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【龍馬カクテル】Ⅱ⑨
しおりを挟む致命的な失敗だった。これは私の責任である。
「すいません。リオナさん」
私が頭を下げるのと同時に、リオナさんは言った。
「こんなひどいダジャレ、父さんしか思いつかないよ。ふふ、父さんらしい」
顔を上げると、リオナさんが左手でタンブラーを持ち、顔の前に掲げていた。
「えっ、今、何ておっしゃったんですか?」
「父さんらしいって言ったの。まさに父さんだよ、このカクテル」
そう言って、タンブラーに口をつけた。
「ふうん、梅酒のせいか、コーヒーの苦味はそれほどじゃないね。はっきり言って、私の好みじゃないけれど、さわやかで優しい味」
「はい、梅酒の甘味を活かしました」と、桐野さんは言う。「ちなみに、このコーヒーは伊吹さんのコーヒーにできるだけ近づけたものです」
「そうなの?」
「伊吹さんが当時使っていたコーヒー豆とコーヒーメーカーで作りました。ほぼ、再現できたと思います」
ああ、それで、古い型のコーヒーメーカーでなければならなかったのか。私は心の中で、ポンと手を打った。
ベースにした梅酒は実家から取り寄せたものだし、伊吹巌さんの考える【龍馬カクテル】のレシピは、この組み合わせ以外にありえなかったのだ。
「子供の頃から苦いコーヒーは嫌いだったし、一度も父さんのコーヒーを飲まなかったけど、これは大丈夫みたい」
一時は冷や冷やしたけれど、リオナさんは笑顔を浮かべている。私は胸をなでおろす。
昨晩、梅酒とコーヒーという組み合わせについて、桐野さんから軽くレクチャーを受けた。このレシピには、元ネタがあるという。
浅草の喫茶店「アンヂェラス」の人気メニュー〈梅ダッチ・コーヒー〉。ダッチ・コーヒーとは、お湯ではなく水で抽出するコーヒーのこと。つまり、水出しコーヒーに梅酒を加える、というレシピなのだ。
元々は、店の裏メニューだったらしいが、食通で有名な作家,池波正太郎が気に入って、表メニューに入れさせたとか。そんなエピソードもあるらしい。
一般的に梅酒と紅茶の相性の良さは知られているけれど、梅酒とコーヒーも意外と良いカップリングなのだ。私は昨晩、それを初めて知った。
「笑って聞き流してもらえればいいのですが」そう前置きをして、桐野さんが話し始めた。「伊吹さんが【龍馬カクテル】で表現したかったことを、いろいろ想像してみました。さっぱりとした甘みとほのかな苦味、これは人生そのものじゃないか、と。もっと具体的に言うのなら、黒船を見た時の龍馬の驚きと感動。さらに付け加えるなら、大きな変化を怖れない勇気、すべて飲み込んでしまおうという気合、という感じです」
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