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バイト仲間①
しおりを挟む恭介は結局、深原詩織と連絡がとれずじまいだった。いくらスマホを鳴らし続けても、詩織は出なかったのだ。何かトラブルがあったのか? 最悪な出来事が起こったのか?
恭介は頭を振って、悪いイメージを追い払う。ネガティブ思考はやめて、今、自分にできることだけを考えるようにする。
傍らでは、西尾が眠り込んでいた。ゴミ溜めの中でよく眠れるものだ。どうやら、食べたい時に食べ、眠りたい時に眠る暮らしをしているらしい。
そういえば、バイト仲間はもう一人いた。筋肉質で長身の男〈アスリート〉である。名前と競技は思い出せないが、恭介には何となく見覚えがあった。
西尾のパソコンを借りて、調べてみることにした。恭介はスポーツ番組を好んで観ているし、スポーツニュースは毎日かかさず観ている。テレビで見たアスリートは数えきれないが、その中に、バイト仲間の〈アスリート〉がいたはずである。
〈アスリート〉は長身の筋肉質だが、バスケットボールやバレーボールの選手ではないと思う。サッカーや陸上競技でもない気がする。ただ、メディア露出の多いスポーツであることは間違いない。
視点を変えて、テレビ受けのする方向から考えてみる。例えば、スポーツ選手の親子愛、夫婦愛、兄弟愛が挙げられる。あと、涙の引退決意とか、怪我からの復活劇……。
その時、恭介の脳裏に閃くものがあった。
国営放送が年末に放映しているスペシャル番組だ。タイトルは確か、『カンバック~復活に賭ける選手たち~』。恭介が毎年、必ずチェックしている番組である。
一言でいうと、復活を目指すアスリートの密着ドキュメンタリー。実力とセンスが充分にありながら、彼らは病気や怪我によって、第一線を離れたり引退を余儀なくされたりした。しかし、あきらめることができない。彼らは病気や怪我と戦いながら、わずかな可能性に一縷の望みを賭ける。再起を目指して挑戦し続ける。といった内容だった。
恭介は番組HPにアクセスして、過去の放映内容に目を通していく。データが充実しているのは有難かったが、いかんせん多すぎる。時間がかかるかと思ったが、意外と簡単に見つかった。昨年の放映内容に、〈アスリート〉の顔があったのだ。
名前は、溝呂木亮。プロフィールを読んでみると、一流の野球選手だったことがわかる。俊足巧打の外野手であり、夏の甲子園の決勝戦でサイクルヒットを記録。東京六大学で活躍し、プロ野球のドラフト指名を受けるのは必至だと思われた。
だが、大学3年生の春に目の異常が見つかる。原因不明の痛みとかすみを発症したのだ。打者にとっては致命的な故障だった。持ち味の巧打はすっかり影を潜め、入学以来最低の成績に終わる。日々の練習を繰り返しながら、故障回復の手段を求めて奔走している、という言葉で締めくくられていた。
恭介は考える。溝呂木は今、どこにいるのか? 「区外に出てはならない」というルールを守っているなら、溝呂木が赤京区の中にいることは間違いない。
とりあえず、パソコンで、キーワード検索を開始した。数年前にウェブライターの先輩から命令されて、データの下調べを手伝ったことがある。その際のノウハウが役立つはずだ。
溝呂木は短文投稿サイトに、マメに書き込んでいた。この手のサイトは個人情報の宝庫である。本人が注意していても、複数の記載を総合的にとらえれば、具体的な情報が浮かび上がってくるはずだ。
最後の短文投稿は昨日の夜である。そこまでの無事は確認できた。フォロワーの短文投稿との兼ね合いから、溝呂木のトレーニングを行う曜日と時間帯が判明した。月水金の午後4時から7時まで。まさに、今日の夕方がそれだ。
溝呂木が書いた短文には、「友人や後輩の都合がつけば、真っ暗になるまでグラウンドで通常練習。それ以外は素振りをするか、堤防をひたすら走る」とあった。「真っ暗」になるということは、グラウンドにナイター設備がないのだ。
堤防の近くのグラウンドで平日に格安で借りられる、という点を考え合わせると、赤川河川敷グラウンドの可能性が高い。夕方に行けば、かなりの確率で、溝呂木を捕まえることができるだろう。
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