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GカクテルⅢ⑦
しおりを挟む「ん、どうしてだ? 作る過程も含めて味わうのが、カクテルだろ?」
父さんはクルリと元の向きに戻す。
「いいから、言うとおりにしてよ。【Gカクテル】を堪能するために必要なの。ほら、私も一緒に後ろを向くから」
「すいません。よろしくお願いします」
桐野さんが頭を下げたので、父さんはやっと、カウンターに背を向けてくれた。
「何だか、〈鶴の恩返し〉みたいだな」
桐野さんは作業を開始した。カチャカチャと軽やかな音が聞こえてくる。
どうやら、冷蔵庫を開けて、氷を取り出したらしい。今度は、ボトルのキャップを開けた? かすかな物音が耳孔をくすぐる。見えない分、想像力が刺激される。
父さんが横目で盗み見ようとしたので、太股をパチンと叩く。
「〈鶴の恩返し〉でしょ」
時間にして、ほんの2,3分ほどだけど、私は待ち遠しくて仕方なかった。
「お待たせしました。どうぞ、御覧ください」
カウンターに、二つのグラスが並んでいた。一つはタンブラーで、黒っぽい褐色のカクテル。もう一つはカクテルグラスで、雪のようなホワイト。
「あれ、二種類のカクテルを作ったんですね」
「ええ、少しだけお待ちください。こちらのカクテルの仕上げにとりかかります」
そう言って、手で示したのは、カクテルグラスの方だ。
桐野さんはカウンターの下から、銀色の容器を取り出した。魔法瓶に似ているけど、それより一回り大きくて、太めでもある。中に入っているものは何だろう。
私たちの目の前で、桐野さんは銀色容器を傾けると、カクテルグラスに中味を注ぎ始めた。
突然、白い煙がカウンターの上にわきあがった。予想外の出来事に、私は息を飲む。煙というより霧の塊が流れてきたみたいだ。まるで生き物のように、カウンターを這いまわっていたけれど、白い煙はすぐに消え失せた。
「今の煙は、ひょっとして、ドライアイスですか?」
私が訊くと、桐野さんは首を横に振った。
「液体窒素ですよ。5,6年前から、カクテル作りの現場で使われています。演出効果、パフォーマンスの意味合いが大きいみたいですね」
「ええ、すっかり、眼を奪われました」
幻想的なイメージを抱いたのは確かである。何かに似ていると思ったのだけれど、そうか、コンサートなどの演出に使われるスモークに似ていたのだ。
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