61 / 100
【3秒カクテル】Ⅱ⑧
しおりを挟む
今のシミュレーションで、高速スクリュー・ドライバーの作り方はわかった。ただ、気がかりなことが一つ。ステアを省くというけれど、そんな乱暴な方法で、人の心をつかむカクテルが作れるのだろうか?
小笠原さんが腕組みをして、何度も頷いた。
「計3秒で完成というわけか。文字通り、【3秒カクテル】なんだな。よっしゃ、タイムを計測してやるぜ」
そう言って、左手首に手をやった。使い込まれた分厚い腕時計には、ストップウォッチ機能があるらしい。
「お任せします。いつでもどうぞ」
「カウントダウンは5秒前からだ」
店内を沈黙が支配した。桐野さんは息を整えて、静かに身構える。
「じゃあ、行くぜ」
小笠原さんのカウントダウン。
「5秒前、4、3、2、1、スタートっ!」
桐野さんの右手が閃き、ウオッカのボトルを傾けながら、その口とタンブラーを最短距離で結びつける。
「ウオッカ」
桐野さんの呟きとともに、タンブラーの中に、グラス1/4のウオッカが注がれた。右手のボトルがタンブラーから離れる前に、左手が風を切ってオレンジジュースのボトルをつかむ。
「ジュース」
ウオッカの上に勢いよく、オレンジジュースが注がれた。再度右手が閃き、親指と中指がタンブラーをつまみ上げ、カウンターの上を滑る。
すべては一瞬で終わった。小笠原さんの前に、タンブラーが置かれている。カクテルの表面はゆるやかに波打っていたが、グラスのエッジからは一滴もこぼれおちてはいない。まるで、手品か魔法のようだった。
小笠原さんは大きく眼を見開いて、カクテルを見つめている。
「いかがでしたか?」
桐野さんが訊ねると、小笠原さんは我にかえった。すかさず、腕時計のタイムを読み上げる。
「2秒85っ! マジかよっ!」
「これが、【3秒カクテル】……」と、私。
「小笠原様、飲むのは少しだけ待って下さい。グラスの中味がじっくりと馴染む時間が必要なのです」
タンブラーの中では、透き通った酒と黄色いジュースが、不思議な動きを見せ始めていた。最初は黄色の液体が、透明の液体を侵食していく。やがて、透明の方が盛り返してきて、黄色を薄め始める。二つの液体が自然に混ざり合っていくのだ。
「ウオッカの上からオレンジジュースを注げば、時間とともに混ざり合い、グラスの中が均一の豊かな味わいになります」
「ええっ、どうしてですか?」
「オレンジジュースの比重の方が、ウオッカの比重より重いからですよ。バーテンダーが何も手を加えなくても、ごく自然に馴染んでいくのです」
だからステアは不要だったのか、と私は納得した。
小笠原さんが腕組みをして、何度も頷いた。
「計3秒で完成というわけか。文字通り、【3秒カクテル】なんだな。よっしゃ、タイムを計測してやるぜ」
そう言って、左手首に手をやった。使い込まれた分厚い腕時計には、ストップウォッチ機能があるらしい。
「お任せします。いつでもどうぞ」
「カウントダウンは5秒前からだ」
店内を沈黙が支配した。桐野さんは息を整えて、静かに身構える。
「じゃあ、行くぜ」
小笠原さんのカウントダウン。
「5秒前、4、3、2、1、スタートっ!」
桐野さんの右手が閃き、ウオッカのボトルを傾けながら、その口とタンブラーを最短距離で結びつける。
「ウオッカ」
桐野さんの呟きとともに、タンブラーの中に、グラス1/4のウオッカが注がれた。右手のボトルがタンブラーから離れる前に、左手が風を切ってオレンジジュースのボトルをつかむ。
「ジュース」
ウオッカの上に勢いよく、オレンジジュースが注がれた。再度右手が閃き、親指と中指がタンブラーをつまみ上げ、カウンターの上を滑る。
すべては一瞬で終わった。小笠原さんの前に、タンブラーが置かれている。カクテルの表面はゆるやかに波打っていたが、グラスのエッジからは一滴もこぼれおちてはいない。まるで、手品か魔法のようだった。
小笠原さんは大きく眼を見開いて、カクテルを見つめている。
「いかがでしたか?」
桐野さんが訊ねると、小笠原さんは我にかえった。すかさず、腕時計のタイムを読み上げる。
「2秒85っ! マジかよっ!」
「これが、【3秒カクテル】……」と、私。
「小笠原様、飲むのは少しだけ待って下さい。グラスの中味がじっくりと馴染む時間が必要なのです」
タンブラーの中では、透き通った酒と黄色いジュースが、不思議な動きを見せ始めていた。最初は黄色の液体が、透明の液体を侵食していく。やがて、透明の方が盛り返してきて、黄色を薄め始める。二つの液体が自然に混ざり合っていくのだ。
「ウオッカの上からオレンジジュースを注げば、時間とともに混ざり合い、グラスの中が均一の豊かな味わいになります」
「ええっ、どうしてですか?」
「オレンジジュースの比重の方が、ウオッカの比重より重いからですよ。バーテンダーが何も手を加えなくても、ごく自然に馴染んでいくのです」
だからステアは不要だったのか、と私は納得した。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる