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クズ焦る⑩
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なるほど、謝りたくて店に来たのか。ていうか昨日の店裏のこと覚えてないって?じゃあ俺と話した内容も忘れてるか。
「あー…こちらは大丈夫ですよ。それよりも無事に帰れたみたいでよかったです」
思わず本当に覚えてないんですか?って聞きそうになった、危ない。お客様なんだから皆と同じようにちゃんと対応しないと。
「あ…ありがとうございます…!もしかして、店員さんがタクシー呼んで僕を乗せてくれたんですか?朝起きたらタクシー代のレシート握ってたので…」
「ああ、はい。そうですよ。でも僕達は呼んで乗せただけなので、あとは運転手さんにお任せしましたから…」
「いやいや!!ほんと、すみません!迷惑おかけして…!」
「あっ、い、いえいえ。気にしないでください。飲み屋ではよくあることですから…」
思い切り頭を下げられて、こっちが引いてしまう。昨日あんなに艶っぽい表情をしてふにゃふにゃになっていたとは思えないほど。
「でも、気をつけてくださいね。昨日一緒に来ていた方に…えっと、酔わされていたみたいで危なさそうだったので」
「えっ…!僕何かあったんですか!?」
「えっ」
____いや、覚えて無さすぎる!!無理やりヤられそうだったんだぞ?そんな強烈な出来事もすっぽり忘れるか?相当酒強くないんだな。
「店裏で一緒に来ていた人に、行為…というか強要されそうになってたんですよ。僕がたまたま出くわしたので止めたら帰っていきましたけど」
「…!!え」
「あ…、ま、まあ、僕が止めたので何もされてなかったと思います。でもああやって飲ませて悪いことしようとする奴もいますから。酒の場では強要されないように気をつけてくださいね」
「は、はい…」
メガネ君はしゅん…と小さくなって、気まずそうに席に座り込んだ。まだオープンしたばかりで他にお客さんもいないし、俺は気になったことをそれとなく聞いてみた。
「あの…、こんなこと聞くのもあれですけど…。よくあるんですか?今回みたいなこと…」
「へ?あ、ああ…はい。よく、ありますね」
____あるのかよ。
「僕…、ちょっと人と違う性的指向があって…。出会いも日常生活では中々ないですし、マッチングアプリで出会うしかないんですよね」
一一…人と違う指向って、もしかして男もイけるってことか?だとしたら、俺も同じだからその気持ちは分からなくもない。日常で早々出会えるもんでもないし。てことは、やっぱりこの人も俺と同じゲイ?
「そう…ですか」
「あっ、すみません!びっくりしますよね、こんな話…」
「いいえ、僕も分かりますよ。その気持ち」
「…え、」
俺がそう言うと、メガネ君は顔を赤らめて目を泳がせながら勢いよく下を向いた。
やばい。お客さんには自分のことは言わないようにしてたのに…。つい勝手に仲間意識が出て口が緩んだ。
「あ一…えっと、じゃあこの辺にして。今日は何か飲まれていきますか?一応ノンアルコールもありますけど」
誤魔化すように話題を変えると、メガネ君は手をモジモジしながら周りを見渡した。そしてこちらを見上げる。
「あっ、あの!お兄さん…」
「?は、はい」
「ち、違ったらごめんなさい。その…もしかしてお兄さんって…」
内緒話のように俺の方へ身を乗り出し口元に手を当てている所を見ると、俺が同族だとバレてしまったっぽい。やっちゃったな、と身構えていると俺の予想とは全く違う質問が飛んできた。
「その…もしかして、結構遊んでます?」
「……へ?」
「あ、ご、ごめんなさい。あの、さっき屈んでた時に首筋にタトゥーと…あと、その、キ、キスマーク…が見えて」
「!!?」
まさかすぎるその言葉に、慌てて首元を手で隠した。仕事中は見えないようにシャツのボタンをしっかり留めているのに…!もしかして、着替える時眠くてかけ間違えた…?
