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カウンターバトル③
しおりを挟む恭介はマシンガンのように、ひたすら喋りまくった。命の危機が迫っているのだから、なりふり構っていられない。
「僕はルール違反を犯していません。もし、あなたが手を出したら、きっと問題になりますよ。事実、僕の首を絞めた殺し屋は、処分されたんでしょ。真壁マキナさんから聞きましたよ。数時間前に聞いたばかりですから、間違いありません。そうだ、マキナさんを呼んでください。話し合ってもらえば、わかってもらえるはずです。マキナさんはあなたの上司にあたるんでしょ?」
長身男は恭介の前で立ち止まった。彼の表情に変化はない。相変わらず、ニヤニヤ笑いを浮かべている。
「こんなの、おかしいですよ。勘違いで殺されるなんて、これほどマヌケなことはない。勘弁してくださいよ。とにかく、これは誤解です。すべて誤解なんです。僕は必死で抵抗したから、まだ注射を打たれていません。嘘じゃありません。本当です。本当ですから」
長身男の反応は冷ややかだ。聞き流しているように見える。
「僕は断じて、ルールに違反していないっ!」
恭介がさらに言い募ろうとすると、長身男はクロスボウの矢を手に取り、尖った矢先を恭介に突きつけた。ニヤニヤ笑いのまま、矢を握った右手を振り上げる。
矢は勢いよく振り下ろされた。何度も振り下ろされた。
ただし、恭介の身体に対してではない。彼を縛りつけたロープに対してだった。ロープが千切れて床に落ち、恭介は解放された。
「必死に弁明しなくたって、尾白くんたちのやりとりは全て承知している。君のことはずっとマークしていたんだ。今回のカードホルダーの中では、一番の有名人だからな」
やはり、恭介の一挙手一投足は、組織の目と耳にさらされていたらしい。
「あ、ありがとうございました」
殺し屋に助けられるというのもおかしな話だ。それも溝呂木を手にかけた殺し屋に。
「気にしなくていいよ。君を助けたわけじゃない。プロジェクトを妨害する邪魔者を排除しただけだからな」長身男は笑顔で告げる。「もし、君が今ここで、何かルール違反をおかせば、この手で遠慮なく始末する」
掛け値なしの本心だろう。長身男に人命救助や正義感といった概念はない。職業は殺し屋。それ以上でもそれ以下でもない。
長身男はニヤニヤしながら、黒木を見下ろしている。
「ふふっ、一般市民に薬物を使うなんざ、人間の風上にもおけないなぁ。公僕のくせに、娘を失って、頭がいかれちまったか。とことん哀れだねぇ」
殺人の高揚感もあってか、腹を抱えて笑い始めた。
その時、恭介の目の前で、信じられないことが起こった。黒木の死体が動いたのだ。ニューナンブを持った手がゆっくり持ち上がる。
恭介は目を大きく見開いた。死体が腕を動かしたり、目を開いたりするはずはない。
黒木は生きている。死に瀕しても復讐を果そうというのか。最後の力を振り絞り、銃口を真っ直ぐ長身男に向けている。的は大きく、2メートルと離れていない。
ようやく、長身男が恭介の視線に気づいた。銃口を向けられているうえに、外しようのない至近距離である。もはや、何もできない。
銃声が五度、轟いた。銃弾はすべて胸と腹に命中し、重要な臓器をことごとく破壊した。
長身男は天を仰ぎ、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。ニューナンブを握りしめた黒木の左手も力尽きて床に落ちた。
また、目の前で人が死んだ。二人の男が殺し合い、同時に亡くなった。
恭介は呆然と立ち尽くしていた。感情が認識に追いつくと、全身に震えがきた。
「ひ、110番にかけないと。いや、119番か」
スマホで通報しようとするが、指先が震えてしまい、思うようにいかない。
「ムダなことはしないでね、尾白恭介くん」
声のした方を振り向くと、ドア口のそばに一人の女性が佇んでいた。暗がりの中に、真っ赤なミニスーツから伸びた脚が、青白く浮かび上がっている。
「多忙な救命救急の手を煩わせることはない」
聞き覚えのある声だと思ったが、それもそのはずだ。神妙な面持ちで腕組みをしているのは、数時間前に別れたばかりの真壁マキナだった。
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