銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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GカクテルⅡ③

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 私は母を亡くしているので、中学生の頃から主婦の役割もこなしてきた。炊事、洗濯、掃除は好きではないけど、必要にかられて続けている。

 そのせいか、友人からは「ミノリンって、お母さんっぽい」と言われる。誰が見ても童顔なのに妙な話だ。複雑な心境でもある。とりあえず、ああ、母性を感じさせるってことね、と前向きにとらえることにしている。

 ただ、片親であるせいか、家族の大切さは身に染みている。昔の映画スターが肉親の葬儀より撮影現場を選んだ、家族より仕事を優先させた、という話を聞くことがある。その気持ちはわからない。というより、理解したくない。

 家族より大切なものはない、と思う。

 さて、どうやって桐野さんを説得するか。よいアイデアを思いつく前に、【銀時計】に着いてしまった。

 いや、策を弄することはない。こういうことは正攻法あるのみだ。

 ここは職場を共にする者として、びしっと言わなくては。確かに、惚れた弱みはあるけれど、間違っていることは見過ごせない。

 正直いって、少し怒ってもいる。

 この感情は、桐野さんを好きでいたいから、なのかもしれない。たぶん、私は、病身の父親を蔑ろにする、そんな桐野さんではいてほしくないのだ。

 両手で両頬をパンパン叩き、気合を入れてから、ドアを開けた。

「おはようございますっ」いつも通り、元気に挨拶。
「おはようございます、ミノリさん」桐野さんはカウンターの中で、グラスを磨いていた。

 私は彼の眼をジッと見つめ、心持ち厳しい声音で告げた。
「桐野さん、お話があります。ひと段落したら、お時間をいただけますか」

 桐野さんは不思議そうな顔をしていたが、
「はい、わかりました」と、頷いた。

 私はバックスペースにバッグを置き、洗面所で軽くメイクを整えると、すぐフロアに戻った。

 何かしら、不穏な気配を感じたのだろう。桐野さんは神妙な顔つきをして、窓際のボックス席で待っていた。

 私は二つのタンブラーに水を注ぎ、テーブルにもっていった。

「先程、高宮さんとお会いして、桐野さんのお父さんのことをうかがいました」前置きなしで、単刀直入に切り出した。

「そうですか、聞いたんですね」桐野さんは小さく溜め息をついた。

「もし、お店のことが気がかりで、お見舞いに行けないのなら、今日はお休みにしても構いません。お客様には申し訳ありませんが、それぐらいの融通は利かせてみせます」

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