ていうか、キスマークって…!出来たてなら昨日会った宏紀につけられたに違いない。あいつーー!
「あっ、えと、いやいや…恋人かもしれない、ですよ?」
いつもならサラッと恋人がいるって嘘つけるのに、動揺したせいで余計に墓穴を掘ってしまった。
「…っい、いや、その言い方といい僕の嗅覚が言ってます…。お兄さんは遊んでる人だって…」
「きゅうかく!?」
「す、すごいあの、僕お兄さんのその感じがタイプで…」
え??
「そ、その感じって…?」
と、その時。店の扉が開き、女性客3人が入ってきた。
「!!!い、いらっしゃいませ」
2人揃ってビクーーー!っと肩を跳ね上げると、扉の音を聞いて裏にいた先輩もカウンターに出てきた。
「あ!!ご、ごめんなさい!僕はなんて失礼なことを!!ご馳走様でした!!」
「え!?あの!ちょっと!」
メガネ君は我に返ったように慌てて席を立つと、何も飲んでいないのに5000円を置いて出て行ってしまった。
「あれ?今の人なにか注文してた?」
「い、いえ、何も…」
「ええ!?なのにお金置いてったの!?」
「は、はい…」
はぁ…とバクバク跳ねる心臓を落ち着かせながら、とりあえず5000円は保管しておこうと手に取った。
____何なんだ、今の。恋人の有無じゃなくて遊んでる人かどうか聞かれたの初めてだし、かっこいいとか顔がタイプじゃなくて、「その感じ」がタイプってどういうことだよ?
こんなに動揺したのいつぶりだ。しかもさっきのメガネ君、急に昨日の酔ってた時みたいに色っぽかった。
「何も注文してないのにお金貰うわけにいかないからなぁ。星詩くん、それ裏の金庫に分かるように保管しといてくれる?どうにか返したいけど、今はとりあえずしまっておこう」
「は、はい…。ん?あれ?何か下に…」
お札の下に混じっていたのか、何か固い紙が落ちた。
「…ん?これ、名刺?」
「あー…こちらは大丈夫ですよ。それよりも無事に帰れたみたいでよかったです」
思わず本当に覚えてないんですか?って聞きそうになった、危ない。お客様なんだから皆と同じようにちゃんと対応しないと。
「あ…ありがとうございます…!もしかして、店員さんがタクシー呼んで僕を乗せてくれたんですか?朝起きたらタクシー代のレシート握ってたので…」
「ああ、はい。そうですよ。でも僕達は呼んで乗せただけなので、あとは運転手さんにお任せしましたから…」
「いやいや!!ほんと、すみません!迷惑おかけして…!」
「あっ、い、いえいえ。気にしないでください。飲み屋ではよくあることですから…」
思い切り頭を下げられて、こっちが引いてしまう。昨日あんなに艶っぽい表情をしてふにゃふにゃになっていたとは思えないほど。
「でも、気をつけてくださいね。昨日一緒に来ていた方に…えっと、酔わされていたみたいで危なさそうだったので」
「えっ…!僕何かあったんですか!?」
「えっ」
____いや、覚えて無さすぎる!!無理やりヤられそうだったんだぞ?そんな強烈な出来事もすっぽり忘れるか?相当酒強くないんだな。
「店裏で一緒に来ていた人に、行為…というか強要されそうになってたんですよ。僕がたまたま出くわしたので止めたら帰っていきましたけど」
「…!!え」
「あ…、ま、まあ、僕が止めたので何もされてなかったと思います。でもああやって飲ませて悪いことしようとする奴もいますから。酒の場では強要されないように気をつけてくださいね」
「は、はい…」
メガネ君はしゅん…と小さくなって、気まずそうに席に座り込んだ。まだオープンしたばかりで他にお客さんもいないし、俺は気になったことをそれとなく聞いてみた。
「あの…、こんなこと聞くのもあれですけど…。よくあるんですか?今回みたいなこと…」
「へ?あ、ああ…はい。よく、ありますね」
____あるのかよ。
「僕…、ちょっと人と違う性的指向があって…。出会いも日常生活では中々ないですし、マッチングアプリで出会うしかないんですよね」
一一…人と違う指向って、もしかして男もイけるってことか?だとしたら、俺も同じだからその気持ちは分からなくもない。日常で早々出会えるもんでもないし。てことは、やっぱりこの人も俺と同じゲイ?
