早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

文字の大きさ
8 / 94
1

助けて

しおりを挟む
絶望的に思えた、頭が真っ白になった瞬間、視聴覚室の扉が開いた。薄暗い部屋の中、外から差し込んできた光に3人はビクッ!と肩を跳ね上げる。

「……ん?」

扉を開けた本人は、目の当たりにしたその状況を上手く飲み込めていないようだ。それもそう。まさか学校の視聴覚室の中で、誰かが襲われそうになっているなど想像もできないはず。

「おい、鍵締めてなかったのかよ!」
「いやあれ?締めたはずだったんだけど?」

那月は部屋に入ってきた人を、藁にもすがる思いで見上げる。

「え、何してんの?君たち」

初めて声を聞いた。そこにいたのは、昨日の何度か目が合った、あの風紀委員。男の先輩だった。黒くて少し長めの前髪に、くせっ毛。大きな背、沈むような低い声。視線を逸らしてしまったせいで見えなかった顔も、今はよく見えている。

なんの偶然か、でも今はそれよりも奇跡的に入ってきたこの人しか助かる望みがない。

「1年生?だよね」

さすがに、先輩もただならぬ雰囲気に気付いたようで、手に持っていたノートをバンッと机に置いて3人に近付く。

「いや、あのー。ちょっと取り込み中なんで出て行ってもらっていいっすか?」
「そうそう。何でもないっす!よくあるヤツですよ!友達とちょっと揉めちゃってー、でも今仲直りしてますんでー」

嘘を取り繕ってこの場を乗り切ろうとしているのか、3人は那月を隠すようにして、先輩へと擦り寄る。だが那月も震える手足で必死に逃げようと、床を履いつくばった。

「…でも、その子泣いてるけど」
「あーそれはですね~…」
「チッ、うぜー!早く出てけよ!陰キャが」
「おい!」

そのうち、痺れを切らした1人が先輩の胸ぐらを掴み、思い切り入り口へと押し出す。その力強さに先輩はよろけて後ずさりをした。

一一一待って!!行かないで!!!

そう那月が思った瞬間。

「うわっ!!」

胸ぐらを掴んでいた1人が、音を立てて床に倒された。それと同時に腕を思い切りひねり上げられている。

「いっ!!いてて!!いてぇ!!」

まさかの出来事に、那月を含めた全員が息を飲んだ。大人しそうで押し負けたと思っていた先輩が、そいつをひねり上げていたからだ。

「は?まじか」
「お、おい…」

相当痛がる声が聞こえた後、先輩は腕を離しそいつを床に放り投げた。他の2人はビビったように立ち上がり、そいつに駆け寄る。

「…あーごめん。俺合気道習ってたから、つい」
「……っ!」
「ここ放課後、委員会で使うから君達が早く出て行ってくれない?邪魔」
「お、おい!行くぞ!」
「チッ、いってぇ…!」

先輩の気迫に押され、3人はバタバタと視聴覚室を出て行った。静かになった部屋に残ったのは、那月と先輩だけ。思わぬ出来事に、那月はポカンとへたりこんだまま。

先輩はそんな那月を気にせず、さっき机の上に置いた散らばったノートを揃え始めた。

一一一助かった、助かったんだ。ありがとうって言わないと。この人が来なかったら今頃どうなっていたか…。お礼を、お礼を言わないと。

「…っあ、あ、あの、」
「ん?」
「っ…そ、その、あ」

だが、こんな時にも言葉は出てこない。それどころかさっきの恐怖がまだ残っているのと、一気に安堵したせいで手と口の震えも止まらない。

一一一助かったけど…こんな所を見られて、挙動不審な所も知られて、また気持ち悪がられる。それとも面白がられる?さっきみたいに…。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...