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ボーイズ・エクスタシー③

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 繰り返しになるが、僕とカズは『キャッスル』に所属するコールボーイだった。

『キャッスル』の不文律を破って、僕がオーナーのレイカさんを抱いたことが、そもそもの発端だ。親密な関係にあったわけではない。僕が一方的に憧れて、駄々っ子のようにせがんで抱かせていただいたのだ。

 それを知ったカズは激怒した。信頼していた僕に裏切られたと感じたのだろう。カズは大晦日の夜、僕の食事に睡眠薬を盛るという暴挙に出る。目覚めた時、僕は椅子に縛りつけられていた。

 あんなカズを見たのは初めてだ。僕はカズのバナナを咥えさせられ、白濁した体液で顔面を汚される、という仕打ちを受けた。先程、カズが謝罪したのは、そういった一切合切に対してだろう。

 カズは手ひどく、僕を罰した。でも、その後の出来事は僕の責任である。

 カズの連絡を受けて、レイカさんが駆けつけた。彼女の手で拘束から解放された時、僕は明らかに常軌を逸していた。

 カズから受けた辱めを最も見られたくない彼女に目撃されたこと。さらに、二人の関係がばれた以上、『キャッスル』に居場所はないと宣告されたこと。

 そうした屈辱と混乱が一緒くたになり、僕のリビドーは暴走してしまった。日頃からレイプをする男の気持ちがわからない、と言っていたくせに、力づくでレイカさんを抱いたのだ。

 そのことは、カズとは関わりがない。間違いなく僕自身の責任である。

「……シュウさん?」カズが上目遣いで、僕の顔をうかがった。

「ああ、聞いているよ。話を続けてくれて大丈夫だ」

 右から左に聞き流していたのに、堂々とのたまった。一年前なら、良心の呵責を感じていたかもしれない。

「やっぱり、人間って付き合う連中によって、人生が決まってしまいますね」

 溜め息まじりにカズは呟いた。虚無感や無力さを補うために、集団にすがりつくのは弱さの証だが、自分の意志さえもっていれば問題はない。

 だが、しっかりした意志や克己心がないと、簡単に集団の意向に押し流されてしまう。それはエリート官僚でもヤクザでも同じだ。

「六本木のクラブの遊び仲間だったんす。酔った上でのノリだったんすよ。仲間内のノリで、〈義賊ごっこ〉に繰り出して」
「〈義賊ごっこ〉?」

 カズによると、振り込め詐欺グループの事務所を深夜に襲撃したという。有り金すべて奪っても、先方は後ろ暗いカネだから警察に届けることはない。

 ゲーム感覚で、カズたちは現金を強奪した。コールボーイはイリーガルだが、誰かの恨みを買う犯罪ではない。

 だが、事務所からカネを盗めば恨みを買うし、相手が犯罪者でも立派な窃盗犯である。カズだってバカではない。酔いが冷めると、即座に「やばい」と肝を冷やしたという。
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