早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

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助けて

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絶望的に思えた、頭が真っ白になった瞬間、視聴覚室の扉が開いた。薄暗い部屋の中、外から差し込んできた光に3人はビクッ!と肩を跳ね上げる。

「……ん?」

扉を開けた本人は、目の当たりにしたその状況を上手く飲み込めていないようだ。それもそう。まさか学校の視聴覚室の中で、誰かが襲われそうになっているなど想像もできないはず。

「おい、鍵締めてなかったのかよ!」
「いやあれ?締めたはずだったんだけど?」

那月は部屋に入ってきた人を、藁にもすがる思いで見上げる。

「え、何してんの?君たち」

初めて声を聞いた。そこにいたのは、昨日の何度か目が合った、あの風紀委員。男の先輩だった。黒くて少し長めの前髪に、くせっ毛。大きな背、沈むような低い声。視線を逸らしてしまったせいで見えなかった顔も、今はよく見えている。

なんの偶然か、でも今はそれよりも奇跡的に入ってきたこの人しか助かる望みがない。

「1年生?だよね」

さすがに、先輩もただならぬ雰囲気に気付いたようで、手に持っていたノートをバンッと机に置いて3人に近付く。

「いや、あのー。ちょっと取り込み中なんで出て行ってもらっていいっすか?」
「そうそう。何でもないっす!よくあるヤツですよ!友達とちょっと揉めちゃってー、でも今仲直りしてますんでー」

嘘を取り繕ってこの場を乗り切ろうとしているのか、3人は那月を隠すようにして、先輩へと擦り寄る。だが那月も震える手足で必死に逃げようと、床を履いつくばった。

「…でも、その子泣いてるけど」
「あーそれはですね~…」
「チッ、うぜー!早く出てけよ!陰キャが」
「おい!」

そのうち、痺れを切らした1人が先輩の胸ぐらを掴み、思い切り入り口へと押し出す。その力強さに先輩はよろけて後ずさりをした。

一一一待って!!行かないで!!!

そう那月が思った瞬間。

「うわっ!!」

胸ぐらを掴んでいた1人が、音を立てて床に倒された。それと同時に腕を思い切りひねり上げられている。

「いっ!!いてて!!いてぇ!!」

まさかの出来事に、那月を含めた全員が息を飲んだ。大人しそうで押し負けたと思っていた先輩が、そいつをひねり上げていたからだ。

「は?まじか」
「お、おい…」

相当痛がる声が聞こえた後、先輩は腕を離しそいつを床に放り投げた。他の2人はビビったように立ち上がり、そいつに駆け寄る。

「…あーごめん。俺合気道習ってたから、つい」
「……っ!」
「ここ放課後、委員会で使うから君達が早く出て行ってくれない?邪魔」
「お、おい!行くぞ!」
「チッ、いってぇ…!」

先輩の気迫に押され、3人はバタバタと視聴覚室を出て行った。静かになった部屋に残ったのは、那月と先輩だけ。思わぬ出来事に、那月はポカンとへたりこんだまま。

先輩はそんな那月を気にせず、さっき机の上に置いた散らばったノートを揃え始めた。

一一一助かった、助かったんだ。ありがとうって言わないと。この人が来なかったら今頃どうなっていたか…。お礼を、お礼を言わないと。

「…っあ、あ、あの、」
「ん?」
「っ…そ、その、あ」

だが、こんな時にも言葉は出てこない。それどころかさっきの恐怖がまだ残っているのと、一気に安堵したせいで手と口の震えも止まらない。

一一一助かったけど…こんな所を見られて、挙動不審な所も知られて、また気持ち悪がられる。それとも面白がられる?さっきみたいに…。

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