんなさい。あの、私……」
衣湖さんの言葉が終わらないうちに、押入れの襖を開けて、若い男が姿を現した。
「すいません、彼女は悪くありません。すべて僕が悪いんです」
畳の上に正座したのは、スリムで色白のアラサー男性だった。縁なし眼鏡も相まって、真面目そうな印象を受ける。彼は一体、誰なのか?
とりあえず、僕と衣湖さんは行為を中断して、下着を身につけることにした。
「すいません、ちょっと失礼」
そう言って、彼はトイレに駆け込んだ。衣湖さんによると、このアパートは彼の部屋だという。思いがけない展開だけど、僕は意外と落ち着いていた。
押入れの中を確認したけれど、デジカムやスマホといった撮影ツールはなかった。直感的に、目的が覗きではなさそうだ。彼がトイレにいる間に、衣湖さんに訊ねた。
「衣湖さんの彼氏ですか?」
「ううん、ただの知り合いなの。皆やってるじゃない、ほら、ネットでさ」
どうやら、〈出会い系〉で知り合ったばかりらしい。彼が僕たちのいる寝室に帰ってきた。
「自己紹介がまだでしたね。僕のことはオサムと呼んで下さい」
年下の僕にも敬語を使う点に、彼の性格が現れていた。
「とりあえず、教えてください。お二人の目的は何ですか?」
「うーん、互いのセックスの価値観というか、とらえ方というか……」
長々と回りくどい説明を聞かされたので、それを要約しよう。
要は、衣湖さんとオサムさんのセックスはうまくいかなかったのだ。互いに、自分は普通で、相手が悪いと主張している。どちらが悪いのか確かめよう、ということになった。風俗業、つまり僕の手を借りて、相手のプレイをチェックする。それが、二人の考えである。
つまり、オサムさんが衣湖さんのセックスを確認し、次に、衣湖さんがオサムさんのそれを確認する。
「シュウくんとならメチャクチャよかったし、キチンといけたよ」衣湖さんが得意げに言った。「だから、私は悪くない。悪いのは、オサムくんの方だよ。ね」
同意を求められたが、僕として何とも言えない。二人は一度しか肉体を交わしていない。それでは、うまくいく方が珍しいだろう。
セックスは共同作業なのだから、二人の相性が良かったか、良くなかったか、ただ、それだけだ。うまくいかなかったのなら、再チャレンジするか、相手を変えればいい。
まぁ、年上の二人に忠告するのは心苦しいし、僕自身、説教くさいのは好きではない。
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