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愛の代理人⑯

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 彼は首を横に振った。

「冷静な顔? それは違う。僕は今、後悔している。こんな想いを味わうとは思わなかった」知的でクールだった表情がぐにゃりと歪んだ。「僕は君の若さが、心底うらやましい」

「うらやましい?」僕は小首を傾げた。「宮国さん、その言葉は適切ですか?」

「そうだな。正直に言おう。妬ましくてならない。それどころか、シュウくんを憎んでいる」

 僕は彼の本音に満足する。でも、腰の動きは止めない。

「そうですか。でも、美紗緒さんは今、僕のものです。宮国さんは黙って見ていてください」そう言って、馴染んできたザクロに深々とバナナを突き入れる。

「ああ、あなた」美紗緒さんはすすり泣きながら、御主人の顔を見上げる。「ごめんなさい、ごめんなさい」

「美紗緒さん、謝ることはありませんよ。僕があなたを抱くことを、宮国さんは望んだのですから」

 冷ややかに告げると、僕は彼女の中に力強い律動を送り込む。人妻を快楽の波で飲み込んでしまう。

「シュウくん、頼むから、もうやめてくれ」宮国さんは沈痛な声音で訴える。

「ダメですよ。宮国さんは鑑賞者に徹すること。三つ目の条件です。あなたに僕を制止する権利はありません」

 僕は淡々と応える。

「美紗緒さんの身体は、本当に素晴らしいです。指一本ふれないなんて、僕には信じられませんよ」

 僕はバナナの角度を調整して、Gスポットを責め始める。美紗緒さんの悲鳴が一際高くなった。

「失礼を承知でお尋ねします。美紗緒さんを満足させられないからですか?」

 宮国さんの表情は屈辱に染まる。

「つまり、男らしく愛することができず、男のプライドが損なわれるから」
「……シュウくん」

「それは明らかに、間違っていますよ。下半身の力強さが失われても、手と指がある。唇と舌もある。〈ハメ撮り〉映像を御覧になったのなら、おわかりでしょう? 僕と同じことを美紗緒さんにしてあげればいい。ただ、それだけのことなのに」

 宮国さんは唇を噛み締めて、何も言わない。

「それとも、コールボーイの真似をするのは、プライドが許しませんでしたか?  まぁ、そのお気持ち、わからないではありません」
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