異世界のマーケター

坂本 光陽

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異世界でも、それが現実

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 人が生きていくには、食べ物が必要である。衣類や家も欠かせない。それらを得るために必要なものは何か?

 考えるまでもない。おカネである。

 大人は基本的に、おカネをもらうために働いている。会社勤めは言い換えれば、給料を得るために労働力を提供している、ということだ。

 それは異世界でも変わらない。中世ヨーロッパ風の小さな城下町であっても、日々生きていくためには、おカネが必要である。

 それが現実であり、サチコの悩みの種でもあった。

 サチコは現世で就職活動に苦労した口である。自己PRが苦手だったし、そもそも何が何でも入社したいという意欲に欠けていた。例えば、他の入社希望者たちの自己PRを聞いていて、彼・彼女の方が新入社員にふさわしい、と考えてしまうほどである。

 奥ゆかしい性格というより消極的だと言う方が正確だろう。その点は、サチコも自覚している。子供の頃から引っ込み思案で、とにかく影が薄かったのだ。

 不安を感じてしまうと一歩踏み出す勇気がないので、結局、望んだ結果を得られない。成功体験を振り返ろうとしても、かろうじて小学生の時に絵画コンクールで入賞したことぐらいだ。

 なぜ現世で亡くなったのか、そのあたりの記憶は抜け落ちているが、せっかく異世界転生を果たしたのだ。この情けない性格をどうにかしたい。

 せめて、もう少し積極的になろう。それがサチコの切なる願いだった。


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