「そう…ですか」
「あっ、すみません!びっくりしますよね、こんな話…」
「いいえ、僕も分かりますよ。その気持ち」
「…え、」
俺がそう言うと、メガネ君は顔を赤らめて目を泳がせながら勢いよく下を向いた。
やばい。お客さんには自分のことは言わないようにしてたのに…。つい勝手に仲間意識が出て口が緩んだ。
「あ一…えっと、じゃあこの辺にして。今日は何か飲まれていきますか?一応ノンアルコールもありますけど」
誤魔化すように話題を変えると、メガネ君は手をモジモジしながら周りを見渡した。そしてこちらを見上げる。
「あっ、あの!お兄さん…」
「?は、はい」
「ち、違ったらごめんなさい。その…もしかしてお兄さんって…」
内緒話のように俺の方へ身を乗り出し口元に手を当てている所を見ると、俺が同族だとバレてしまったっぽい。やっちゃったな、と身構えていると俺の予想とは全く違う質問が飛んできた。
「その…もしかして、結構遊んでます?」
「……へ?」
「あ、ご、ごめんなさい。あの、さっき屈んでた時に首筋にタトゥーと…あと、その、キ、キスマーク…が見えて」
「!!?」
まさかすぎるその言葉に、慌てて首元を手で隠した。仕事中は見えないようにシャツのボタンをしっかり留めているのに…!もしかして、着替える時眠くてかけ間違えた…?
ていうか、キスマークって…!出来たてなら昨日会った宏紀につけられたに違いない。あいつーー!
「あっ、えと、いやいや…恋人かもしれない、ですよ?」
いつもならサラッと恋人がいるって嘘つけるのに、動揺したせいで余計に墓穴を掘ってしまった。
「…っい、いや、その言い方といい僕の嗅覚が言ってます…。お兄さんは遊んでる人だって…」
「きゅうかく!?」
「す、すごいあの、僕お兄さんのその感じがタイプで…」
え??
「そ、その感じって…?」
と、その時。店の扉が開き、女性客3人が入ってきた。
「!!!い、いらっしゃいませ」
2人揃ってビクーーー!っと肩を跳ね上げると、扉の音を聞いて裏にいた先輩もカウンターに出てきた。
「あ!!ご、ごめんなさい!僕はなんて失礼なことを!!ご馳走様でした!!」
「え!?あの!ちょっと!」
メガネ君は我に返ったように慌てて席を立つと、何も飲んでいないのに5000円を置いて出て行ってしまった。
「あれ?今の人なにか注文してた?」
「い、いえ、何も…」
「ええ!?なのにお金置いてったの!?」
「は、はい…」
はぁ…とバクバク跳ねる心臓を落ち着かせながら、とりあえず5000円は保管しておこうと手に取った。
____何なんだ、今の。恋人の有無じゃなくて遊んでる人かどうか聞かれたの初めてだし、かっこいいとか顔がタイプじゃなくて、「その感じ」がタイプってどういうことだよ?
こんなに動揺したのいつぶりだ。しかもさっきのメガネ君、急に昨日の酔ってた時みたいに色っぽかった。
「何も注文してないのにお金貰うわけにいかないからなぁ。星詩くん、それ裏の金庫に分かるように保管しといてくれる?どうにか返したいけど、今はとりあえずしまっておこう」
「は、はい…。ん?あれ?何か下に…」
お札の下に混じっていたのか、何か固い紙が落ちた。
「…ん?これ、名刺?」
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