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淫らな女王様の蜜⑦

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 女性は皆ミステリアスで、元々、考えがわかりにくいけど、とりわけ安奈さんは読みづらい。真面目で聡明なのだけど、いくらかの天然が混じっているせいだ。

 とりあえず、相手の反応に合わせて、的確にアジャストする。仕切り直しをして、いいムードにもっていくことを心がける。そう思いながら、僕はベッドに戻る。

「すいません。安奈さん、お待たせしました」
「ごめんなさい。素人がでしゃばっちゃって」

 僕の言葉を遮るように、安奈さんが言った。

「私はサービスを求めるお客なんだから、プロであるシュウくんを信じて、すべて任せるべきだったよね」

 安奈さんは申し訳なさそうに、もう一度、頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

 手錠の件を言っているだろう。自分のペースで行っても、満足できるサービスは受けられない。そう気づいてくれたのだろうか? 彼女の中で何が起こったのか、僕には想像もつかない。

「安奈さん、頭を上げてください。何とも思っていませんから」

 あらかじめ考えていたように、僕は状況にアジャストする。

「ただ、一言だけ言わせてもらうと、セックスには互いの信頼関係が必要です。かりそめの快楽さえあればいい、と考える方もおられますが、僕はお客様との関係を大切にします」

「もしかして、私がこうしてほしいとお願いしたら……」
「できるかぎり、御期待に添うように善処ぜんしょしますよ」

「善処しますよって」クスリと笑った。「シュウくんって、言葉遣いが独特だね。仕事の打ち合わせをしているみたい。ああ、ごめんなさい。君には仕事だもんね」

 安奈さんは笑顔になると、とたんに可愛くなる。年下の分際で生意気だけど。僕は彼女の隣に腰を下ろし、優しく肩を引き寄せる。

「どんな風にしましょうか?」

 もちろん、セックスについてである。

「じゃあ……、できるだけ優しくしてくれる?私がするの、久しぶりだから……」

「わかりました。お任せください」僕たちはそっと唇を交わす。「もし、ストップしてほしい時は、遠慮なくおっしゃってください。もしも、口に出すのが恥ずかしいのなら」

 僕は手のひらで、彼女の二の腕をポンポンと軽く叩く。
「こうしてもらえたら、すぐに止めます」

「あ、それ、総合格闘技のテレビ中継で見たことがある。タップアウトっていうんでしょ。まいった、という意味ね」
「ええ、今回は静止の合図になりますが」

 セックスも見方によっては、格闘技なのかもしれない。そんなことを考えながら、僕は優しく、安奈さんをベッドに横たえる。


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