クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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平均28万円

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 恭介は、痩せた殺し屋にねじ伏せられ、グラウンドに押し付けられていた。

 目の前では、溝呂木が背の高い殺し屋と対峙している。一瞬の隙をついて、溝呂木は反撃に転じた。足元のボールを素早く拾い上げ、振り向きざまに投げたのだ。

 コントロールよく長身男の腹に命中。溝呂木はすかさず、彼に向かってダッシュした。何度もバットを振り下ろす。やはり、プロ野球選手の身体能力は並みじゃない。

 だが、次の瞬間、溝呂木の身体が硬直し、後方に背中から勢いよく倒れてしまう。

 真っ白な棒が額から生えていた。クロスボウの矢である。それが頭蓋骨を貫通して脳髄を破壊したのは、明らかだった。

 そこで、恭介は目を覚ました。そこは事務室のような場所であり、ソファーベッドの上で横たわっていた。なぜか、作務衣さむえに似た服を着せられており、左肘の内側にかすかな痛みがある。

 傍らに、白衣を着た小太りの中年男性が注射器を手に佇んでいた。

「ああ、目が覚めたね。尾白くん、気分はどうだい?」
「ええ、大丈夫です。あの、ここは、どこですか……」
「説明会で来てもらったリバーサイドビルの中ですよ」

 恭介は中年男性の名前を思いだした。説明会で会ったことがある。確か、スマイルリサーチの……、

「あの、鈴木さんですよね。ひょっとして、僕の血を採ったんですか?」
 そう訊ねたのは、鈴木の手にある注射器の中が、赤黒い液体で満たされていたからだ。

「ああ、私は医師免許をもっているから安心してくれ。体温や血圧、呼吸、脈拍には異常がないが、念のために血液検査をしておこう。なに、ただの健康チェックだよ。私たちの実験に関わってくるかもしれないしね」

 実験? そういえば、鈴木は説明会でも、実験という言葉を口にしていた。

「教えてください。鈴木さんのいう実験って、どういうものですか?」
「うーん、現時点では何とも言えないな。ノーコメントにしておこう」
「これだけは教えてください。溝呂木さんは亡くなったんですか?」

 鈴木は小さく頷いて、
「彼は違法薬物を服用するというルール違反を犯したからね」
「それ、おかしくないですか? 普通に考えて、違法薬物というのは大麻や覚せい剤のことでしょ」

「そう言う人もいるのかもしれない。でも、私たちのルールと見解は違う」
「溝呂木さんが行方不明だと騒がれるかもしれませんよ」

「それはどうだろう。有名なスター選手というわけではないし、彼程度の選手なら半月もたてば忘れられてしまうよ。そもそも私たちのマスコミ対策は万全なんでね」
「……そんな」

「ほとんどのカードホルダーは、君を含めて、家族と疎遠だったり身内がいなかったりしている。行方不明になっても誰も気づかないし、騒いだりもしない。もしかしたら、いなくなって逆に喜ばれているかもな」
「鈴木さんは平気なんですか? 僕のバイト仲間が五人も亡くなったんですよ」

「殺されるのが嫌ならルールを守っていればいい。君も注意することだ」
「信じられない。五人も亡くなっているのに、何も感じないんですか?」

「感じるとは?」鈴木は笑顔で肩をすくめた。「もちろん感謝はしている。私たちの実験のために、尊い犠牲になったわけだからね。本音を言うと、溝呂木くんには、もっと頑張ってほしかった。彼は生存本能に長けていると見込んでいたからね」
「どういう意味ですか?」

「ことわっておくが、私たちの目的は、君たちを殺すことじゃない。非生産的な区民を間引いているわけでもない。亡くなった人たちは、おそらく尊い犠牲になるだろう。私たちの未来のために、貴重ないしずえになると思う」
「貴重な礎? 意味不明ですよ」

 鈴木は苦笑しながら、
「殺された五人のように、危機感と警戒心、注意力のない者は、すぐにルール違反を犯す。私たちが口座に振り込む金額は、平均で28万円。呆れたことに三日ともたないのだ。君たちは28万円で命を売ったという見方もできるわけだが、安すぎるとは思わないか?」

 恭介は絶句した。モラルと価値観がちがいすぎる。この鈴木や真壁マキナたちと関わってしまったことを心の底から後悔した。だが、それに気づくのがあまりにも遅すぎた。

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