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黒き刑事②
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恭介は迷った末に、車に乗り込んだ。警察が本格的に動いてくれれば、もしかすると状況は一気に好転するかもしれない。そのように判断したからだ。
黒塗りの車は覆面パトカーではなく、黒木の所有車らしい。よれよれスーツと肩のフケから覚悟はしていたが、車内はひどく汚れていた。助手席に座ったのも、コンビニの弁当箱や古新聞、ペットボトルなどのゴミが後部座席に散乱していたからである。
「悪いね。掃除と洗濯、風呂が大の苦手なんだ。そのせいで、女房子供にも出て行かれたよ」恭介の心を読んだみたいに、黒木が苦笑交じりに言った。
「はぁ、そうなんですか」ぐらいしか恭介には言いようがない。会話が途切れたので、世間話のつもりで疑問を口にしてみた。
「テレビドラマの刑事さんは二人一組ですけど、本当は一人で行動することもあるんですね」
「いや、基本は二人一組だよ。今日は特別なんだ」
それっきり、また会話が途切れてしまった。恭介は横目で、黒木の顔を盗み見る。黒木は表情が乏しく、顔色も悪かった。肌は荒れていて、ガラス玉のような乾いた目をしている。
ようやく、警察署が近づいてきた。しかし、車はスピードを落とさず、そのまま通過してしまう。
「あの、警察署を通り過ぎましたけど」
「ああ、言ってなかったな。警察は今、引越しの最中でね。今回の捜査本部は、新しい警察署の方になるんだ」
黒木は前を向いたまま応える。その横顔を見ながら、恭介は不穏なものを感じた。何かおかしい。刑事というだけで、黒木を信用していいのだろうか。
マキナの組織が船木たちを殺したことを伝えれば、黒木は間違いなく情報を聞き出そうとするはずだ。しかし、これは明らかに、組織の「秘密保持」ルールに抵触する。警察が恭介の身の安全を保障しないかぎりは、軽率な行動をとることはできない。
例えば、アメリカの証人保護プログラムみたいに、別の名前と経歴を与えられ、見知らぬ土地で別人として暮らす。大袈裟ではなく、そこまでしないと、マキナの組織から完全に逃れることはできないような気がする。
いつのまにか車は工業地帯に入っていた。車の左側には町工場が並んでおり、右側は工事現場なのか、高さ3メートルほどの防護板が延々と続いていた。新しい警察署の近くだとは、どうしても思えない。
恭介が訊ねようとした時、黒木は急ハンドルを切った。工事現場に車を乗り入れるようだ。未舗装のデコボコ道を通って、防護板の内側に回りこむ。そこにあったのは、三階建ての古びた建物だった。
一言でいうと、それは廃ビルということになる。大半のガラスが割れており、壁にはペンキの落書きがなされている。閑散としていて、警察署でないことは明らかだ。いくら鈍感な恭介でも、だまされたことがわかった。
「黒木さん、どういうことですか?」
「尾白くん、君が厄介な組織に関わっていることはわかっている」黒木の両目は、乾いた鈍い光を放っていた。「刑事としてではなく、一人の人間として頼みたいことがあるんだ。しばらく付き合ってもらうよ」
「すいませんが、実は大事な用事があって」
「あまり手間をとらせないでくれ」
黒木は拳銃を抜き、銃口を恭介に向けた。回転式拳銃のニューナンブである。
恭介は反射的に両手を上げた。逆らえば撃たれる、と直感したからだ。殺意を向けられたのは昨日から二日連続である。
どうして、こんな目に合わねばならないのか。恭介は心の中で自分の不運を嘆いていた。
黒塗りの車は覆面パトカーではなく、黒木の所有車らしい。よれよれスーツと肩のフケから覚悟はしていたが、車内はひどく汚れていた。助手席に座ったのも、コンビニの弁当箱や古新聞、ペットボトルなどのゴミが後部座席に散乱していたからである。
「悪いね。掃除と洗濯、風呂が大の苦手なんだ。そのせいで、女房子供にも出て行かれたよ」恭介の心を読んだみたいに、黒木が苦笑交じりに言った。
「はぁ、そうなんですか」ぐらいしか恭介には言いようがない。会話が途切れたので、世間話のつもりで疑問を口にしてみた。
「テレビドラマの刑事さんは二人一組ですけど、本当は一人で行動することもあるんですね」
「いや、基本は二人一組だよ。今日は特別なんだ」
それっきり、また会話が途切れてしまった。恭介は横目で、黒木の顔を盗み見る。黒木は表情が乏しく、顔色も悪かった。肌は荒れていて、ガラス玉のような乾いた目をしている。
ようやく、警察署が近づいてきた。しかし、車はスピードを落とさず、そのまま通過してしまう。
「あの、警察署を通り過ぎましたけど」
「ああ、言ってなかったな。警察は今、引越しの最中でね。今回の捜査本部は、新しい警察署の方になるんだ」
黒木は前を向いたまま応える。その横顔を見ながら、恭介は不穏なものを感じた。何かおかしい。刑事というだけで、黒木を信用していいのだろうか。
マキナの組織が船木たちを殺したことを伝えれば、黒木は間違いなく情報を聞き出そうとするはずだ。しかし、これは明らかに、組織の「秘密保持」ルールに抵触する。警察が恭介の身の安全を保障しないかぎりは、軽率な行動をとることはできない。
例えば、アメリカの証人保護プログラムみたいに、別の名前と経歴を与えられ、見知らぬ土地で別人として暮らす。大袈裟ではなく、そこまでしないと、マキナの組織から完全に逃れることはできないような気がする。
いつのまにか車は工業地帯に入っていた。車の左側には町工場が並んでおり、右側は工事現場なのか、高さ3メートルほどの防護板が延々と続いていた。新しい警察署の近くだとは、どうしても思えない。
恭介が訊ねようとした時、黒木は急ハンドルを切った。工事現場に車を乗り入れるようだ。未舗装のデコボコ道を通って、防護板の内側に回りこむ。そこにあったのは、三階建ての古びた建物だった。
一言でいうと、それは廃ビルということになる。大半のガラスが割れており、壁にはペンキの落書きがなされている。閑散としていて、警察署でないことは明らかだ。いくら鈍感な恭介でも、だまされたことがわかった。
「黒木さん、どういうことですか?」
「尾白くん、君が厄介な組織に関わっていることはわかっている」黒木の両目は、乾いた鈍い光を放っていた。「刑事としてではなく、一人の人間として頼みたいことがあるんだ。しばらく付き合ってもらうよ」
「すいませんが、実は大事な用事があって」
「あまり手間をとらせないでくれ」
黒木は拳銃を抜き、銃口を恭介に向けた。回転式拳銃のニューナンブである。
恭介は反射的に両手を上げた。逆らえば撃たれる、と直感したからだ。殺意を向けられたのは昨日から二日連続である。
どうして、こんな目に合わねばならないのか。恭介は心の中で自分の不運を嘆いていた。
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