銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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【龍馬カクテル】⑩

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 お友達の芝居の話をした後、話題は自然と【龍馬カクテル】に移っていった。

「できれば、撮影に入る前に味わってみたいのよね。せかすわけじゃないけれど、早目にお願いできないかなぁ」

 エアコンが効いているのに、背中を嫌な汗が流れた。桐野さんはリオナさんに何も言っていないらしい。
「そうですね。わかりました。明日、桐野と話し合ってみます」そう言うのが、精一杯だった。

「でも、無理しなくてもいいのよ。桐野くんはアーティスティックで凝り性でしょ。納得できるカクテルが完成するまで、時間をかけてもらって構わない。お店のオープン前で大変な時期でしょうしね」

 そう言ってもらえると助かります。とりあえず、今日は話を合わせておいて、もし桐野さんが辞めた時には丁重にお詫びしよう。

「ねぇ、ミノリちゃんのお父さんって、どんな人?」

「えっ、普通の会社員ですよ。一応部長という肩書きで、家でもえらそうにしていますけど、普段はどこにでもいる、だらしない中年男性です」

「何か、眼に浮かぶね。軽いケンカ交じりの騒がしい家族の団欒だんらん

 そういえば、リオナさんも父親と折り合いが悪かった、と桐野さんが言っていたっけ。

「私と父の関係は水と油。もう最悪だったな。私ね、小さい事から女優に憧れていたのよ。学芸会ではずっと主役だったし、卒業アルバムには〈必ず女優になる〉って書いた」

「へぇ、初志貫徹なんですね」

「うん、皆、絶対なれるもんか、って笑っていたけどね。高校では演劇部に入っていたし、先輩のつてで商業演劇の舞台に立つこともあった。大学に入っても、勉強そっちのけで芝居三昧ざんまい。“それで将来、食べていけるわけないだろ”そう言って、父は鼻で笑っていた。というか、あれは完全にバカにしていたね」

 リオナさんはジンジャーエールで喉を潤してから、話を続けた。

「確かに間違ってはいない。正しい見方だし、それが現実。芝居で食べている役者なんて、ほんの一握りだもの。皆、極貧生活にめげず、バイトしながら練習を積んで、年数回の舞台に賭けていた」

「リオナさんもですか?」
「もっちろん」

 意外だった。〈伊吹リオナ〉は順風満帆じゅんぷうまんぱんで、芸能界に舞い降りた、と思っていた
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