早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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なんで

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だが、気付けば午後15時。那月の意気込みと願いは今日も実ることはなく1日が終わろうとしている。今日3、4時間目の授業では、グループになって取り組む課題があった。同じグループの男子と話せるチャンスだったのに、相変わらず上手く話せなかった。

しっかり話そうとする度に背中に冷や汗が伝い、心臓がドクドクと激しく動くから口にまでその鼓動がくるような感覚になってしまう。側から見れば挙動不審。やはり今回も煙たがられてしまった。

一一一篠井ってなんか変だよね?
一一一俺、まともに話したことないけど。
一一一俺も。ビビられるんだよ、何もしてねーのに。
一一一でも女子とは普通に話してるよな?
一一一ただの女好きなんじゃね?

聞こえるような、聞こえないような、そんな内容をクラスの男子に話されるのも相変わらず。

中学の頃、一度だけ勇気を出して「子供の頃、辛いことがあって男の人が怖いんだ」とクラスの人に理由を話してみたこともあった。でも理解されないどころか、馬鹿にされたり、わざと怖がらせてきたりとイジられる標的になってしまったのだ。

それ以来、那月は明衣以外にトラウマのことを話すのはやめた。高校でも、理由を話したらきっと中学の頃みたいになってしまうんじゃないかと怖い。

だったら、女好きだと言われようが、キモいと言われようが耐えて耐えて…自力で何とか克服するしかないと決めていた。でも高校生になって数ヶ月、まだその希望はカケラも見えていない。

「あー掃除かぁ。那月とアイス食べに行きたいー」

「それは今度ね。今日は掃除頑張って」

「うー、はーい。じゃあバイバーイ!」

「バイバイ」

ホームルームの後、下校時間になり那月はめんどくさそうにしている明衣を送り出し、鞄を手に教室を出た。部活に向かう人や帰宅する人が往復する中、廊下を歩いていく。

その中で、前から楽しそうに騒ぎながら歩いてくる男子達が間近に来た。そのうちの1人と肩がぶつかりそうになった時、那月の体はビクッ!と勢いよく反対側へ避ける。

「一一一っはぁ、」

那月は自分の手が震えているのを立ち止まってじっと見つめた。最近話すどころか、こうやって不意に触れることも怖くなっている気がする。

年々酷くなっているのは感じていたが、これ程なのかと自分に苛立ちさえ覚え始めた。これでは克服するどころか、悪化していく一方なのではないかと。

ーーーなんで、なんでなんで。僕はこんなにダメなんだ。
ーーー高校では克服するって決めたじゃないか。
ーーーいい加減怖がるなよ、自分。ビビリが。この小心者。意気地なし。

自分にイライラしたところで何も変わらないのに、分かっているのに。行き場のないため息を深くついて、那月はまた廊下をゆっくり歩き始めた。

「…あれ、明衣だ。なんだかんだちゃんと掃除してるな」

廊下の窓からふと外を見下ろすと、中庭で掃除している明衣を見つけた。またパーカーを脱げと言われたのか、腰に巻いて長いほうきで地面を掃いている。明衣はそういう奴だ。言動は少し悪っぽくても、根は真面目で優しい。

外からの風が心地よくて、しばらくボーッと窓から様子を見ていると、明衣に近付いていく1人の男子が見えた。腕に風紀委員のバッジをつけている。上履きの色が違うから3年生だ。

もしかして、今日休み時間に廊下から明衣に声をかけてきた風紀委員の中にいた人だろうか。那月が目が合って、つい逸らしてしまった男の先輩かもしれない。顔はしっかり見えないが、今日見たくせっ毛の黒髪が柔らかそうに風に揺れているから。

掃除のチェックに来たようで、その先輩に何か言われてから、明衣は意気揚々とほうきを片付けに行った。

「…あ、終わったのか」

那月がいる所は2階で、窓から眺めているといってもポソッと呟いた独り言が下まで聞こえるはずはない。

なのに、まるでその独り言が聞こえたかのように、タイミングよく風紀委員の先輩は振り返り、那月のいる方を見上げた。
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